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最大の抵抗派が、誰よりもAIを使いこなすまで。〜名鉄バスの交番表改革

ALGO ARTIS では、AI・アルゴリズムを活用して、様々な領域における"複雑な運用計画の最適化"に取り組んでいます。バス事業者が毎日欠かさず作成する「交番表」も、その一つです。誰がどの便を担当するかを決めるこの計画は、1日でも穴が開けば運休につながる"絶対に止められない計画"です。

ただ、現在も交番表の作成を「熟練担当者の経験と勘」に依存している現場は少なくありません。乗務員不足が深刻化する今、業界全体でこの属人的・高負荷な業務構造をどう変えるかが、切実な課題となっています。

今回スポットライトを当てるのは、愛知県を中心に11営業所・車両700台・乗務員1,300名超を抱える名鉄バス株式会社における、交番表作成業務の最適化プロジェクトです。2023年4月に ALGO ARTIS との取り組みが始動し、2025年3月から「AI交番表」の本格運用がスタートしました。

かつて誰よりも強く抵抗していた担当者が、その後誰よりもAIを使いこなすようになるまで——。導入の経緯と現場の変容を、4名の担当者に聞きました。

お話を伺った方
(写真左から)
名鉄バス株式会社 経営計画部 指導主任 福嶋義男 様
名鉄バス株式会社 経営計画部 主任 IT・DX担当 大野貴也 様
名鉄バス株式会社 一宮営業所 総務助役 堀井聡 様
名鉄バス株式会社 経営計画部 担当部長 IT・DX担当 岡田典夫 様

※所属・肩書きは取材当時のものです。

「絶対に止められない地域の足」の裏にある職人だけが担えた業務

名鉄バスさんにおける「交番表業務」とはどのようなものなのでしょうか?

岡田様:交番表は、バス運行の根幹を支える日々のシフト計画表のようなものです。1日でも穴が開けば運休になってしまうので、毎日必ず誰かが作り続けなければなりません。名鉄バスでは各営業所の交番担当者がローテーションで作成していますが、1日分の作成には8〜10時間、時には丸1日かかることもありました。

それほどの時間を要するほど、一筋縄ではいかない計画なのですね。

堀井様:わかりやすい例を挙げると、「100コースあるのに(当日の出勤予定者が)80人しかいない」という状態で計画を組み続けなければならないのが難しいのです。ドライバーが充足していれば、決められた通りに当てはめるだけですが、そのようなケースは稀です。
今は私たちも含めて業界全体で人が足りていないので、休日出勤をお願いしたり、一つのコースをばらして、別のコースに繋げて数を絞ったり、いかにやりくりするのかが、交番担当者の腕の見せどころでもあるんです。

福嶋様:特に時間を取られるのが、法令(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)に基づく時間計算です。乗務員の拘束時間の上限がかつての16時間から15時間に短縮されたことで、手で組む難しさは一層上がりました。乗務員には休息時間にも規定があるため、自分が計画を組み終えないと、翌日分の担当者も作業を始めることができない。夜遅くまでかかって、なんとか間に合わせたということもあります。

手で組むというお話でしたが、従来は手作業で毎日の計画を策定されていたのですか?

堀井様:そうです。紙と鉛筆、電卓を使って手作業で作成していたことから「手組み」と呼ばれていました。計画の作成にあたっては、乗務員一人ひとりの性格まで考慮しながら組んでいました。無理に担当してもらって事故が起きては困りますし、その日限りではなく今後の協力も頼まなければならないからです。

大野様:この業務をうまくやるには、頭の中に24時間の時計がないとできません。拘束時間や休息時間のルールを体で覚えて、全員分の計算を瞬時にこなすというのは非常に難易度の高い業務です。しかも営業所ごとに地域特性や固有のルールがまったく異なるため、「あの営業所でできたやり方」が別の営業所ではそのまま使えない。担当者の経験と勘に頼る、まさに職人的な業務でした。

技量習得のハードルの高さと、計画作成にかかる負担の大きさが課題になっていたわけですね。

岡田様:その結果として、別の課題も生まれていました。交番担当者は本来、乗務員に最も密に接しなければならない立場ですが、計画を練るのに必死で朝からずっと机に向かったまま、乗務員とほとんど喋る機会がない。そのような先輩の姿を日々見ていた若い世代に、「交番担当への配属は嫌だ」というイメージが定着してしまっていたのです。

「明確な根拠はない。でも、託してみたいと思わせる可能性を感じた」

2023年4月から交番表作成業務の改善に向けた ALGO ARTIS とのプロジェクトが始動しました。どのような経緯でこの取り組みに至ったのでしょうか?

