その辛さ、脾胃への「小さな火種」になっていませんか
皆さん、こんにちは。悠々漢方です。

さて、暑さが本格化するこの時季、無性に辛いものが食べたくなること、ありませんか。汗をかきながらすする激辛ラーメン、仕事帰りのカレー、食欲を呼び覚ますキムチ鍋──「辛いものは代謝を上げる」「汗をかいてデトックス」。そんな言葉に背中を押されて、つい毎日のように辛味を求めてしまう方も多いのではないでしょうか。
しかし最近、辛い食べ物を「毎日」食べ続けることと、腸の深刻な炎症との関連を示す研究が報告されました。
🌸 美咲
「悠々さん、私、最近ハマっちゃって……激辛ラーメン巡りが趣味なんです。辛いもの好きって、体に悪いんですか?」
🍵 悠々
「美咲さん、辛いものが好きなこと自体は、決して悪いことではありませんよ。でも、ひとつ気になる研究が発表されたんです」
🌸 美咲
「研究……?」
🍵 悠々
「はい。辛い食品を毎日食べる習慣が、クローン病という腸の難病のリスク上昇と関連していた──そんな報告が出ました。大事なのは、辛いものを"楽しむ"ことと"依存する"ことの違いなんです」
🌸 美咲
「クローン病……聞いたことはあるけど、よく分からないです」
🍵 悠々
「クローン病は、腸に慢性的な炎症が起きる病気で、腹痛や下痢が長く続きます。日本でも患者数が増えていて、食事との関係が注目されているんですよ」
毎日の辛い食事が「クローン病リスク1.6倍」に
この研究は、サウジアラビア保健省のAnas Almofarreh氏らが医学誌「Nutrition」2026年5月号に発表した症例対照研究です。
対象は、サウジアラビアの民間クリニックを受診したクローン病患者226例、潰瘍性大腸炎患者157例、そして対照群390例の計773名。辛い食品は「唐辛子やホットソースを使用した料理」と定義され、自己記入式の質問票で評価されました。
多変量ロジスティック回帰分析──さまざまな背景因子を調整した上での解析──の結果は、こうでした。
辛い食品を毎日摂取する群は、クローン病の発症リスクが1.61倍(調整オッズ比1.61、95%信頼区間1.11〜2.33)
一方、潰瘍性大腸炎については有意な関連なし(調整オッズ比1.03、95%信頼区間0.67〜1.60)
辛い食品の摂取と、病変の範囲や重症度との関連も認められなかった
つまり、辛い食品を毎日食べる習慣は、クローン病の「発症リスク」と関連している可能性がある一方で、病気そのものの進行度には影響しなかった──ということです。
ここで注意したいのは、これはあくまで「関連」であり、「辛いものがクローン病の原因」と断定する研究ではないこと。ただ、毎日の辛い食事が腸に繰り返し刺激を与えていることは、頭の片隅に置いておきたい知見です。

クローン病
本記事は一般的な健康・漢方知識の提供を目的としており、特定の商品の効能を保証したり、医学的な診断・治療に代わるものではありません。気になる症状や検査値の異常がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
🌸 美咲
「1.6倍……。でも悠々さん、漢方ではどう考えるんですか?」
🍵 悠々
「実は、東洋医学では辛味──漢方の言葉で"辛(しん)"──の扱い方を、とても繊細に考えてきたんですよ。
辛味には"発散(はっさん)"の力があります。体の表面を温め、毛穴を開き、気の巡りを促す。風邪の初期に葛根湯(かっこんとう)を飲むのも、辛味の発散力を借りて邪気を追い出すためです。
でも、この力は"適量"であってこそ。毎日のように辛いものを食べ続けると、脾胃──消化を司る臓器──に余分な熱がこもります。漢方ではこれを"湿熱(しつねつ)"と呼びます」
🌸 美咲
「湿熱……。なんだかジメジメして暑い、みたいな感じですか?」
🍵 悠々
「まさにそのイメージです。梅雨の蒸し暑さを思い浮かべてください。外はジメジメ、中は蒸れて不快──湿熱というのは、体の中でそれと同じことが起きている状態です。
辛いものの過食で脾胃に熱がこもると、消化液は乱れ、腸の粘膜は乾燥と炎症を繰り返すようになります。東洋医学の古典では、これを"辛味は気を散らし、多く食すれば筋が弛む"と表現しました。気が散りすぎると、腸を守るバリア──漢方でいう"衛気(えき)"──も弱くなるんです」
🌸 美咲
「腸のバリアが弱くなる……それって、今回の研究で言うクローン病の炎症と似ていませんか?」
🍵 悠々
「鋭いですね。現代医学が"腸管バリア機能の破綻"と呼ぶものと、東洋医学が"脾虚(ひきょ)──脾の力が弱まること──からの湿熱の停滞"と表現するもの。言葉は違っても、見ている現象は重なっていると私は思います」
辛味は「薬味」であって「主食」ではない
東洋医学には"五味(ごみ)"という考え方があります。酸・苦・甘・辛・鹹(かん=塩味)の五つの味が、それぞれ異なる臓腑に作用するというものです。
辛味は"肺"に帰経する──つまり、呼吸器系や体表の防御機能と深い関係があるとされます。適度な辛味は気の巡りを助け、血行を促進し、冷えを解消してくれます。生姜、ネギ、紫蘇、山椒──日本の薬味文化は、辛味を"少量で生かす"知恵の結晶です。
問題は、辛味が"主役"になってしまうとき。毎食のように激辛料理を求める状態は、漢方的に見れば「辛味への依存」であり、脾胃に慢性的な負荷をかけ続けていることになります。
今回の研究で興味深いのは、辛い食品と潰瘍性大腸炎には有意な関連が認められなかった点です。クローン病と潰瘍性大腸炎は同じ「炎症性腸疾患」に分類されますが、炎症の起きる場所や性質が異なります。クローン病は口から肛門まで消化管のどこにでも炎症が起き得る──つまり、食べ物が直接通過する場所すべてに影響が及ぶ可能性があるのです。

