14話 そば Soba: Cold Is Better 【波打際編】波打際スケッチ Sketches of the Shoreline ~AIと創る青春物語~
杏子は仕事を終え、古い雑居ビルを出た。
どういうわけか今日は客が少なく、手持ち無沙汰な一日だった。
杏子は主婦だが、夫は単身赴任で家を空けている。
そのせいか、家のことをあまり気にしない生活がすっかり身についていた。
「たまには飲んでいこうかな」
そうつぶやき、近くの蕎麦屋に入った。

天ぷらを揚げる音が聞こえ、お蕎麦の醤油の出汁の良いにおいがする。
天ぷらや厚揚げは、ちょっと飲むにはちょうどいい。
少し迷ってから、焼酎を頼んだ。
満席ではないが、席はほとんど埋まっている。

ふとカウンターを見ると、杏子は息をのんだ。
高齢の男性の後ろに――天狗が立っている。
どこかで見た気がした。
そうだ、高校生の男の子の後ろにあの姿があった。
……まあいい。
今は仕事中じゃない。
杏子は何事もなかったように、そばを注文した。
やっぱり、そばは冷たいのがいい。
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