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「脾」は、食べたものを力に変える係です──疲れ、むくみ、思い悩みがつながる場所

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皆さん、こんにちは。悠々漢方です。

五臓(ごぞう)の三つめ、「脾(ひ)」です。

この二日間、肝の話でも心の話でも、脾が顔を出しました。それだけ多くのことに関わっている係です。悠々漢方でこれまでいちばん多く書いてきたテーマでもあります。

脾は、材料を力に変える工場です

東洋医学の脾は、西洋医学の脾臓とは重なりません。食べたものを消化し、体が使える形に変える働き全体を指します。西洋医学でいえば、胃や小腸の仕事に近いものです。

お腹の中にある工場だと考えると、わかりやすくなります。食材という材料が運び込まれ、加工されて、気と血という製品になって出ていく。

先週から繰り返しお伝えしてきたことを思い出してください。気も血も、食べたものから作られます。その加工を担っているのが、この脾です。

だから脾が弱ると、川下のすべてに影響が出ます。気が足りなくなり、血も足りなくなる。昨日お話しした「眠れない」も、この道筋の先で起こっていることでした。

脾は、五臓のいちばん上流にいる係だと言ってもよいと思います。

脾には、もう二つの仕事があります

一つは、水を捌くことです。

脾は水の代謝にも関わると考えられています。脾が弱ると、水がうまく動かせず、体に溜まる。むくみ、体の重だるさ、軟便。先週の「水滞(すいたい)」の多くは、脾の弱りとセットで語られます。

もう一つは、上へ持ち上げることです。

脾には、内臓や気を本来の位置に保つ働きがあるとされます。この力が落ちると、下がる方向の不調が出ると考えます。夕方に胃が下がった感じがする、立ちっぱなしの日に脚が重い、といったものです。

脾が弱っているサイン

脾の力が落ちた状態を「脾虚(ひきょ)」と呼びます。

  • 食欲がない、少し食べただけでお腹が張る

  • 食後に強く眠くなる

  • 疲れやすく、とくに午後に力が出ない

  • 軟便や下痢になりやすい

  • 体が重だるい、むくみやすい

  • 冷たいものを摂ると、すぐお腹に来る

  • 舌のふちに歯の跡がある

そしてもう一つ、東洋医学らしい結びつきがあります。脾は「思」と関わるとされ、思い悩みすぎると脾を傷めると考えます。逆に、脾が弱ると考えが堂々巡りしやすくなる。

「悩みごとがあると食欲がなくなる」「胃腸の調子が悪いと気持ちまで晴れない」。こうした経験は、この結びつきで説明されます。

夏は、脾がいちばん疲れる季節です

日本の夏は、脾にとって厳しい季節です。

冷たい飲み物が増え、冷房で体は冷え、湿度が高くて水は出ていきにくい。冷えと湿は、どちらも脾が苦手とするものです。

夏の終わりに疲れが出る、食欲が戻らない。これらは脾の力が落ちたところに、季節の負担が重なった結果として語られます。

漢方の知恵:まず、工場を立て直す

脾を立て直す方向の処方は、漢方の中でも数多くあります。

六君子湯(りっくんしとう)は、食欲が落ちて胃がもたれるという相談でよく名前の挙がる処方です。六つの生薬が君子のように働くという意味の名前です。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、先週も登場しました。「中」はお腹を指します。お腹の力を立て直して気を増やす、という組み立てです。脾を整えることが、そのまま気を増やすことになるという考え方が、名前に表れています。

生薬では、人参(にんじん)や陳皮(ちんぴ)がよく登場します。陳皮は熟したミカンの皮を干したもので、気を巡らせて胃の働きを助けるとされてきました。

※漢方薬は体質(証)や症状によって、合うものが一人ひとり異なります。ご自身に合った漢方薬を選ぶためには、自己判断をなさらず、必ず漢方に詳しい薬剤師や医師にご相談ください。また、症状が強い場合や長く続く場合は、まず医療機関を受診してください。

今日の小さな養生:工場に、冷たい水をかけない

脾に心当たりのある方へ。

いちばん効くのは、冷たいものを減らすことです。すべてやめる必要はありません。一日に一杯だけ、常温か温かいものに替える。それだけで工場の温度は変わります。

そして、よく噛むこと。脾の仕事は加工ですから、口の中で材料を小さくしておけば、それだけ負担が減ります。当たり前のことのようですが、脾を助ける養生として昔から言われてきたことです。

もう一つ。悩みごとを抱えている時期は、食事の量を少し落としてください。思い悩むと脾は弱ります。弱った工場に材料を詰め込めば、余計に滞ります。食欲がないときに無理に食べないというのは、理にかなった判断です。

明日は「肺(はい)」と「腎(じん)」を、まとめて見ていきます。乾きと、老い。少し先の季節の話にもなります。

あなたの毎日が、少しでも元気で快適なものになりますように。

悠々漢方


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