その不安、「性格のせい」ではないかもしれません
皆さん、こんにちは。悠々漢方です。

「最近、なんとなくずっと不安で」「特に理由がないのに、胸がざわざわする」──そんな漠然とした心のもやもやを、あなたは「自分の性格のせい」だと思っていませんか。
実は、2026年に発表されたある調査が、その思い込みの深刻さを数字で示しました。日本人の全般性不安症(GAD)患者のうち、じつに71.4%が自分の不安を「性格に起因するもの」と考えていた──。病名すら知らないまま、ひとりで抱え込んでいた方が大半だったのです。
今日は、この「見えにくい病」の実態と、東洋医学が古くから大切にしてきた「心とからだを分けない」養生の知恵をお話しします。
🌸 美咲
「悠々さん、私……最近、特にこれといった原因がないのに、ずっとそわそわするんです。仕事のことも、家族のことも、まだ起きていない未来のことまで心配で」
🍵 悠々
「美咲さん、それはおつらいですね。ちなみに、その状態がどのくらい続いていますか?」
🌸 美咲
「もう半年くらいかも……。でも、周りに相談しても『考えすぎだよ』とか『そういう性格でしょ』って言われるので、病院に行くほどのことじゃないかなって」
🍵 悠々
「実はね、美咲さん。その『性格のせい』という思い込みこそが、いちばん深い落とし穴なんです。最近の研究が、まさにその実態を明らかにしました」

72.4%が病名を知らない──見えない壁に阻まれるGAD患者
この調査は、ヴィアトリス製薬の野本佳介氏らが、医学誌「Neuropsychiatric Disease and Treatment」2026年2月24日号に報告したものです。
対象となったのは、抗うつ薬ベンラファキシン──セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬と呼ばれるタイプの薬──の臨床試験に参加した日本人GAD患者98名。ウェブベースの質問票を用いて、疾患認識、受診行動、日常生活への影響などを調査しました。
主な結果を整理します。
最も多かった症状──
過度の不安または心配:99.0%
易疲労性(疲れやすさ):86.7%
睡眠障害:82.7%
日常生活への影響──
回答者の53.1%が「仕事や勉強が最も影響を受けている」と回答
具体的には、集中力の低下、効率の低下、身体的な負担
そして、ここからがこの研究の核心です。
疾患認知度と受診行動──
72.4%が「GAD(全般性不安症)」という病名を聞いたことがなかった
71.4%が不安の原因を「自分の性格のせい」と考えていた
臨床試験に参加する前に医療機関を受診していたのは、わずか11.2%
自ら受診した患者のうち、最も多い診断は「うつ病」(36.4%)
正しく「GAD」と診断されていた患者は、たった9.1%
つまり──病名を知らず、性格のせいだと思い込み、病院にも行かず、行ったとしても正しい診断にたどり着けない。この「見えない壁」が何重にも重なっていたのです。

全般性不安症(GAD)
本記事は一般的な健康・漢方知識の提供を目的としており、特定の商品の効能を保証したり、医学的な診断・治療に代わるものではありません。気になる症状や検査値の異常がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
🌸 美咲
「72.4%が病名を知らなかった……。私もまさにそうかもしれません」
🍵 悠々
「美咲さんだけじゃないんですよ。そして東洋医学は、この『漠然とした不安』を昔からとても丁寧に見つめてきた歴史があります」
🌸 美咲
「漢方でも、不安って扱うんですか?」
🍵 悠々
「ええ。漢方には『心身一如(しんしんいちにょ)』という根本的な考え方があります。心とからだは別のものではなく、ひとつながり。だから不安や心配事は、必ずからだのどこかに『しるし』として現れると考えるんです。
たとえば、東洋医学では不安の背景に『気(き)の不足や乱れ』があると捉えます。気とは、からだを巡る見えないエネルギーのようなもの。これが不足すると──まるで家の照明がちかちか点滅するように──心が落ち着かず、些細なことが過剰に気になるようになります」
🌸 美咲
「あ、なんかわかります。疲れているときほど、不安が強くなる気がします」
🍵 悠々
「まさに。東洋医学では、気の不足は『気虚(ききょ)』、気の巡りが滞ることは『気滞(きたい)』と呼びます。GADの患者さんの多くが訴える疲れやすさ、眠りの浅さ、集中力の低下──これらはすべて、気虚や気滞の症状と重なるんです」
「性格のせい」から抜け出す──漢方が見つめる不安の三つの型
🍵 悠々
「不安の裏側にあるからだの状態は、大きく三つに分けて考えることができます」
型1:気が足りない──心脾両虚(しんぴりょうきょ)
心と脾(消化器系)の力が同時に弱っている状態。考え事をすると疲れ、食欲が落ち、眠りが浅い。漢方では「心(しん)は神(しん)を蔵する」──つまり心が弱ると精神の安定も損なわれると考えます。不安に加えて、もの忘れや動悸を感じる方に多い型です。
代表的な処方は加味帰脾湯(かみきひとう)。人参(にんじん)や黄耆(おうぎ)で気を補い、酸棗仁(さんそうにん)や竜眼肉(りゅうがんにく)で心を鎮める──言わば、弱った心のエンジンに静かに燃料を注ぐような処方です。

