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⚪️掌編小説|蜜柑堂書店 第二話

第一話からの続き

 通用口のドアベルを鳴らすと内側から蜜柑さんが開けてくれた。

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 今日からぼくも書店員だ。

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 蜜柑堂書店は六階建マンションの一階部分にあり、中庭に面して開いているからまるで居住者専用の書店みたいに見える。読書好きが集まるマンションなのだろうか。なかなかない配置だ。

 前面がガラス張りになっているので、中庭からでも書架や読書スペースなど、店内の様子を確認することができる。パッと見の印象は近代的なラーニングセンターのようだけれど、一歩足を踏み入れるとまるで違う。

 明治から大正期にかけて建てられた私設図書館か、または旧華族の血を引くさる大人物の常軌を逸した書庫、書斎といった風情である。

 蜜柑さんのデスクに飾られた陶製の花器には、確か先週までは蜜柑の木だったはずだが、今は桜の切り枝が挿してある。

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「お花見ですか」とぼくは訊ねた。
「これ、天乃川神社の庭師に頂いたのよ、昨夜の風で枝が折れてしまったのですって」

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 ぼくが初日に与えられた仕事は書庫の整理と在庫の管理だった。一日二日で終わる数じゃない。やり甲斐がありそうだ。

 しかし驚いたのは、数というより、空間の、おそらくは錯覚なのだろうけれど、物理法則を無視したような広がりである。

 書庫として使っている店舗のバックヤードが、その敷地面積が、建物より、つまりマンションの一階部分より、明らかに大きいのだ。

 図面を確認できたらすっきりするのだけれど。書庫とは元来そういうものかもしれない。

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 見たことも聞いたこともない書籍が何百冊も平積みされている。

 これらをすべてデータベースに登録して、なおかつ書架の然るべき場所に収納しなければならない。それがぼくの仕事だ。

 だが、然るべき場所が何処なのかまったく分からない。どのようなルールで整理、分類されているのか。出鱈目としか思えないのだ。

 訊いてみるしかない。

「蜜柑さん」
「蜜柑さん?」

 マズった。脳内の呼称で呼んでしまった。ここは店長、だろうか、だろうな。

「先生」
「先生?」

 ああ。やってしまった。

 蜜柑さんはお腹を抱えてころころと笑いころげているし、ぼくは顔から火を吹いたみたいに真っ赤になっている。意味のない咳払いをしたりして、もう何が何だかやけっぱちな気分だ。

「蜜柑さんで良いわよ。可愛い名前ね」

 そう言ってもらえて救われたけれど、初日からこれじゃあ先が思いやられる。

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 結局のところ本の配置は決まっていないらしい。それでも蜜柑さんは欲しい本を迷わず取ってくるのだから不思議だ。場所を記憶しているのだろうか?

 並べ替えるならそうしてもらって構わないわよ、と蜜柑さんは言うけれど、ぼくはあえてそこには手を着けず、より簡単な方法を選ぶことにした。

 在庫はすべてデータベースで管理されているのだから、そこに新たなフィールドを作るか、備考欄にでも収納場所を入力していけば良いのである。

 とはいえ、何せ在庫は一万冊以上だ。

 ふうむ。やっぱり先が思いやられる。

第三話に続く)


見出し画像は@羽さんに依頼して描いて頂いたコラボ作品である。蜜柑さんのイメージを自由に解釈して下さいという発注だったので、彼女のセンスが遺憾なく発揮されていると思う。ロングカーデのように羽織った和服が大人の色気を漂わせており、私の小説を一段押し上げてくれている。素晴らしい作品。お気に入りです。


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