怒る中国人 二
【前回の話】
山東の婆さんが結局どうしたかは知らないが、最後は店側が折れたのではないかと思う。自分は目の前に提供された北京ダックを食う方が大事だったので、婆さんがどうなったのか陳さんに訊きそびれたのである。
北京ダックは美味かった。あんまり美味くて、感心しながら二人分をほとんど一人で食ったように思う。
後になって妻と友人らにその話をしたら、「北京ダックは皮だけ食べるのでしょう?」と口々に問うて来た。そう云われたらそうだったと思い出したけれど、どうもあの店では肉も食っていたようである。
陳さんに確認したら「あれはあんまり高級な店じゃないから肉も食べさせたね」と笑った。
自身はあんまり食わないで、こちらが喜んでぱくぱく食うのを黙って見ていたのはそういうことだったかと、それで得心した。上海人がいけ好かないという話も、陳さんを見る限りいよいよ肯かれる心持ちがした。
北京ダックを平らげた頃に突然、隣りのテーブルで男が怒鳴りだした。
驚いて見ると、またさっきの店員が捕まっている。隣りは数名のグループで、怒鳴った男は一人で真っ赤な顔をして、他は陰鬱な顔で俯いている。どうも尋常な様子ではない。
「陳さん、今度は何があった?」
「うん、料理に何か変な物が入ってたみたいね」
隣りは何だか鍋をやっていた。それで全員が陰鬱なのだろう。
「変な物って?」
「何か食べられない物みたいだね。お前は人間として、こんな物を食えるのか、って怒ってるよ」
「例えば、カエルとか?」
「そうかも知れない」
カエルは普通に食べるよと云われるかと思っていたので少し拍子抜けした。中国人は四つ足だったらテーブル以外は何でも食うと聞いていたが、さすがにそれは大袈裟だったのか、或いは陳さんが上海人だから感覚が違うのかと考えた。
陳さんはやっぱりにやにやしながら隣席を眺めているのである。
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