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虚と実は、足りないのか多すぎるのか──同じ風邪でも処方が変わる理由

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皆さん、こんにちは。悠々漢方です。

昨日は陰陽(いんよう)という、対で見る考え方をお話ししました。今日はその見方を、判断に使える形にしていきます。

「虚実(きょじつ)」です。足りないのか、多すぎるのか。この一本の軸が、漢方の処方選びを大きく左右します。

虚は足りない、実は多すぎる

言葉の意味は、そのままです。

虚(きょ)は、体の力が足りない状態を指します。気や血が不足し、外からの負担に押されている。

実(じつ)は、多すぎる状態です。体力そのものは保たれていて、病の元と体の力がぶつかり合っている。あるいは、余分なものが体に溜まっている。

ここで大切なのは、実が「良い」わけではないということです。昨日と同じで、良し悪しの話ではありません。実は実で、詰まりや熱として不調を起こします。

虚実は、体質でもあり、その日の状態でもある

虚実には、二つの見方があります。

一つは、その人がもともと持っている傾きです。生まれつき体力があり、がっしりしていて、暑がりで、押しが強い方。こうした方は実に傾きやすいとされます。逆に、細身で疲れやすく、寒がりで、食が細い方は虚に傾きやすい。

もう一つは、そのときの状態です。ふだんは実の傾きがある方でも、大きな病気の後や、働きづめの時期には虚に傾きます。若い頃と同じ手当てが合わなくなるのは、このためです。

そして年齢とともに、多くの方はゆっくり虚のほうへ移っていきます。これは衰えではなく、自然な移り変わりです。

同じ風邪でも、処方が変わります

虚実がいちばんわかりやすく現れるのが、風邪のひきはじめです。

体力のある方が、寒気とともに急に発熱し、汗が出ず、首や肩がこわばる。この状態には葛根湯(かっこんとう)の名前が挙がります。強く発散させて、病の元を追い出す方向です。

一方、ふだんから体力があまりなく、汗をかきやすく、ゆっくり調子を崩していく方。この場合は桂枝湯(けいしとう)が語られます。強く追い出すのではなく、体を助けながら整える方向です。

同じ「風邪のひきはじめ」でも、選ばれるものが違う。これが虚実で見るということです。

「葛根湯が効かなかった」という経験をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。効かなかったのではなく、方向が合っていなかったのかもしれない。虚の方に強い発散をかければ、かえって体力を削ってしまうことがあります。

麻黄湯(まおうとう)はさらに実の側に寄った処方とされ、中心となる麻黄(まおう)は発散させる力の強い生薬として知られています。体力の落ちている方には慎重に扱われるのは、そのためです。

虚実の手がかり

おおまかな傾向として、こうした点が挙げられます。

実に傾きやすい方

  • 体格がしっかりしていて、筋肉がつきやすい

  • 暑がりで、汗をかいてもすぐ回復する

  • 声が大きく、押しが強い

  • 便秘がちで、お腹に力がある

  • 症状が急に強く出る

虚に傾きやすい方

  • 細身で、疲れやすい

  • 寒がりで、汗をかくと消耗する

  • 声が小さく、疲れると話すのが億劫になる

  • 軟便になりやすく、お腹が冷えやすい

  • 症状がじわじわ続く

どちらとも言い切れない方も多くいらっしゃいます。それを「中間証(ちゅうかんしょう)」と呼ぶこともあります。多くの方は、この中間のどこかにいます。

補うのか、瀉すのか

虚実が決まると、方向が決まります。

虚には補う。足りないものを足していく方向です。十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)のように、名前に「大いに補う」と入っている処方もあります。

実には瀉(しゃ)す。余分なものを出す方向です。防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)や大柴胡湯(だいさいことう)は、この側で語られる処方です。

そしてここが肝心なところですが、方向を取り違えると噛み合いません。虚の方に瀉す処方を使えば、少ない力をさらに削ることになる。実の方に補う処方を使えば、詰まりをさらに強めることになります。

「体に良さそうだから飲んでみる」が漢方で通用しにくいのは、この構造があるからです。

※漢方薬は体質(証)や症状によって、合うものが一人ひとり異なります。ご自身に合った漢方薬を選ぶためには、自己判断をなさらず、必ず漢方に詳しい薬剤師や医師にご相談ください。また、症状が強い場合や長く続く場合は、まず医療機関を受診してください。

今日の小さな養生:自分の傾きを、疑ってみる

今日していただきたいのは、少し変わったことです。

もし「自分は体力があるほうだ」と思っていらっしゃるなら、今の状態がそのとおりかを一度疑ってみてください。若い頃の自分を基準にしていないでしょうか。

逆に「自分は虚弱だ」と思い込んでいる方も、同じです。しっかり食べて眠れているなら、思っているより実の側にいるかもしれません。

虚実は、固定された身分ではありません。季節でも、年齢でも、その月の忙しさでも動きます。今日の自分がどちらに傾いているかを見ることのほうが、昔つけた自己診断より役に立ちます。

明日は、もう一本の軸である「寒熱(かんねつ)」を見ていきます。温めるのか、冷ますのか。虚実と組み合わせると、判断がぐっと立体的になります。

あなたの毎日が、少しでも元気で快適なものになりますように。

悠々漢方


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