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昼より、夜の暑さかもしれません──5万7千人の追跡調査と、眠っているあいだの「脳の掃除」


皆さん、こんにちは。悠々漢方です。

朝のちょっとした頭の体操で、養生の知恵を身につけませんか──Substackでは「朝の漢方1問」を毎朝配信しています。今日のコラムを読んだあとに、復習がてらのぞいてみてください。

朝の漢方1問(Substack)

この夏の暑さは、これまでとは少し違いました。気象庁は2026年4月に、最高気温40℃以上の日を指す「酷暑日(こくしょび)」という言葉を、正式な予報用語として新たに定めました。そしてその最初の夏である7月21日から25日にかけて、統計史上はじめて、酷暑日が5日続いたのです。7月23日には静岡県浜松市の佐久間で41.1℃を記録しました。

暑さの話題というと、どうしても日中の熱中症に目が向きます。けれども最近の研究は、もうひとつ別の場所を指し示しています。それは、私たちが眠っているあいだの脳です。

今日は、日本の高齢者5万7千人を追った調査と、「グリンパティックシステム」と呼ばれる脳の掃除のしくみをやさしく紐解きながら、東洋医学が昔から語ってきた「夏の夜の養生」についてお話しします。


🌸 美咲
「悠々さん、今年の暑さは本当にこたえます。日中はなるべく外に出ないようにしているので、熱中症だけは大丈夫だと思うのですが……」

🍵 悠々
「美咲さん、日中を避けるのは大切な工夫ですよ。ただね──暑さがからだに残していくものは、その日の熱中症だけではないんです。じつは最近、暑さと脳の健康について、気になる研究がいくつも出てきています」

🌸 美咲
「脳、ですか。暑さと頭が、つながるんですか?」

🍵 悠々
「つながる場所が、ひとつあるんです。それが『眠り』です。今日はそこを、一緒に見ていきましょう」


気温40℃の世界で、からだに起きていること

まず、40℃という気温が私たちにとって何を意味するのかを整理しておきます。

人の平熱はおよそ36℃から37℃です。ふだんは皮膚の血管をひらいて熱を逃がし、汗をかいて気化熱でからだを冷ましています。ところが外の気温が皮膚の温度(およそ35℃)を大きく超えて40℃に達すると、この「自然に熱が逃げていく」しくみが止まります。それどころか、外の熱が皮膚を通してからだの中へ流れ込みはじめるのです。つまり40℃を超えた世界では、からだを冷やす手段が汗ひとつだけになります。

そしてこの汗が、思わぬ落とし穴をつくります。大量の汗は水分と一緒に、ナトリウムやカリウムといった電解質を運び出していきます。このとき水だけを大量に飲むと、からだの中の塩分が薄まりすぎて「希釈性低ナトリウム血症(きしゃくせいていなとりうむけっしょう)」──いわゆる水中毒の状態になります。細胞の内と外の浸透圧のバランスが崩れ、脳がむくみ、頭痛や吐き気、ひどいときには意識障害を招くことがあります。

「熱中症対策に水を飲む」は正しい。けれど「水だけを飲む」は危うい。この一点は、今年の夏こそ覚えておきたいところです。

このコラム記事は医学的な診断・治療を目的としたものではありません。漢方の考え方に基づく一般的な健康情報としてご参照ください。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。


5万7千人の追跡調査が見つけた「時間差」

ここからが、この夏いちばん考えさせられた研究です。

東京科学大学の研究チームは、日本老年学的評価研究(JAGES)という全国規模のデータベースを使い、自立して暮らす65歳以上の高齢者5万7,178人を3年間にわたって追跡しました。その結果は、2026年1月4日付で国際学術誌「Alzheimer's & Dementia(アルツハイマーズ・アンド・ディメンシア)」に発表されています。

研究チームは5月から9月のあいだで、その地域の過去30年の記録から見て上位10%にあたる暑さだった日を「暑い日」と定義しました。そして、その日数の多さが、翌年以降の認知症の新規発症とどう関係するかを解析したのです。

わかったことを整理します。

例年より「暑い日」が30日多かった地域では──

  • 翌年の認知症発症のリスクが、およそ1.43倍

  • 全死因の死亡リスクが、およそ1.63倍

  • 「認知症の発症、または死亡」という複合のリスクが、およそ2.50倍

そしてこの研究がとくに興味深いのは、影響のあらわれ方に時間差があった点です。1年前の暑さよりも、3年前の暑さのほうが、認知症の発症とより強く関連していたのです。

ここで、大切なお断りをひとつ。この研究は、地域ごとの気温と発症率の関連を調べた観察研究です。「猛暑を経験したから認知症になる」と言い切れるものではありませんし、暑さだけが原因になるわけでもありません。ただ、暑さがからだにかける負担は、その夏かぎりで消えるのではなく、静かに残っていくものかもしれない──研究が示しているのは、そういう可能性です。

