現場に寄り添う最適化で社会基盤を支える ── 名鉄バスとALGO ARTISが築いた「ワンチーム」のDX
地域住民の足として欠かせないバス事業が、いま大きな転換期を迎えています。深刻な乗務員不足、2024年問題や改善基準告示といった規制強化、そして地域交通インフラとしての使命——。こうした状況下において、「絶対に止めてはいけない」公共交通をどう持続可能なものにしていくか。多くのバス事業者が解決策を模索しています。
そんな中、名鉄バス株式会社とALGO ARTIS が取り組んだのは、最適化AIを活用した計画業務のDXプロジェクトでした。主な対象となったのは、交番表(勤務表)と乗務行路表の作成業務。なかでも日々の勤務予定を決める「交番表」は、熟練の担当者でも1日分の作成に約8時間を要するほど複雑で負荷の高い業務でした。そこにAIを導入することで、効率性と精度を兼ね備えた計画策定への変革を実現していきます。
このプロジェクトで特筆すべきは、単なるシステム導入ではなく、現場との徹底した対話を通じて築き上げた「ワンチーム」のアプローチです。ALGO ARTIS のメンバーが各営業所を行脚し、お客様の現場の声に耳を傾け、業務の本質を理解する——。そうした泥臭いコミュニケーションの積み重ねが、真に現場で愛用されるソリューションを生み出しました。
約2年間のプロジェクトを通じて、ALGO ARTIS がいかに顧客企業と信頼関係を構築し、システムの本格運用を実現したのか。プロジェクトの中核メンバーへのインタビューを通じて、現場に寄り添うDXの真髄に迫ります。
<ALGO ARTISメンバー>
近間 圭 : コンサルタント。初期からプロジェクトを推進。
舟久保 拓哉 : ソフトウェアエンジニア。システム開発を担当
藤吉 純也 : アルゴリズムエンジニア。本プロジェクトにおける最適化アルゴリズムの設計や開発を担当
福井 昭夫 : コンサルタント。近間から引き継ぎプロジェクトに参画。

社会インフラの使命と、待ったなしの現場課題
── 名鉄バス様との取り組みについて教えてください。
近間: 名鉄バス様に限らず、バス事業は地域住民の生活を支える社会インフラであり、「絶対に止めてはいけない」使命を背負っています。
業界全体では乗務員不足が深刻化しており、公共性の高い事業ゆえ、単純に路線削減で対応するのも難しい状況です。担い手の減少に加え、2024年問題や改善基準告示といった規制強化が追い打ちをかけています。
名鉄バス様でも乗務員不足が常態化しており、限られたリソースでの業務運営が求められていました。とくに交番表の作成には1日分で約8時間を要しており、業務継続性への懸念が高まっていました。こうした背景から、本プロジェクトは交番表作成業務の持続可能性を高めることを目的にスタートしました。
── 業務の難しさの要因は何だったのでしょうか?
近間: 大きく2点です。一つは経営効率と乗務員の働きやすさのバランス。法規制や労使協定を遵守しつつ、乗務員のスキルや働き方の希望を最大限考慮し、その上で経営効率も追求する複雑な条件をクリアする必要がありました。
もう一つは営業所ごとの「秘伝のタレ」的な独自要件です。担当者の方でさえ由来が分からないものもあり、標準化すべき部分を整理しながら要件定義するプロセスが特徴的でした。
AIを「現場の味方」に。徹底してユーザーに寄り添う設計思想
── 具体的にどのようなソリューションを提供したのでしょうか。
舟久保: 当社のAI最適化ソリューション「Optium」を基に、お客様専用のUIと最適化AIを開発しました。AIがバランスの取れた計画を自動出力し、その内容を画面上で確認しながら人が修正できる仕組みです。
特に意識したのは計画担当者の特性です。計画担当者は必ずしもPC操作に習熟していないため、キーボード入力に頼らずマウス操作中心で直感的に使えるUIを追求しました。
また現行業務では紙での手作業が多かったため、既存の紙帳票に近いデザインを採用し、システム移行への抵抗感を減らす工夫もしました。
── 従来のやり方を尊重しつつ、業務をよりなめらかにする工夫ですね。
舟久保: まさに既存業務への「寄り添い」を大切にしました。その上で入力ミス時のアラート表示や勤怠管理システムとの連携によるデータ入力の手間削減など、業務がさらに円滑に進む仕組みを取り入れています。
また「現場で本当に使われるものを作る」ため、プロトタイプを早期提供し、現場の方に触っていただき、フィードバックを頂戴して改善するというサイクルを根気強く繰り返しました。