岡田様:もともと親会社である名古屋鉄道のDX担当者から紹介いただいたのがきっかけです。実はそれ以前にも大手ベンダーや複数のスタートアップに相談をしていました。
そもそも交番表の自動化・効率化については、既成サービスでの解決は難しいと最初から諦めていました。その常識を覆してくれるような、何か新しい可能性を感じさせてくれる存在を探していたんです。

ALGO ARTIS のどこに可能性を感じたのでしょうか。
岡田様:まず「焼きなまし法」というアルゴリズムの着眼点が今までになく、面白いなと思ったこと。そして皆さんの人柄です。アルゴリズムの知識・技量に長けた尖った人材が揃っている集団なのに、話をしてみると全くとっつきにくさを感じず、誠実に接してくれました。社内でも「ALGO ARTIS とやるのか、やらないのか」の議論になったのですが、そもそも交番表の効率化をやったことがある人間がいないのだから、「絶対にやれる」とは誰も言い切れません。
ですが、ALGO ARTIS さんと打ち合わせする中で、「この人たちに託してみようか」と思わせる雰囲気がありました。

大野さんはプロジェクト発足当時から携わってこられました。どのようにプロジェクトを推進してこられましたか?

大野様:いきなり現在のシステムだったわけではなく、最初はExcelに入力したデータをアルゴリズムに渡し、返ってきた結果を確認するというやり方で試していました。その状態で制約条件や設定を調整しながら、自分が数えた限りでも1,300回以上は試行錯誤したと思います。
藤吉(ALGO ARTIS アルゴリズムエンジニアの藤吉純也)さんとは頻繁に電話で連絡を取りながら、一緒に方向性を詰めていきました。

すぐに軌道に乗ったわけではなかったと伺いました。
大野様:システムを現場に根付かせるのは、一筋縄ではいきませんでした。使いこなしてもらうために、ある営業所には1ヶ月半、毎日通い詰めて説明したこともあります。それでも一時停止せざるを得ないこともありました。
そこで方針を変えて、変えたいという雰囲気のある営業所を先に見つけては、そこへ土日も平日も足を運んで、現場の声を集めながら要件を磨いていく。時には ALGO ARTIS の皆さんにも現場に来ていただき、一緒に意見を整理していただきました。
「いずれはこんなことをずっと手書きでやってる時代じゃなくなる」—そう言い続けながら、地道に繰り返したからこそ今があると思っています。

最大の抵抗派だった営業所が、誰よりもAIを使いこなすまで

当時システムの活用に最も抵抗を示していた営業所の一つが、福嶋さんや堀井さんのいた一宮営業所だったそうですね。

福嶋様:その一宮の中でも特に抵抗していたのが私です(笑)。慣れておらず入力に時間がかかるのに、アウトプットの質がまだまだで「こんなの参考にもならない」「手組みの方が絶対速い上に確実だ」と思っていました。作業の途中でパソコンを閉じてしまったこともあります。

堀井様:当時は使い方も条件の入れ方も手探りでしたから。「同じ人の名前が複数のコースで重複している」「〇〇さんはこれ以上は勤務させられないと言っているのに名前が入っている」という状態で、それはそうなりますよね。気づけば一宮は一番遅れていると言われるようになっていました。

そこからどのように変わっていったのでしょうか?