🌸 美咲
「辛いものは完全にやめたほうがいいんですか?」
🍵 悠々
「いいえ、そうではありません。大切なのは"頻度と量"です。週に数回、食事のアクセントとして楽しむ分には、辛味は体を巡らせる力にもなります。問題は"毎日""大量に"続けることなんです。
それでも、すでに胃腸の不調を感じている方には、漢方のサポートが心強い味方になりますよ。
たとえば、辛いものを食べたあとに胃が重くなる、みぞおちのあたりがつかえる、口が苦い──そんな"湿熱"のサインがある方には、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)がよく使われます。黄連(おうれん)・黄芩(おうごん)・黄柏(おうばく)・山梔子(さんしし)の四味で構成され、体にこもった余分な熱を清める処方です」
🌸 美咲
「熱を"清める"って、冷やすのとは違うんですか?」
🍵 悠々
「いい質問ですね。冷やすのではなく、"余分な熱だけを取り除く"イメージです。エアコンで部屋全体を冷やすのではなく、こもった熱気だけを換気で逃がすような感覚でしょうか。
もうひとつ、お腹がゆるくなりやすい、食後にゴロゴロする──そんな方には、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)も候補になります。胃に熱がこもりつつ、腸は冷えている──そんな複雑なアンバランスを整えてくれます。
そしてもともと脾胃が弱い方、疲れやすくて食欲にムラがある方には、六君子湯(りっくんしとう)。人参(にんじん)と白朮(びゃくじゅつ)が脾の気を補い、茯苓(ぶくりょう)が余分な水分を排出して、脾胃の土台を整えてくれます」
🌸 美咲
「熱を清めるものと、土台を整えるもの、両方あるんですね」
🍵 悠々
「はい。ただし、漢方は体質との相性がとても大切です。自分に合うかどうかは、薬剤師や医師にご相談くださいね」
今日からできる「辛味との付き合い方」3つ
研究結果と東洋医学の知恵を合わせて、辛いもの好きな方が今日から実践できる養生をまとめました。
① 辛味は「薬味」のつもりで
毎食の主役にするのではなく、料理に少しだけ添える──生姜のすりおろし、七味唐辛子をひと振り、山椒の実を数粒。日本の薬味文化は、辛味を最小限で最大限に生かす知恵です。激辛料理は週に数回の"お楽しみ"として、メリハリをつけましょう。

② 辛いものを食べた日は「おなかの声」を聴く
食後に胃が重い、翌朝にお腹がゆるい、口の中が渇く──これらは脾胃からの「ちょっと辛すぎたよ」というサインです。辛いものを食べた翌日は、お粥や温かいスープなど、脾胃に優しいものを意識してみてください。

③ 辛味と一緒に「甘味」で中和する
東洋医学では、辛味の過剰を甘味が和らげるとされています。ここでの甘味はスイーツではなく、お米、かぼちゃ、さつまいも、なつめ(大棗)といった、脾胃を養う自然な甘味のこと。辛い食事のあとに、なつめ茶や温かいほうじ茶を添えるだけでも、脾胃への負担がやわらぎます。

🌸 美咲
「辛いものをやめなくていいって聞いて、正直ほっとしました。でも"毎日"はちょっと見直そうかな」
🍵 悠々
「それがいちばん大切な気づきだと思います。辛味は本来、体を巡らせる力。でも力が強すぎれば、巡りではなく炎症になる。
漢方の世界では、"薬も過ぎれば毒となる"という言葉があります。辛いものも同じです。楽しむことと、依存することは違う。
来週の激辛ラーメンは"ご褒美"として。普段の食卓には、生姜ひとかけ、七味ひと振りの"薬味の辛さ"を。そのメリハリが、あなたの腸を静かに守ってくれるはずです」
🌸 美咲
「よし、今週は激辛巡りお休みにして、おうちで山椒パスタにしてみます」

二十四節気と漢方
季節の移り変わりに合わせた養生や漢方のアドバイスをまとめています。
悠々漢方のKindle書籍
日々の健康管理に役立つ情報をまとめた電子書籍シリーズです。
悠々漢方のLINEスタンプ一覧
トークを彩る、かわいい漢方キャラクターたちのスタンプです。
いいなと思ったら応援しよう!
記事が参考になりましたら、チップで応援いただけると励みになります。活動を応援してくださる方、チップでのサポートをお願いします。ご支援いただけると幸いです🌿