インフラ化するエンタメと、IPを求める出版界。その狭間で消耗している作家が、自分を責める前に知っておきたいこと|書籍化ログ(#創作論 #Web小説 #note #ランキング #エッセイ #読まれない)
こんにちは。こんばんは。
普段はラノベを書いている「うら表紙」と申します。
最近、「なんとなく焦る」「理由はわからないけれど落ち着かない」。
そんな感覚を抱えながら過ごしている人が増えたように感じています。
私も、その一人でした。
最初は、
先日書いたエブリスタの厳しい選評や賞への落選が原因なのだと思っていたんです。
でも、時間をかけて考えてみると、それはきっかけに過ぎませんでした。
もっと根本的な理由が、今のWeb小説市場そのものにあったのです。
そしてそれは、
今、多くの書き手が直面している問題とも関係があるように感じています。
●書き手を襲う「行き場のない焦り」の正体
様々なプラットフォームに小説やエッセイを投稿していると、
どうしても「手ごたえが感じられない」と思う瞬間があります。
世の中に自分の物語が本当に届いているのかわからない。
自分では面白いと思って書いているけれど、世間とズレている気がする。
これでいいのかなと不安になりながらも、
手探りで進むしかない状況。
こういう不安を抱えながら精神をすり減らしている書き手は、
きっと少なくないと思います。
私自身も、そういった「行き場のない焦り」や「漠然とした不安感」に
押しつぶされそうになることが何度もありました。
そして、その問題の解決策は
「自分の才能」や「センス」「感性」の中にしかないと
思い込んでいたのです。
けれど、どんなに自分の中に答えを求めても
焦りや不安がなくなることはありませんでした。
そんな時、
高市政権が「エンタメ立国」に向けた投資を行っていくというニュースを見て、
自分ではどうしようもない市場の「ある構造」に気付きました。
●読まれるエンタメの条件
いまは、スマホを開けば360度コンテンツが溢れています。
動画も、小説も、漫画も、ゲームも。
もはや娯楽というより、
電気や水道のような「生活インフラ」に近い存在になっているのではないでしょうか。
インフラに求められるのは、
「すぐ使えること」と「期待通りであること」です。
蛇口をひねって水が出るまで30秒も待たされたらイライラしてしまいますよね。
それと同じように、今の読者さんも「あらすじだけで内容を把握したい」
「重い展開を避けたい」と思うようになっています。
現代人は毎日、本当にたくさんの情報にさらされています。
仕事も、人間関係も、ニュースも、SNSも。
さらされる情報量は年々増え、
昭和の社会人が一日で浴びていた情報量を
現代人はたった一時間で浴びていると言われるほど。
一日の終わりに心も頭もクタクタになるのは当然です。
だから、エンタメくらいは
安心したい。
頭を使いたくない。
解放されたい。
そう思ったって何らおかしくありません。
私もそういう癒されたい側の人間です。
だから、現代の読者さんが「効率よく摂取できる物語」を求める気持ちも、
決して我慢ができなくなったからではないというのがよくわかります。
だからこそ、
プラットフォームのアルゴリズムも、
「手軽に安心を届けられる作品」を高く評価するようになりました。
●アルゴリズムと出版社の板挟み
しかし、ここで視点を変えて、
出版社の動きを見てみると、まったく違う景色が見えてきます。
出版社が今、
莫大な予算をかけて探しているのは、
世界市場で映像化やゲーム化まで広げられる「IPの種」です。
そして、そこに必要なのは、
読者さんが普段は避けたくなるような絶望や挫折、
練り込まれた設定、
重厚な人間ドラマ、
それを乗り越えた先にある大きなカタルシス
が描かれる物語。
つまり、
インフラのように毎日飲める水道水ではなく、
こだわりと時間をかけて熟成された高級ワインを探しているわけです。
読者さんが求めるのは、疲れた心を癒す「安全な水」。
出版社が探しているのは、世界に届けるための「重厚なワイン」。
この180度違う二つのニーズの間に、私たち作家は立っています。
アルゴリズムに合わせれば、
多くの人に届きやすくなる一方で、
出版社が求めるような厚みのある展開や起伏は削られてしまう。
逆に、重厚な物語を書けば、
今度はアルゴリズムに埋もれ、
読者さんの目に触れること自体が難しくなる。
この板挟みこそが、
多くの書き手が感じている「焦り」や「息苦しさ」の正体なのではないか。
私はそんなふうに考えるようになりました。
●「水」か「ワイン」か
アルゴリズムは、
出版社が求める作品を見つけるために作られているわけではありません。
アルゴリズムが評価しているのは、
「今、この瞬間、どれだけ読まれ、どれだけ反応があったか」です。
以前は、「広く読まれる作品」が、
そのまま「大きく育つIPの種」でもありました。
でも、
エンタメが生活インフラになった今は、
その関係が少し変わっています。
広く読まれる作品は、
「疲れた日常を支える作品」であることが増えたのです。
それはそうですよね。
お水は常飲できるけれど、
高級ワインは常飲できません。
重いし、酔うし、高いし、
なにより喉の渇きを癒せません。
高級ワインはたまに嗜むから
美味しいし、特別なのです。
だから、毎日飲むなら断然「水」。
エンタメがインフラになったというのは、
きっとこういうことなのだと思います。
そこが理解されないままプラットフォームが運営され、
作者は両極端なオーダーの狭間で神経をすり減らしている。
これが今、書き手を襲っている「焦り」や「不安感」なのだと思います。
だから私は、この市場の構造を知ることには意味があると感じています。
闇雲に自分の中に原因を求めずに済むからです。
そして、
「今はそういう市場なんだ」と理解できれば、
自分のセンスがどちらの市場に向いているのかを
前向きに考えられるようになります。
自分がつくりたいのは、
疲れた人を癒す水(インフラ)なのか。
それとも、
特別な日に味わう高級ワイン(嗜好品)なのか。
どちらが正しいという話ではありません。
自分がどちらの間口に向かって作品を
差し出そうとしているのかを決めるだけでも、
目の前の景色は変わる気がしています。
私もまだ手探りの毎日です。
それでも、自分のこういった不安をひとつずつ言葉にしていけば、
同じように“書くこと”を希望にしている誰かの重さも、
少しは軽くできるのではないかと思っています。
これからも悩みながら、迷いながら、
それでも自分が本当に書きたいものと
向き合っていけたらと思います。
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