おもちと秋刀魚(ショートショート)
これ↓のシリーズです。また書けるといいな(読まなくても大丈夫です)
おもちと秋刀魚
僕はおもち。まゆちゃんが飼っている猫だ。家の中にいるけど、時々外で散歩している。ここのところずっと暑かったけど、朝夕は涼しくなってきた。
ご飯を食べて昼寝した後、こっそり家を抜け出す。近くの商店街をぶらぶらしていた。
「今日も活きのいいのが入ってるよー!」
おじさんが大きな声で呼び込みをしている。同時に、魚のいい匂いもしてきた。僕はそっちへ近寄っていく。店先にカツオやサバ、エビなどがたくさん並べてあった。
「わあ…」
まゆちゃんのお母さん、何か買ってくれないかな…などと思っていると
「猫さん、猫さん」
と声がする。
誰かが僕を呼んでる…? キョロキョロと辺りを見回した。と、ひょいと1匹のサンマが顔を上げる。
「僕たちを食べたそうな顔をしてますね」
「え?」いや、そりゃ猫だからね。
「退屈なので賭けをしませんか」
「えっ」
「ここにじっとして売られるより、あなたと遊ぶ方が楽しそうなので。
どうします?」
僕は考えた。盗ったら、魚屋のおじさんに怒られるだろうし、まゆちゃんもご飯をくれないかもしれない。
「私は脂が乗っているからおいしいですよ」
とピチピチと尾びれを動かした。
「あなたがのらないなら、私は海へ帰ります。では」
魚はそう言うと、ぴょんと跳ねて道路へ降りる。
「あっ…!」
僕は声を上げた。サンマはそのまま空中をスイーッと泳いでいく。
泳げるの? 僕はびっくりした。
このまま放っておいたらどこかへ行ってしまう。捕まえたら食べていいって言ってるし、とりあえず追いかけよう。急いで後を追った。サンマはスイスイと道を泳いで行く。動きが早い。歩いている人の間を縫うように走っていった。
「待って!」
魚は草の茂みに隠れたり、細い路地へ入ったりする。僕はいろんなところをくぐったり、迷ったりしながら後を追いかけた。距離を縮め、必死に前足を伸ばす。
あとちょっと、と思った瞬間、フッといなくなる。サンマはポチャンと海へ飛び込んだ。
「あ…」
水中へ入って姿が見えなくなった。と思ったら、スーッと上がって顔を出す。
「海に着いちゃいましたね。どうします?
私がこのまま逃げてしまえば、こちらの勝ちですよ」
そう言って、スイスイ泳いでいた。ムムム…と思ったが、思い切ってぴょーんと海へ飛び込む。
ザブーン! 目を開けたけれど、魚は見当たらない。体がブクブクと沈んでいく。
まずい。泳がないと溺れてしまう、と手足をばたつかせた。
けれど、どっちが上なのかよく分からない。息が苦しくなってきた。早く息を吸わないと…でも視界が暗くなって、もう何も見えなくなった。
「…!」
「…、…ち」
誰かの声が聞こえる。誰…?
「おもち、どうしたの?」
「…?」
僕はまぶたを開けた。ここは…
「なんか苦しそうだったけど」
そう言って頭を撫でられる。周りを見渡すと、まゆちゃんの家のリビングだった。
…あれ?僕、海にいたんじゃ…と目を瞬かせた。
「なんか変な夢でも見てた?」
そう言って彼女は笑う。
夢…? 僕は首をかしげる。じゃあ今までのは… なんだ、そっか…。
ホッとしたのと、疲労でぐったりした。
「おもち、なんだか疲れてる? さっきまで眠ってたのにね」
まゆちゃんは僕を抱き上げて膝に乗せてくれる。僕は力なくゴロゴロと喉を鳴らした。
「もう少し寝てたら」
彼女は僕の頭を優しく撫でる。
目をつむって、今度こそサンマを食べられる夢が見れるといいなと思いながら、夢の世界へとまた落ちていった。
了(1390字)
Nolaノベルさんの「猫と秋の味覚」というお題で短編を書きました。1000字以内なのでこちらは短縮版。
どうぞよろしくお願いします。
次の話↓
