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舞い踊れ!第二十話:お嬢様 三つの歯車 回しけり

翌朝。私は、離れに集まったお三方の前に立ち、静かに扇を閉じました。 それぞれが昨日決めた新しいお作法を用いて、昨晩よりもずっと穏やかに意思を伝え合っている様子を見て、私は小さく微笑みました。

「お三方、よくお休みになれましたか? ……さて、昨日お約束した通り、あなたたちの新しい『持ち場』をお伝えします」

私は一人一人の顔を見渡し、はっきりと告げました。

「巳之助さんは、身体全体で物語を紡ぐ『立方(踊り手)』へ。 三郎助さんは、立方の動きを目で捉え、寸分の狂いもなく音を放つ『三味線方』へ。 そして文次さんは、暗闇の中で音から情景を描き出す『唄方(作詞・語り手)』へ移っていただきます」

立方から三味線へ、三味線から唄方へ。 私が意図して『舞の理わりが流れる順』に持ち場を告げたことに、彼らが気づいたかどうかは分かりません。 私の言葉を耳で聞いた文次さんが驚いたように顔を上げ、三郎助さんが巳之助さんの手真似を見てポンと手を打ちました。巳之助さんは自分の顔を指差して、目を白黒させています。

「な、なんでえお嬢様! 俺が唄方で、耳の聞こえねえ三郎助が三味線、声の出ねえ巳之助が立方だぁ!?」 文次さんが、巳之助さんの足音に導かれて私の正面を向き、驚きの声を上げました。

「ええ。今の持ち場のままでは、あなたたちは互いの動きや音を合わせることができず、限界を感じていたでしょう? でも、この形ならどうかしら」 私は扇の陰から、彼らの新しい関係性を一つずつ解きほぐすように語りました。

「目が見える三郎助さんが、巳之助さんの踊りの動きを目で見て三味線を弾き、声を出して合いの手を入れる。そして耳が聞こえる文次さんが、その合いの手を合図にして唄を合わせるのです。そうすれば、見事に舞の理わりが通るでしょう?」

それを聞いた二人は、はっと息を呑みました。慌てて巳之助さんが三郎助さんに手真似で伝えて遅れて三郎助さんも息を呑みました。 これまでの「どう足掻いても合わせられない」という絶望から一転、持ち場を変えればパズルのように見事に互いの欠落が補い合えることに三人ともが気づいたのです。

「それに加えて、お三方には今日から『互いに教え合うこと』を命じますわ」

「教え合う、でございやすか?」 「ええ。文次さんは三郎助さんに、身体の感覚だけで弾く三味線の技を教えなさい。 三郎助さんは、巳之助さんに立方の基本を教えなさい。 そして巳之助さんは、文次さんに噺家としての『声の使い方』と『息の使い方』を教えるのです」

文次さんが三郎助さんを導き、三郎助さんが巳之助さんを導き、巳之助さんが文次さんを導く。 全員が教え、全員が教えられる。かつての持ち場で培った技術を別の形へ移し替え、三つの歯車として完璧に噛み合うための、互いが師であり弟子となる関係性です。

文次さんは膝を打ち、「なるほど! そいつぁ面白えや!」と威勢よく笑いました。三郎助さんも声を出して「おう、俺の三味線と立方、どっちの腕も役に立つって寸法だな!」と嬉しそうに頷きます。

「ただし……」 私は、戸惑うように自分の身体を見下ろしている巳之助さんに扇を向けました。 「巳之助さん。あなたは噺家や鳴物としては一流でも、身体を動かす『立方』としては全くの素人です。ですから、そこだけは死に物狂いの猛特訓が必要ね」

私がそう言うと、巳之助さんは大げさに顔を引きつらせて、ばさりと衣擦れの音を立てて頭を抱え込みました。その情けない音を残された片耳で聞き取った文次さんが、様子を察してニヤリと不敵な笑みを浮かべました。

「……なぁ、お嬢様。俺たち三人がその新しい持ち場でみっちり腕を磨いて、一寸の狂いもねえ完璧な舞台を作ったとしたらよ。……あの天下の大看板、中村芝翫の旦那の度肝を抜くことができるかい?」 私の扇の奥の目が、スッと細められました。 「ええ。きっとあの天才役者も、腰を抜かして驚くことでしょうね」

その言葉を巳之助さんの手真似で伝え聞いた三郎助さんが、パン! と力強く手を叩きました。 「おうおう! あの俺たちをゴミ扱いして追い出しやがった座長を、俺たちの舞台で驚かせてやれるのか! そりゃあ痛快だぜ!」

三人の間に、静かだった火鉢へ油を注いだかのような、凄まじい熱が燃え上がりました。 這いずり回るような絶望を味わわされた三人が、自分たちの新しい居場所と、それを見せつけるべき「強大な目標」を見つけたのです。

「おう! そうと決まれば話は早い! 巳之助、俺が立方の基礎から骨の髄までみっちりしごいてやるから、覚悟しやがれ!」 立方の師となる三郎助さんが威勢よく声を上げると、それを耳で聞き取った文次さんが、追いかけるように言葉を続けます。 「へっ! やってやろうぜ! あのふてぶてしい芝翫の野郎の鼻を明かしてやるぞ!」 二人の怒号に、猛特訓を宣告されて頭を抱えていたはずの巳之助さんも顔を上げました。諦めどころか俄然やる気に満ちた清々しい顔で、ドンッ! と力強く床を踏み鳴らしたのです。

今の持ち場で空回りし続ける苦しみに比べれば、天才役者を見返すための猛特訓など、遥かに明るい道だということが、三人とも痛いほど分かっていたのでしょう。 互いの欠落を補い合い、新たな持ち場で輝くための道筋を見つけた彼らの目には、強い熱と野心が宿っていました。

「さあ、江戸一の舞台を作るための準備は整いました。存分に、お三方の力を見せてちょうだいな」

こうして、参蔵屋の離れにて、自分たちを追い出した大天才を驚かせるための、不器用なバケモノたちによる熱狂的な舞台作りが幕を開けたのです。


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夢都 父の研究サポートのバイト代として「チップは好きに受け取っていい」って言われて、なんとなく引き受けてしまいました。本当に面白かったらで構わないので気が向いたらお願いします。父の研究支援にも回したいと思ってます。