『新・四字熟語』(無料お試し版)
[…]きこり兜虫たちを病んだ天皮の樹木、若やぐ湖、眼きびしき山羊たち、百足面の奇跡、翼のかわりに悲翼を、裸足のかわりに愛を着る処女鷲、藁しべからつぎつぎと世界を吐きだし、屈託なく大笑いする少年、そして幼石の川床もあった。[…]
――V・フレーブニコフ『罪人の誘惑』
V・フレーブニコフの “新造語”
この一節は、20世紀ロシア詩の創始者ヴェリミール・フレーブニコフのデビュー作『罪人の誘惑』(1908年)のものです。この作品には「おびただしい数の造語」(同書 p.73)が使われており、それについて、著者の亀山郁夫先生はこう書かれています――
[…]「真実花によえる」「百足面の」「幼石の」「疑翼の」「刺まなざしの」「濡れ声の」「黙尾の」「思土の」といった一連の造語は、意味論的にも音韻論的にも、既存の形容詞の硬直した一面性を打ちやぶり、数少ない読者にもたらされた影響の強さを否定することができない。
このうち冒頭の引用に含まれているのは〈百足面の〉と〈幼石の〉だけですが、『罪人の誘惑』では他にも、〈真実花によえる〉〈疑翼の〉〈刺まなざしの〉〈濡れ声の〉〈黙尾の〉〈思土の〉等の造語が使われていて、「数少ない読者に」相当の影響を与えたそうです。
ちなみに、この作品が書かれたのは1908年ですが、これと近しい文学であるシュルレアリスムが誕生したのは1924年(もしくは1919年)なので、それに先んじていました。また、『笑芸』の新約聖書であるA・ブルトン『溶ける魚』の一篇に匹敵し得るほどの特異で魅惑的なテクストです。
“新造語” の創造
そのフレーブニコフが中心となっていたロシア未来派の文集『社会の趣味への平手打ち』にはこうあります――
一、辞書のボキャブラリーを自由語と派生語でふやすこと。(新造語の創造)
二、これまで存在してきた言語を徹底的に憎悪すること。
二の「これまで存在してきた言語を徹底的に憎悪すること」という言い方はかなりキツいですが、僕も既存語というのはつまらないと思います。何度も使われていて聞き飽きています。(ここで、ゴーリキーの『どん底』のサーチンの言葉を引くのは止します。) そして、「一、辞書のボキャブラリーを自由語と派生語でふやすこと。(新造語の創造)」 既存語に飽きたのなら、新しい言葉を創らねばなりません。そうして、僕の『もし君に脳の電荷を神に手渡し、あなたはどう?』では、大量に新造語を作りました。フレーブニコフという人はその生涯で数万もの(!)新造語を作ったそうですが、彼への挑戦として「No.15 ~或いは、V・フレーブニコフへ~」という篇があります。これは2~3ページですが、全語が新造語です。すべて新しく作りました。
“超意味”
ここでついでに、ロシア未来派の重要な概念である「超意味」というものを紹介します。ロシア文学研究者の小澤裕之先生によれば――
「заумь ザーウミ」とは、「за ум ザ・ウーム」(理知を超える)という言い回しを基にした新造語であり、「заумый язык ザウームヌィ・イズィク」(理知を超えた言語)、つまり理解不能の新造語全般を指示する記号である(そのため、「超意味言語」と意訳されることもある)。
こうあるように、ザーウミというのは「理知を超えた言語」なのですが、ここでは「理知を超える」ということについては触れません。今欲しいのは、「理解不能の新造語全般」です。なお、同書ではその例として、「ドゥイール ブール シシュイール」(p.56)が挙げられていますが、これは音だけで構成された抽象語とも言えます。僕の前投稿の『新しい諺』(無料お試し版)に〈36.うちぬゎけゑにょーびょ〉というのがあるのですが、これもザーウミです。(そこから40まで、すべてザーウミです。) これはひらがなですが、漢字での新造語もあり、それをこの『新・四字熟語』(無料お試し版)でお見せしようと思います。
『新・四字熟語』について
