⚪️掌編小説|蜜柑堂書店 第三話
第二話からの続き
新たに搬入され平積みになっていた書籍を数日掛かりでようやくデータベースに登録した。
次に、これらの書籍を「然るべき」場所に収めていかなければならない。
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何気なく一番上の本を手に取ってみた。
『安西冬衛全集 第四巻 未完詩篇二』
第四巻ということは、一巻から三巻もあるのだろう。データ検索すると確かにそれらの在庫もある。可能ならまとめて収納したい。
もう一冊。
『安西冬衛全詩集』
箱から本体を抜き出して奥付を見ると、思潮社、一九六六年、初版、二五◯◯円、とある。
状態の美しさから新刊本だとばかり思っていたが、古書なのだろうか。
ぱらぱらとページを捲ると一編の詩で目が止まり、思考はそこに釘付けとなった。
渇望
漢英両字紙で梱包された粗アフガン塩を駝載して、泥で固められた難儀な砦からの脱出。
イル・カツサロ
飛沫をしきりにとばす青い大洋への渇望の旅の到達の絶望を、うねる城壁のアドービ煉瓦の横圧力から、汝ははげしく読みとらねばならぬ
どうしてか分からない。ただ、ぼくは、書かねばならないと強烈に思った。
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「てふてふ」と蜜柑さんが耳元で囁いた。
ぼくは驚いて飛び上がった。
「気に入ったの?」
「あ、これ」
「売り物よ?」
「えっと、あ、買います」
「良かったらあげるけど」
「いえ、2500円なら」
「それは当時の値段。今はお給料じゃ買えないかも」
「え、あ、え?」
「入社祝い」
「約束を忘れないでね?」
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花器の桜がはらりと散った。
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花の最期を示す日本語には多様な表現があると以前どこかで読んだことがある。
桜は「散る」
梅は「零れる」
椿は「落ちる」
菊は「舞う」
朝顔は「萎む」
牡丹は「崩れる」
紫陽花は「萎れる」
ぼくはふと蜜柑はどうだろうと思った。蜜柑さんの溌剌とした陽気さには、どこか儚げな美しさを隠し持ったようなところがある。
彼女の最期を想像するなんて不謹慎だと思いながら、蜜柑は「ほどける」と言葉にしてみた。
蜜柑さんがぼくを見て不思議そうに首を傾げた。
このとき初めて自分が彼女をじっと見つめていたことに気づき、慌てて目を逸らした。
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なんだか今日は、やけに仕事が手につかない。
(第四話に続く)
*見出し画像は@羽さんの作品です。
