虚と実は、足りないのか多すぎるのか──同じ風邪でも処方が変わる理由
この記事の内容を、毎朝1分で復習したい方へ。
Substackでは、今日のテーマを「朝の漢方1問」として、クイズ形式でお届けしています。登録していただいた方には、漢方の基礎を学べる「厳選30問ドリル」もお渡ししています。読むだけで終わらせず、少しずつ身につけたい方はこちらからどうぞ。

皆さん、こんにちは。悠々漢方です。
昨日は陰陽(いんよう)という、対で見る考え方をお話ししました。今日はその見方を、判断に使える形にしていきます。
「虚実(きょじつ)」です。足りないのか、多すぎるのか。この一本の軸が、漢方の処方選びを大きく左右します。
虚は足りない、実は多すぎる
言葉の意味は、そのままです。
虚(きょ)は、体の力が足りない状態を指します。気や血が不足し、外からの負担に押されている。
実(じつ)は、多すぎる状態です。体力そのものは保たれていて、病の元と体の力がぶつかり合っている。あるいは、余分なものが体に溜まっている。
ここで大切なのは、実が「良い」わけではないということです。昨日と同じで、良し悪しの話ではありません。実は実で、詰まりや熱として不調を起こします。

虚実は、体質でもあり、その日の状態でもある
虚実には、二つの見方があります。
一つは、その人がもともと持っている傾きです。生まれつき体力があり、がっしりしていて、暑がりで、押しが強い方。こうした方は実に傾きやすいとされます。逆に、細身で疲れやすく、寒がりで、食が細い方は虚に傾きやすい。
もう一つは、そのときの状態です。ふだんは実の傾きがある方でも、大きな病気の後や、働きづめの時期には虚に傾きます。若い頃と同じ手当てが合わなくなるのは、このためです。
そして年齢とともに、多くの方はゆっくり虚のほうへ移っていきます。これは衰えではなく、自然な移り変わりです。

同じ風邪でも、処方が変わります
虚実がいちばんわかりやすく現れるのが、風邪のひきはじめです。
体力のある方が、寒気とともに急に発熱し、汗が出ず、首や肩がこわばる。この状態には葛根湯(かっこんとう)の名前が挙がります。強く発散させて、病の元を追い出す方向です。
一方、ふだんから体力があまりなく、汗をかきやすく、ゆっくり調子を崩していく方。この場合は桂枝湯(けいしとう)が語られます。強く追い出すのではなく、体を助けながら整える方向です。
同じ「風邪のひきはじめ」でも、選ばれるものが違う。これが虚実で見るということです。
「葛根湯が効かなかった」という経験をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。効かなかったのではなく、方向が合っていなかったのかもしれない。虚の方に強い発散をかければ、かえって体力を削ってしまうことがあります。
麻黄湯(まおうとう)はさらに実の側に寄った処方とされ、中心となる麻黄(まおう)は発散させる力の強い生薬として知られています。体力の落ちている方には慎重に扱われるのは、そのためです。

虚実の手がかり
おおまかな傾向として、こうした点が挙げられます。
実に傾きやすい方
体格がしっかりしていて、筋肉がつきやすい
暑がりで、汗をかいてもすぐ回復する
声が大きく、押しが強い
便秘がちで、お腹に力がある
症状が急に強く出る
虚に傾きやすい方
細身で、疲れやすい
寒がりで、汗をかくと消耗する
声が小さく、疲れると話すのが億劫になる
軟便になりやすく、お腹が冷えやすい
症状がじわじわ続く
どちらとも言い切れない方も多くいらっしゃいます。それを「中間証(ちゅうかんしょう)」と呼ぶこともあります。多くの方は、この中間のどこかにいます。

補うのか、瀉すのか
虚実が決まると、方向が決まります。
虚には補う。足りないものを足していく方向です。十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)のように、名前に「大いに補う」と入っている処方もあります。
実には瀉(しゃ)す。余分なものを出す方向です。防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)や大柴胡湯(だいさいことう)は、この側で語られる処方です。
そしてここが肝心なところですが、方向を取り違えると噛み合いません。虚の方に瀉す処方を使えば、少ない力をさらに削ることになる。実の方に補う処方を使えば、詰まりをさらに強めることになります。
「体に良さそうだから飲んでみる」が漢方で通用しにくいのは、この構造があるからです。
※漢方薬は体質(証)や症状によって、合うものが一人ひとり異なります。ご自身に合った漢方薬を選ぶためには、自己判断をなさらず、必ず漢方に詳しい薬剤師や医師にご相談ください。また、症状が強い場合や長く続く場合は、まず医療機関を受診してください。

今日の小さな養生:自分の傾きを、疑ってみる
今日していただきたいのは、少し変わったことです。
もし「自分は体力があるほうだ」と思っていらっしゃるなら、今の状態がそのとおりかを一度疑ってみてください。若い頃の自分を基準にしていないでしょうか。
逆に「自分は虚弱だ」と思い込んでいる方も、同じです。しっかり食べて眠れているなら、思っているより実の側にいるかもしれません。
虚実は、固定された身分ではありません。季節でも、年齢でも、その月の忙しさでも動きます。今日の自分がどちらに傾いているかを見ることのほうが、昔つけた自己診断より役に立ちます。

明日は、もう一本の軸である「寒熱(かんねつ)」を見ていきます。温めるのか、冷ますのか。虚実と組み合わせると、判断がぐっと立体的になります。
あなたの毎日が、少しでも元気で快適なものになりますように。
悠々漢方
📩 毎朝届く「朝の漢方1問」──無料で始める養生習慣
「漢方って難しそう」と思っていませんか?
悠々漢方のSubstackでは、毎朝1問ずつ、暮らしに活かせる漢方の知恵をお届けしています。
今ご登録いただくと、「厳選30問・養生ドリル(PDF)」もプレゼント中。

悠々漢方のほかの活動
🌿 二十四節気と漢方(季節の養生ガイド)
📚 Kindle書籍(電子書籍シリーズ)
😊 LINEスタンプ
いいなと思ったら応援しよう!
記事が参考になりましたら、チップで応援いただけると励みになります。活動を応援してくださる方、チップでのサポートをお願いします。ご支援いただけると幸いです🌿