夏を越えた、その先まで見ておきましょう、という話なのです。


なぜ暑さが脳に届くのか──眠りと「脳の掃除係」

では、暑さはどんな道すじで脳の健康に関わるのでしょうか。近年もっとも注目されているのが、「グリンパティックシステム」と呼ばれるしくみです。

これは、脳の中の老廃物を洗い流す排水のしくみです。脳を包む脳脊髄液(のうせきずいえき)が血管のまわりの隙間から脳の内部へ入り込み、たまった不要なタンパク質──アルツハイマー病との関わりが指摘されるアミロイドβ(べーた)などを、押し流して運び出します。

そしてここが肝心なところです。この掃除は、起きているあいだはほとんど働きません。神経の活動が盛んな昼間は、機能がおよそ9割まで落ちてしまうことがわかっています。掃除係が本気を出すのは、深いノンレム睡眠のときです。眠りが深まると、脳全体にゆっくりとした大きな波(デルタ波)が広がり、神経細胞そのものが縮んで細胞と細胞のあいだに隙間ができます。そこへ脳脊髄液がどっと流れ込む。眠っているあいだに、脳は自分を洗っているのです。

さらに、この深い眠りに入るためには、ひとつ条件があります。からだの奥の温度──深部体温が、0.5℃から1℃ほど下がることです。眠くなると手足がぽかぽかしてくるのは、そこから熱を逃がして内側を冷やしている合図なのですね。

ところが、寝室の温度が高いままだと、この深部体温がうまく下がりません。からだは熱を逃がそうと交感神経を働かせ続け、緊張がとけないまま眠りが浅くなり、夜中に何度も目が覚めます。すると、深い眠りのときにしか動かない掃除係が、その晩は十分に働けないまま朝を迎えることになります。

熱帯夜が一晩あっただけなら、取り返しはつくでしょう。けれど、それがひと夏、そして何年も続いたとしたら。先ほどの研究が見つけた「時間差」の正体は、このあたりにあるのかもしれません。


🌸 美咲
「眠っているあいだに、脳がお掃除をしている……。知りませんでした」

🍵 悠々
「面白いでしょう。そして、東洋医学もまた、夏の暑さと眠りをずっと結びつけて考えてきたんですよ」

🌸 美咲
「二千年前から、ですか?」

🍵 悠々
「ええ。漢方では夏の強い暑さを『暑邪(しょじゃ)』と呼びます。この暑邪には、はっきりした二つの性質があります。ひとつは、気(き)を消耗させること。もうひとつは、津液(しんえき)──からだの潤いを奪うことです。

古典の『黄帝内経(こうていだいけい)』には『壮火(そうか)は気を食む』という言葉があります。度を越した強い火は、私たちの元気そのものを食べてしまう、という意味です。汗をかくたびに、水分だけでなく元気も一緒に流れ出ていく。だから夏の疲れは、ただ休んでも抜けにくいのです」

🌸 美咲
「暑さは、水分と元気の両方を持っていってしまうんですね」

🍵 悠々
「そのとおりです。そして東洋医学では、夏は『心(しん)』の季節とされます。この心は、血を巡らせる働きだけでなく、意識や眠りをつかさどるとも考えられてきました。『汗は心の液』という言い方もあります。汗をかきすぎると心が消耗し、眠りが浅くなり、頭がすっきりしない──昔の人は、そう見ていたわけです。

暑さで眠りが乱れ、その乱れが頭に響く。現代の研究が脳脊髄液の流れという形で描いてみせたものと、驚くほど近いところを見ていた気がしませんか」


夏の夜の不調──漢方が見つめる三つの型

🍵 悠々
「暑さで調子を崩すといっても、その現れ方はひとりひとり違います。大きく三つに分けて考えてみましょう」

型1:気も潤いも一緒に減った──だるくて動けない

汗をかきすぎて、気(元気)と津液(潤い)の両方が足りなくなった状態です。漢方では「気陰両虚(きいんりょうきょ)」と呼びます。からだが重だるく、食欲がわかず、少し動いただけで息切れがする。汗はだらだら出るのに、暑さがこもったように感じる。夏バテと呼ばれる状態の、いちばん典型的な姿です。

こうした方には清暑益気湯(せいしょえっきとう)が用いられます。名前のとおり、暑さを清まし、気を益す処方です。人参(にんじん)と黄耆(おうぎ)が減ってしまった元気を補い、麦門冬(ばくもんどう)が乾いた潤いを戻し、五味子(ごみし)が出ていきすぎる汗をそっと引き止める。抜けていく元気に蓋をして、内側から満たしなおすチームです。

型2:熱がこもり、水の巡りが偏った──ほてりと頭の重さ

熱が抜けきらず、からだの中の水があるべき場所から外れてしまった状態です。喉がやたらと渇いて、いくら飲んでも足りない、顔がほてる、汗が止まらない。あるいは、飲んだ水がうまく巡らず、頭が重い、めまいがする、足がむくむ。同じ暑さでも、こちらは水の問題が前に出ます。

