うつ病になった医療従事者が四枚の絵に込めた本当の話
これは、うつ病で休職するまでの医療従事者である僕自身の物語です。絵には、その時々の心情が込められています。

僕は作業療法士という仕事が好きでした。
患者さんが少しずつ歩けるようになること。
元の生活を取り戻していくこと。
退院の日に「ありがとう」と言ってもらえること。
この仕事は、自分の天職だと本気で思っていました。
だから十数年間、続けてこられました。
もちろん、一人ではありません。
ここまで頑張れたのは、周りのスタッフに恵まれていたからです。
人間関係は、決して悪い職場ではありませんでした。
でも、その職場は少しずつ変わっていきました。
仲の良かった先輩。
尊敬していた先輩。
支えてくれた人たち。
「もう、やってられん。」
そう言って辞めていく姿を、僕は何人も見送ってきました。
病院の方針が合わなかった人。
心を痛めて辞めた人。
気が付けば、知っている顔より、知らない顔の方が増えていました。
同じ病院なのに、違う職場へ来てしまったような感覚。
あの頃から、僕の心は小さな違和感を訴えていたのかもしれません。
⸻

医療従事者は、聖人じゃありません。
ただ医学やリハビリ知識を学んだ、ごく普通の人間です。
腹も立つ。
傷もつく。
泣きたくなる日もあります。
看護師さんらに対して「白衣の天使」という言葉が、昔はよくありました。
テレビドラマとかドキュメンタリーで、そういった表現がありました。
でも、天使なんかじゃありません。
人間です。
医療従事者は、ただの人間です。
だから、嫌な患者さんに対して警戒します。
クレーマー。
カスタマーハラスメント。
本当に多い。
「担当を替えてくれ。」
「〇〇さんはもっと良くしてくれた。」
「あんた、下手くそやな。」
時には暴言。
時には暴力。
もちろん、病気の影響や不安から出る言葉もあることは理解しています。
そういう患者さんには我慢できます。
でも、理解できない患者が、たまにいます。
はっきり言って、やってられません。
何年も積み重なれば、人の心は少しずつ削られていきます。
あの巨大な怪物は、一人の患者さんではありません。
クレーマー。
カスハラ。
理不尽。
仕事への責任。
家庭での出来事。
将来への不安。
全部が重なって、僕の中で一匹の怪物になっていました。
⸻

休職する半年前くらいから、上司には少しずつ愚痴をこぼすようになっていました。
⸻
休職する前日。
その日は半休でした。
午前中に担当したのは、当院でも、一番有名なクレーマーの患者のくそばばぁ。
対応を終えた頃には、心はもう空っぽでした。
その日、もう限界で、直属の上司より上の人と話をしました。
ナースステーションの一角でした。
周りにはスタッフがいました。
そんなことを気にする余裕はありませんでした。
涙が込み上げました。
そして、僕は言いました。
「目眩とか、不調が先月から酷くなって、、、」
「もう無理、まじ限界なんです…」
…
しばらく話を聴いてもらい、今後のことを話し合いました。たくさん、励まされました。カスハラに関しては、なんとかしてくれると言われました。
張り詰めていた糸が切れた音がしました。
午後は休み。
頭が全く働かず、残った仕事の処理や申し送りをしていたら、帰宅予定より2時間近くオーバーしていた。
たまたま休みだった仲の良い年下の先輩にLINEしていました。
「もう限界、辞めたい」と。
「愚痴、聞いたるよ」と近くの喫茶店へ呼んでくれました。
先輩は、最近産まれた赤ちゃんを抱きながら、一時間ほど僕の話を聞いてくれました。
仕事ここと、家でのこと、地域の活動の愚痴
プライベートなこと
少しだけ気持ちは楽になりました。
でも、店を出てからの記憶が曖昧なんです。
気が付けば夜でした。
車を運転して帰ったはずなのに、その記憶もほとんどありません。
家に帰り、ビールだけ飲んで眠りました。
翌日、母に言われました。
「昨日、お昼に帰ってくるんじゃなかったんか?どうしたんや?」
その言葉で、自分が普通じゃなかったことに気付きました。
⸻

翌日は、たまたま仕事が休みでした。
目眩。
吐き気。
激しい動悸。
体を起こすこともできませんでした。
病院を受診しました。
医者からは、「とりあえず1ヶ月は休もう」といわれました。心が限界突破してる状態らしいですを
翌日から休職しました。
上司らからは、休職を「突然やったで、びっくりした」と言われました。
でも、僕にとっては全く突然ではありません。
二年くらい前から、それとなく「もう嫌や」と言い続けていました。
SOSは出していたつもりでした。
でも、自分でも「まだ頑張れる」と思い込んでいたんです。
冗談に聞こえたのかな?
ただの、愚痴っぽくなっていたのかな?
⸻
あの四枚の絵の中の、逃げている子たちは僕です。
桜の下で笑っていた頃の僕。
怪物から逃げる僕。
段ボールの中で息を潜める僕。
泥だらけになって泣いている僕。
でも、この物語は絶望で終わりません。
四人は生きています。
怪物を倒せなかったけれど、生き延びました。
僕も同じです。
休職は敗北じゃありませんでした。
生き延びるための選択でした。
今はまだ、段ボールの中に隠れているような毎日です。
それでも、いつかまた。
心から笑える日が来ると信じています。
限界せぷてんば
はじめての方へ
次に読んでほしい記事
