おもちとコタツ (ショートショート 年の瀬と猫)
これ↓のシリーズです(読まなくても大丈夫です)
↓②
おもちとコタツ
「今年ももうすぐ終わりか…」
私はこたつに入ってみかんを食べていた。パパとママは紅白を見ながら、ママの推しがもう少しで出るとか何とか話している。床暖房のフローリングでおもちが丸くなっていた。
手持ちぶさたに
「おもちー」
と呼んでも、ぴんぴんと耳を動かすだけで目を開けようともしない。
つまらなくなってコタツの上に両腕を置いて頭をのせる。
おもちは少し変わった猫だ。見たものが背中の柄になって映し出されるけど、今の背中は白いままで何も映さなかった。
夢も見てないのかな…などと思っていると、だんだんそれが広がっていく。
気がつくと、私の視界は一面真っ白だった。
「わあ…」
一体どこに来たのだろうと周りを見回す。外にいるみたいに寒くて、息が白い。空は黒く、星はみえない。辺りはぼんやり発光して、それがちらちらと揺れている。しゃがんで触ってみると冷たくてサラサラしていた。
「雪だ…」
手ですくって、手のひらを傾けてこぼしてみる。それはちらちらと落ちながら、虹色の光を放った。見とれていると
「まゆちゃん」
と呼ばれて振り返る。
おもちがいた。2本足で立っている。
「君も来たの?」
「うん」
「どこなんだろう、ここ」
「うーん、分かんない」
あっけらかんと言われた。
「でも、こんな広いところにせっかく来たんだから遊ぼうよ」
彼は前足で雪をすくうと、器用に丸めてひょいと投げてくる。
「わあ!」
思わず声を上げた。
「もう、やったな」
私も雪玉を作っておもちに軽く投げる。彼は笑いながらひらりと躱した。玉は近くに落ち、花火みたいに七色の光をパッと散らす。
そうやって遊んでいると、何かがニュッと姿を表した。
「誰?」
と鋭い声を上げる。雪だるまみたいに見えたそれは、羊だった。やっぱり2本足で立っている。
「ここ、僕の庭なんだけど」
なんだか怒ってるみたい。
「ごめんなさい」
「早く出て行ってくれない?」
「だけど、気がついたらここにいて。帰り道も分からないの」
「そうなんだ」
少し声の調子が和らいだ。
「そっか… うーん」
顔をしかめながら考えている。
「じゃあ、とりあえず僕の家へ来る?」
「え、いいの」
「迷子なんでしょう」
そう言ってトコトコ歩いて行くので、私とおもちは後をついて行くことにした。
やがて、丸太小屋のような家が見えてくる。
「ただいま」
彼はその中へ入った。
「おかえり」
似たような羊がいる。ニコニコと笑っていた。
「あら、お友達?」
「うん、まあ」
「いらっしゃい」
彼女は、火にかけた鍋からコップに何か注いで渡してくれる。
「お隣のヤギさんからのおすそ分けよ」
どうぞと勧められ、ありがとうとお礼を言ってひと口飲んだ。ヤギの乳は飲んだことがなかったけど、独特な匂いがしてさっぱりしている。
湯気がふわりと顔に当たった。それがだんだん濃くなって、もくもくしたものが密集してくる。
──と思ったら、気がつくとコタツの掛け布団の上で横になっていた。頬に中綿が当たっている。
「あれ…」
と起き上がった。
すぐ横におもちが丸くなっている。口をもぐもぐと動かしていた。
「ふふっ」
たぶん同じ夢を見ていたみたい。外を見ると、空から白いものが降っている。
「わあ、雪!」
どうりで寒いと思った。私は膝掛けを肩に羽織る。
「初詣、大変そうね」
もうすぐ終わりそうな紅白を見ながらママが言った。パパはお酒を飲み過ぎて、口を開けて赤い顔で眠っている。
「止んでから行こうよ」
と返す。
私はおもちに
「来年もよろしくね」
と言うと、彼はあーんとあくびをした後、また目を瞑っていた。
了(1400字)
Nolaノベルさんの『年の瀬と猫』というお題で短編を書きました。1000字以内なのでこちら↓は短縮版です。
どうぞよろしくお願いします!
前回↓(編集部の注目作品に選ばれてました)
