見出し画像

日本の米

【前回の話】

 毎年暮れになるとマッコイ君が米を送ってくれる。マッコイ君は農家なので、自ら作った米である。随分美味くて、これが届くと妻も娘も大いに喜ぶ。

 十数年前、北京から帰るので空港へ行ってチェックインを済ませたら、時間になっても飛行機が飛ばないのである。
「陳さん、全体何がどうなってる?」
「ちょっと待って」陳さんは目を細めて電光掲示板の文字を読んだ「どうも風が強すぎるみたいだね」
「風? そんなものに左右されるのか?」
「仕方ないね。無理に飛んで落ちたら困るからね」
「それぁ困るだろうけれど……」
 事によると、日本へ台風が来ていた時だったかも知れないが、空を飛べない人間を飛ばすほどのテクノロジーが風に左右されるなんて随分お粗末だと思った。
 そうして一向飛ばないまま、昼を回った。
「一体、今日の内に帰れるのかね?」
「わからないね。飛ぶかどうかは私もわからないよ」
 陳さんは雑誌を片手に、何だかへらへら笑っている。
 
 じきに空港職員が弁当を配り始めた。
「本当は昼前に飛ぶはずだったから、昼ごはんが出たね」と陳さんが説明した。
 白米の味が独特だった。米の種類が日本と違うのである。
「米が日本のと違うようだね。いかにも中国に来たって感じがするよ」
「うん、こんな米、不味いね」
「……え?」
「中国人も、こんな米は誰も食べたくないね。みんな日本の米の方がいいけれど、高くて買えないよ」
 こちらは種類が違うようだと云っただけで、美味いか不味いかの話はしていない。ところが陳さんがいきなり中国米の批判を始めたものだから、調子が狂って、返答に甚だ困った。
「……そんなに不味くもないだろう?」
「不味いよ」
「そうかなぁ……」
「不味いね」
「……そうかい」
「そうね」
 弁当を食べた後は、山岡荘八の『徳川家康』を読んで時間を潰した。文庫本を鞄に入れて持ち歩いていたのだけれど、せっかく中国へ来て、他にもっと気の利いた時間の潰しようがあるようにも思われた。
 


いいなと思ったら応援しよう!

百裕(ひゃく・ひろし) よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。

この記事が参加している募集