漢字での新造語は、最初は二文字や三文字だったのですが、作っていくうちに自然と「四字」になっていきました。理由は簡単で、日本語はそういう文化だから、です。或いは、僕は四字熟語というものを新造語の “形式” としています。
先に、ザーウミを「理解不能の新造語全般」として紹介したのですが、新・四字熟語には理解ができそうな(または、できる)ものも多くあります。しかし、漢字で造語するにあたり、読み方や意味の分からない漢字を使ったりしています。その漢字の持つ雰囲気だけで使ったりしています。そのため、新・四字熟語の意味や使用法について訊かれても分かりません(!)。それらの解釈等はご自身で(愉しんで)お考えください。また、コメント欄や自分の記事に書いてもらっても構いません。
今回は無料お試し版ということで、日本語での新・四字熟語は簡単なものを30載せます。その後に、中国語での新・四字熟語を10、その後に、未知の「漢字」での新・四字熟語を5つ載せます。これらのほとんどが『もし君に~』で(散文・流れの中で)使ったものですが、この作品では新・四字熟語を200くらい使っています(四字以上のものも含め)。今回はそのほんの一部をお見せします。
『新・四字熟語』の完成版(販売作品)では、さらに100~200ほど作る予定で、合計300~400ほどになるかと思います。販売価格は300~400円ほどにする予定です。(だから、一熟語1円です! 今作も「内職」のようなものです。) しかし、文学・芸術的には、新造語の “古典” にしたいと思っております。
それでは、前置きが長くなってしまいましたが、『新・四字熟語』をどうぞ――
新・四字熟語
脳尻乱幸
木肉雪血
伝魚水答
夢水夢氷
五深七影
地軸粉雪
沈虫盲星
世世除喪
哭涎蛮痙
虚青撲臭
汚真汚華
絶美謝乳
美死電睡
乖魚断悶
油尋歯冥
爪夜霧釘
深淫勃聖
艶祆祝⿄
紅不檎零
體髒犯璃
賿窈嬀凛
峩峨蟹蠏
蛾噴爆除
智屁智糞
絶突死笑
靣龠霝霛
十兠朮睂
㒼㫋㫄㪅
簴簺簫簽
鱲黶釄鬮
中国語で新・四字熟語










未知の「漢字」で新・四字熟語





『新・四字熟語』(無料お試し版)は以上です。いかがだったでしょうか?
今回は合計40ほどでしたが、完成版(販売作品)では300~400になります。全体構成は、日本語が半分、中国語が4分の1、未知の「漢字」が4分の1、というくらいを予定しています。気に入って頂けた方はぜひご購入ください。
ロシア未来派のフレーブニコフの影響で新造語を作り始めたのですが、次第に中国語でも作るようになりました。中国語の漢字には、画数が馬鹿みたいに多く強烈なものやチャーミングなものや気持ち悪いものが多く、新造語が作りたい放題です。「笑いの文学」は面白いことを書くことを目指すのですが、それが次第に「面白い文字を使うこと」になっていきました。(奇しくも、ロシア未来派達も「文字そのもの」に拘っていました。) そして、多分、漢字を制するものが「笑いの文学」を制す、と思います。
ここまで「未知の「漢字」」と呼んでいたものについてですが、ここでは触れられません。それでも知りたいという方は、ぜひ次の記事をご覧ください――
この山本羽化さんの記事は、note を始める前から読んでいて、『もし君に~』を書く時にかなり参考にさせて頂きました。この作品中の一篇は、この記事にある文字のみで書いていたりします。この記事が無かったら『もし君に~』は別のものになっていたかもしれません。今でもトップクラスにお気に入りの記事です。(この中の「オモコロ」という人達の記事もかなりおススメです。) 山本羽化さん、ありがとうございました!
最後に。僕は「笑いの文学」の本質(媒体)を文字としているのですが、現在のところは活字です。しかし、日本には “書” という究極の文字芸術があります。ロシア未来派達も手書きの詩を大事にしていましたが(ロシア未来派は『笑芸』の先祖です)、書は凄いですよ――
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