謀略餃子
【前回の話】
北京ダック屋で山東の婆さんと鍋集団の怒りを眺めた翌晩は、別の店で食事をした。
アパート1階のテナントで、四角いテーブルがいくつかあるばかりの小さな店である。何の飾り気もない。従業員は接客係の女子が一人と厨房に一人。どちらも私服のTシャツを着ている。
これはこれで、映画『恋する惑星』なんかに出てきそうな按配だと思ったけれど、『恋する惑星』を観ていないから本当にそうかは判然しない。
「百さん、どれにするね?」と陳さんがメニューを見せて来たが、全部中国語で書かれているものだからわからない。
「どれが何なのだかわからんよ」
「写真で大体はわかるね」
「それはそうだけれど……。炒飯と餃子はないのかな?」
「炒飯と餃子? 餃子は焼餃子?」
「そう」
「OK、訊いてみるね」
それで陳さんは店員の女子をつらまえて、何やら云い出した。二人ともどうも困ったような顔に見えるのが気になった。
「何だって?」
「メニューにはないけど、せっかく日本から来たお客さんだから、特別に作ってくれるね」
「それは大いにありがたい」
じきに料理が出て来た。
炒飯はともかく、餃子が随分な量である。
「陳さんも食ってくれ」
「私はいいね。百さんどうぞ」
陳さんは別で注文をしており、餃子には一向手を付けない。そうして半分ぐらい食べたところで、何だか変なことを言い出した。
「……中国では、炒飯も焼き餃子もあんまり食べないね」
「……?」
「炒飯は炊いたごはんが残った時にやるものだから、普通は店で出さない。焼き餃子はおやつみたいなものだから食事にしない。だから今の百さんの食事は、中国人には凄く奇妙に見えてるね」
「先に教えてくれよ」
「百さんが食べたそうだったからね」
陳さんは変な顔をして、少し笑っている。
自分は急に周りの目が気になって、隠すようにして急いで完食した。そうしてやっぱり上海人はいけ好かないと得心した。
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