壁を越え、信頼を紡ぐ。営業所行脚と対話が生んだ開発プロセス
── 2023年4月から開発が始まり、約2年で本格運用に至りました。プロジェクトを推進する中で大変だったエピソードを教えてください。
藤吉: 最適化プロジェクトで優れたソリューションを生み出すには「現場からどれだけ質の高いフィードバックをいただけるか」が生命線です。
ただ今回のような試みは名鉄バス様にとっても初めてのことでしたし、当初はお互いの関係性もまだ深まっていませんでした。お客様もどのようなフィードバックが効果的かを模索されている状況で、時にはフィードバックをいただくのに1ヶ月ほど要し、改善サイクルを迅速に回せない時期もありました。
その中で私たちは「私たちが作る」というより「お客様と一緒により良いものを創り上げていく」という考え方で、泥臭くコミュニケーションを重ねました。
── 具体的にどのようなアクションで状況を打開したのでしょうか?
藤吉: 各営業所への出張を重ねたことです。時には丸2-3日をかけ、ほとんどの営業所を順番に訪問し、徹底的にヒアリングを行いました。
現場のことを深く理解していなければ、本当に現場で使われるものは作れません。実際に現場に赴き、担当者の方々の日々の作業を自分の目で見て理解する。そしてお客様にもALGO ARTIS の最適化プロジェクトの進め方を丁寧に説明し、ご理解いただく。この相互理解を深めるプロセスを何よりも重視していました。

お客様と「ワンチーム」で価値に向かう
── そうした地道なコミュニケーションの積み重ねが、プロジェクトの推進力になったのですね。
舟久保: 実際にある時点からフィードバックの質が明確に向上しました。当初はやや曖昧なご意見もありましたが、後半になるにつれて「この部分はこうして欲しい」といった具体的で的確なご要望が増えてきたのです。お客様がシステムを真剣に使い込んでくださっているからこその変化だと、大変嬉しく感じました。
藤吉: 私たちとお客様を合わせて「ワンチーム」という意識でプロジェクトを進めていました。社内でも部署間の垣根を設けず、状況に応じて各々が柔軟に役割を変えながら動く。だからプロジェクトのフェーズに応じて、メンバーそれぞれの強みが際立つ分担が行えるんです。
── エンジニアである藤吉さんや舟久保さんもお客様と直接、密にコミュニケーションを取っていたのですね。
近間: 特に開発終盤には、藤吉さんとお客様の担当者の方が毎日のように電話で熱心に議論している光景も珍しくありませんでした。
福井 : 私は途中からプロジェクトに加わったのですが、最初に感じたのが弊社のエンジニアとお客様との一体感です。エンジニアがお客様との連携を厭うことなく、技術的な点も業務的な点も、フラットに議論している様子は衝撃的でした。
近間: 後日談ですが、保守運用で追加改修の工数を尋ねられた際、「1人月です」とお答えしたところ、「その1人月は、藤吉さんや舟久保さんの1人月という認識で大丈夫ですよね?」とご確認いただいたのです。
これはものすごい褒め言葉ですよね。二人の能力や人間性を高く評価し、「特別な1人月」として捉えてくださっている証だと感じています。
AIがもたらした確かな成果と、現場からの「喜びの声」
── 2月以降、複数の営業所で本格運用が始まりました。現時点での成果とお客様からの反応について教えてください。
福井: 交番表や乗務行路表の作成時間が大幅に削減されました。交番表の作業時間は従来の半分になり、純粋な計画作成時間に限れば半分以下にまで短縮されています。
加えて、法令や労使協定、営業所のルールなど会社として遵守すべき条件を考慮した上で、バランスの取れた計画をより効率的に作成できる環境が整いました。乗務員の働きやすさ向上とコンプライアンス強化を同時に実現できたことは嬉しく思います。
先日、お客様が「(営業所の)みんなが喜んでいたよ」と現場の様子を伝えてくださいました。プロジェクト関係者だけでなく、実際にシステムを使われている現場の皆さんが喜んでくださっている、その一言がすごく嬉しかったです。
近間: お客様がALGO ARTIS への発注を決めた理由を後日語ってくださったのですが、「いい意味でスタートアップっぽくない」ということでした。プロダクト開発における泥臭さや、「できないことはできない」と正直にお伝えする誠実なコミュニケーションを評価いただけたと思います。私自身、「ALGO ARTIS らしさ」がよく表れたプロジェクトになったと感じています。
バリューチェーン全体の効率化・高度化を目指す
── 今後の展望についてお聞かせください。
福井: 交番表や乗務行路表の周辺には、まだ多くの計画業務が存在します。乗務行路表の基となる「営業ダイヤ」の最適化や、多数の車両管理の効率化も重要な課題です。
お客様も本音では、これらの計画業務全体を一気通貫で最適化したいと望んでいらっしゃるはずで、実際に新たなご相談もいただいています。ALGO ARTIS としては、提供できる価値をどんどん広げ、お客様の事業全体に貢献していきたいと考えています。

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