強い口渇とほてりが目立つ場合には白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)が知られています。石膏(せっこう)と知母(ちも)が、内にこもった熱をすっと冷ましていきます。

一方、頭重感やむくみのように水の偏りが目立つ場合には五苓散(ごれいさん)が用いられます。沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、猪苓(ちょれい)が滞った水を動かし、桂皮(けいひ)が全体の巡りを助ける。水路を整えて、偏った流れをならす処方です。

型3:夜の熱で眠りが浅い──頭がもやついたまま朝を迎える

今日のテーマにいちばん近い型です。日中の疲れは強いのに、夜になると目が冴えてしまう。寝ついてもすぐ目が覚める。朝起きても頭がすっきりしない。漢方では、暑さで消耗した状態が眠りに現れたものと考えます。

心身が疲れきっているのに眠れない方には酸棗仁湯(さんそうにんとう)が助けになることがあります。酸棗仁(さんそうにん)が、高ぶって休めなくなった心を静め、眠りへと橋を架けます。

また、年齢を重ねて、朝の頭の重さやめまい、もやついた感じが続く方には釣藤散(ちょうとうさん)が知られています。釣藤鈎(ちょうとうこう)が、上へ昇りすぎた気をふわりと撫でおろす。逆立った気配を、そっと落ち着かせる処方です。

ただし、漢方薬はあくまでも体質や症状に合わせて選ぶものです。眠れない日が続いたり、物忘れが気になったり、日常生活に支障が出ている場合は、まず医療機関にご相談ください。その上で、日々の養生として漢方を取り入れることをご検討ください。


🌸 美咲
「暑さを我慢するのが養生だと、どこかで思っていました」

🍵 悠々
「我慢は養生ではありませんよ。とくに今年のような夏は、そうです。今日からできる工夫を、三つお伝えしますね」

今日から始める「夏の夜」の養生三つ

工夫1:水と一緒に、塩分も摂る

汗で失われるのは水だけではありません。水だけを大量に飲むと、かえって体内の塩分が薄まりすぎることがあります。麦茶に梅干しを一つ添える、味噌汁を一杯飲む、経口補水液を常備しておく。喉が渇いてからではなく、渇く前にこまめに。東洋医学でも、酸味と塩味は汗の出すぎを抑え、潤いを保つ味とされてきました。

工夫2:夜は寝室を冷やす。エアコンは、脳を守る道具

「エアコンはからだに悪い」という思い込みは、この夏かぎりで手放してよいものです。深い眠りに入るには、からだの奥の温度が下がる必要がある。寝室が暑いままでは、その条件が整いません。冷房は一晩つけたままにして、風がからだに直接あたらないよう向きだけ調整しましょう。麻や綿など、汗を吸って通気のよい寝具を選ぶのも助けになります。

入浴は、就寝の1時間半ほど前に。湯船で一度からだを温めておくと、その後の放熱で深部体温がなだらかに下がり、眠りに入りやすくなります。

工夫3:暑さの疲れは、数日かけて戻す

夏の疲れは、一晩寝れば消えるものではありません。とくに気と潤いを一緒に失ったあとは、補うのにも時間がかかります。豚肉や豆腐、卵で気を養い、オクラや山芋、モロヘイヤのような粘りのある食材で潤いを守る。冷たいものばかりでお腹を冷やさないよう、温かい汁物を一日一杯。翌日、翌々日まで見越して手当てをする──それが、暑い夏を越えていく方の養生です。


🌸 美咲
「今夜からエアコンをつけて寝ようと思います。なんだか、許してもらえた気分です」

🍵 悠々
「許すも何も、それが正しい養生ですよ。

今回の研究が教えてくれたのは、暑さの影響はその日で終わらないかもしれない、ということでした。けれどこれは、怖がるための知らせではありません。むしろ逆です。眠りを守ることが、そのまま脳を守ることにつながるかもしれない──そういう、静かな希望の話だと私は受け取りました。

昼の暑さは避ける。夜は涼しく整える。失ったぶんは、数日かけて補う。特別なことは、何ひとつありません。

暑い日が続きます。どうか、我慢を美徳にしないでください」

🌸 美咲
「まずは今夜、ぐっすり眠ってみます」

🍵 悠々
「ええ、それがいちばんです。よく眠ることは、脳にとっての立派な養生です」

あなたの毎日が、少しでも元気で快適なものになりますように。


参考文献


二十四節気と漢方

季節の移り変わりに合わせた養生や漢方のアドバイスをまとめています。

悠々漢方のKindle書籍

日々の健康管理に役立つ情報をまとめた電子書籍シリーズです。

悠々漢方のLINEスタンプ一覧

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