型2:気が上がりすぎる──肝気鬱結(かんきうっけつ)
ストレスで気の流れが詰まり、上へ突き上げるように胸や喉に違和感が出る状態。のどに何かが詰まった感じ──漢方ではこれを「梅核気(ばいかくき)」と呼びます。飲み込めもせず、吐き出せもしない、まるで梅の種が喉に引っかかっているような感覚です。
この型に用いられるのが半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)。半夏(はんげ)が気を下ろし、厚朴(こうぼく)が気の巡りを整える。喉のつかえとともに不安が和らぐ方も少なくありません。

型3:気が暴走する──肝陽上亢(かんようじょうこう)
イライラと不安が同居し、些細なことで怒りが噴き出す。頭に血が上りやすく、肩が凝り、夜中にふと目が覚める。肝の気が抑えきれずに上昇している状態です。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、柴胡(さいこ)で肝の熱を鎮め、竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)──化石や牡蠣殻という「重たいもの」の力で、上に昇った気をどっしり引き下ろします。嵐のような心を、重石で鎮めるイメージです。

🌸 美咲
「三つの型、全部少しずつ当てはまる気がします……」
🍵 悠々
「実際、複数の型が重なることもよくあります。だからこそ漢方は『あなた全体を診る』ことを大切にするんです。
でも、漢方薬に頼る前に、まず日々の養生で整えられることもたくさんありますよ。今日から始められる三つの養生をお伝えしますね」
今日から始める「不安の養生」三つの工夫
工夫1:朝の光を浴びて「気」を目覚めさせる
東洋医学では、朝は「陽気」が生まれる時間。朝の自然光を15分浴びることは、からだの気を目覚めさせ、一日のリズムを整える最もシンプルな養生です。GADの研究でも睡眠障害が82.7%に見られましたが、朝の光は体内時計をリセットし、夜の眠りの質も高めてくれます。

工夫2:「なつめのお茶」で心脾を静かに養う
大棗(たいそう)──なつめは、漢方処方の多くに配合される「縁の下の力持ち」。脾を健やかにし、心を穏やかにする生薬です。乾燥なつめ2〜3個をカップに入れて熱湯を注ぎ、10分ほど蒸らす。ほんのり甘いそのお茶は、午後のそわそわした心を静かに落ち着けてくれます。

工夫3:「書き出す養生」で気の詰まりを流す
漠然とした不安の厄介なところは、「何が不安なのか分からない」こと。寝る前に、今日気になったことを3つだけ紙に書き出してみてください。気の詰まりは、言葉にして外に出すことで少しずつほぐれます。東洋医学の「気の発散」を、紙とペンで行うようなものです。

🌸 美咲
「性格のせいだと思っていたことが、もしかしたら病気だったかもしれない……。なんだか、少しほっとしたような、複雑な気持ちです」
🍵 悠々
「ほっとした、という感覚──それ自体が、とても大切な一歩です。
この研究が教えてくれたのは、『知らないこと』が最大の壁だということ。7割以上の方が病名を知らず、性格のせいだと思い込み、ひとりで耐えていた。でも、今日このコラムを読んだあなたは、もうその壁の向こう側にいます。
漢方は2000年以上前から、不安を『心の弱さ』ではなく『からだ全体の偏り』として捉えてきました。気が足りなければ補い、詰まっていれば流し、暴走していれば鎮める──。それは決して、あなたの性格を否定することではありません。むしろ、あなたのからだが発しているサインに、耳を傾けることなんです。
もし心当たりがあるなら、まずは今日ご紹介した三つの養生から。そして、気になる方は漢方に詳しい医師や薬剤師にご相談ください。あなたの不安に、きっと名前がつきます。名前がつけば、対処の道が開けます」
🌸 美咲
「……ありがとうございます。まず、朝の光を浴びることと、なつめのお茶から始めてみます」

二十四節気と漢方
季節の移り変わりに合わせた養生や漢方のアドバイスをまとめています。
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