福嶋様:ある時、「手組みを一切しない」と腹をくくったんです。叩き台をAIに考えさせると決めると、まずは全乗務員の条件を打ち込むところから始めないといけません。最初の2〜3時間はそこだけに費やしていました。それでもすぐには納得いく結果は出なかった。

ただ何ヶ月目かは忘れてしまいましたが、やり続けていたら、ある日「良い答えを出してくるじゃないか」という瞬間が来たのです。そこからは一気に止まらなくなりましたね。

堀井様:「明日の分だけでいい」と言っていたのに、1週間分の計画を全部組もうとして「そこまでやらないで」となったくらいです(笑)。

福嶋様:自分でも不思議です。それだけのめり込んだのは、「こんな組み方があるのか」という発見があったからでもあります。自分では思いつかなかった新しい組み方をAIが出してくることがある。手組みだけでは一生見えなかった景色が、そこにはありました。

時間計算の確認作業がゼロに、そして担当者の「表情」が変わった

改めて2025年3月から本格運用がスタートして、現場にどのような変化がありましたか?

福嶋様:一番助かったのは、時間計算の確認作業が完全になくなったことです。以前は前日の勤務が何時に終わったかを見ながら、翌日の開始可能時刻を全員分計算して見直すという確認作業に多くの時間を費やしていました。運用開始後はシステムが法令に基づく計算をすべてやってくれるので、その確認作業がそもそも必要なくなったのです。

私の場合は、完成版の計画の2割程度が手を入れた部分のような感覚でした。最後の2割弱は突発の欠勤や個別の条件変更などがあるので手を加えますが、それ以外はAIが組んだものをそのまま使える。全く修正がいらない、ということも何度もありました。

堀井様:数字以上に変わったと感じるのは、交番担当者の表情です。以前はずっと下を向いて難しい顔をしていました。今は組み終える時間が早くなって、乗務員さんと話せる時間が少しずつ増えています。本来あるべき姿に近づいていると思います。

もともと計画作成にかかる負担の大きさや技量習得のハードルの高さが課題になっていたというお話でした。複数の営業所を見られていて、どのような変化を感じますか?

大野様:使い方を覚えた人は本当に上手に使っています。一方で、まだ覚えきれていない方も居るのが実情です。やはりAIを使いこなすためにはある程度使い込まないとわからない部分もあり、通常業務をこなしながら何度もトライアンドエラーをするのは簡単ではありません。「ある程度の慣れや経験が求められる」という面は、感じているところです。

岡田様:今回に限らず「使う人を選ぶシステムが本当に良いシステムなのか」という問いは、私自身がずっと持っているものです。AIも、経験を重ねることで使いこなせるものだからこそ、誰でも使えるようにオペレーションもシステムも改善を続けていくことが今後の課題の一つだと考えています。

また人手が極端に不足した際に行う「コース連結・コース分割」のような高度な作業もAIがより自律的に試みてくれるようになれば、活用の幅はさらに広がるはずです。今のシステムはまだ完成品ではありませんが、だからこそ、さらなる伸びしろがあると思っています。

次の世代への変化も出てきているようですね

堀井様:最近、手組みを知らない新しい担当者が入り始めています。その人たちはAI一本でやっているので、比較対象がない分、むしろ自然にAIを活用できている。「AI交番だからちょっとやってみたい」という若い人も出てきていて、これからの世代のことを考えると期待しています。

「業界全体を救う術になってほしい」

今後 ALGO ARTIS に期待することを教えてください。

岡田様:交番表作成の苦労は、名鉄バスだけの話ではありません。日本全国のバス会社が同じ問題を抱えている。実際、うちの取り組みを知って視察に来られた会社はたくさんありましたが、主にコスト面がネックとなり、導入にはハードルがあるのが現状です。パッケージ化をさらに進めていただいて、業界全体を救う術になってほしい。それが正直な思いです。

最後に、同じ課題に向き合う交通事業者の皆さんへメッセージをお願いします。

大野様:生き残るのは強い者でも賢い者でもなく、環境に合わせて変化できる者だと思っています。まずは変わろうとする意志の強い人から動き始めることが、一番の近道ではないでしょうか。

岡田様:コストへの不安や、慣れ親しんだやり方を変える怖さはわかります。ただ交番業務は間違いなく毎日発生し続ける業務であり、止めるわけにはいかない。少しずつでも改善を積み重ねていく価値は必ずあります。

福嶋様:私は誰よりも「手組みの方が早い」と言い張っていた人間です。でも今は、使い始めた頃のことが信じられないくらいAIを活用しています。まずやってみること。それだけで、景色は変わると思います。

※本記事の内容は2026年4月時点の情報です。


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