舞い踊れ!第二十六話:深酒で いつの間にやら 供奴
(んー、やっぱり酒が入ると調子が出るってえもんだな!) 俺は畳の上でゴロンと寝転がりながら、ぐいっと猪口の酒を煽った。
桜に大番頭の「恥の全記録」を書き留めさせた俺たち三人は、深夜の離れで車座になり、とことん深酒をしながら作戦会議を繰り広げていた。
「おい、巳之助! 三郎助!」 胡座をかいた文次が大声で呼ぶ。俺はすかさずパンパンと手を叩き、ドンッと足を踏み鳴らす。 「さあ、桜に書かせたあのバラバラのネタ帳を、どうやって極上の当て物(謎かけ)に仕立て上げるかだ」
俺がどうしたもんかねと首を捻りながら酒をちびちび飲んでいると、それを見ていた三郎助がニコニコ顔で通訳した。 「おう、巳之助が『酒がうめえな!』って言ってるぞ!」
「おい、三郎助!」 俺はすかさずトンッと足を踏んで三郎助の方向を教える。文次がそちらを真っ直ぐに向き、呆れたように毒づいた。 「だから酒ばっかり飲んでねえで真面目に考えろ! ……巳之助の講談みたいな物語を作ってみるのはどうだ?」
文次は手探りで三味線を引き寄せると、ポンポンと胴を叩きながら己の頭の中にある筋書きを語り始めた。 「前日も吉原に行って豪遊してきた旦那様。お供していった番頭は、昨日の『拳酒(けんざけ)』で負けに負けて、まだ二日酔いで千鳥足だ」 (ほうほう) 「そして今日、旦那様はまた『ふくら雀』に会いに行った。奴は慌てて追いかけるが、今日は同伴できず、廓の外で待つ間に旦那様のことを色々と大げさに自慢する」 「だが、自慢に夢中になりすぎて、持っていた提灯をどこかに置き忘れちまう。やべえと思ってキョロキョロうろたえ眼で探し回り、やっと見つけて戻った時には、旦那様はもう揚屋を通り過ぎてお帰りになった後。奴は慌ててまた走り出す……」 文次はそこでニヤリと不敵に笑った。 「だが、実は旦那様は花魁と遊んでたわけじゃなく、単に亡き奥様が好きだった琴の音を聞きに行っただけだった、っていう物語だ」
俺はハッとして、それから腹を抱えて音を立てないように大爆笑し、ドンッドンッと力強く足を踏み鳴らした。 (すげえ! 時系列に並べただけで、『旦那様はどこになぜ行ったのでしょう?』『番頭は行った先で何をしでかしたのでしょうか?』っていう、見事な二重の謎かけになるじゃねえか!)
俺の大興奮した身振りを見た三郎助が、ポンと手を打って大きな声を出した。 「おう、巳之助が『でっけえ謎かけになって最高だ!』って大喜びしてるぞ!」
文次が膝をバシッと叩いた。 「おい、巳之助!」 俺はパンと手を叩く。文次がこちらを向いた。 「だがな、この番頭は奴の真似をする。」 文次が見えない目をカッと見開いて、たまらないというように口角を吊り上げた。 「奴の振りで踊る。だからこそ、この謎を読み取るのは至難の業……『超難問』になるってわけだ! これぞ江戸一の切れ者を探すにはうってつけの当て物だぜ!」
(違いねえ!) 俺は嬉しくなって立ち上がると、酒瓶を持ったまま、二日酔いでふらつく千鳥足の奴の振り付けを大げさに踊り出した。 三郎助がそれを見て三味線を構え、ベンベンと力強くかき鳴らして「ヨォーッ!」と威勢のいい合いの手を入れる。素人の俺の変拍子にも、三郎助の音は寸分の狂いもなくピタリと重なる。 文次がその音と足拍子の振動を聞き取り、「りうちぇいぱまでんす!」「ちりちり身柱、亥の眼灸がくっきりと!」と、思いつくままに暗号めいた詞章を唄い上げる。
踊る。弾く。唄う。そして、呑む。 深夜の離れは、俺たち不器用なバケモノ三人衆が奏でる狂騒曲によって、凄まじい熱狂の渦に包まれていた。
……そして、翌朝。
チュン、チュンという雀の鳴き声と、頭をカチ割られそうな酷い頭痛で俺は目を覚ました。 あたりには空の徳利と猪口が転がり、文次は三味線を抱きかかえたまま大いびきをかいて畳に寝転がっている。昨晩、結局いつまで踊り狂っていたのか、記憶が完全に飛んでいた。
すると、俺より先にむくりと起き上がっていた三郎助が、頭を掻きながら文机の上を見つめ、ポンと手を打って大きな声を出した。
「おう、巳之助、文次! 起きろ!」 その大声に、文次が「うるせえな……」と片耳を押さえて身を起こした。 三郎助は、昨日桜に書かせたネタ帳の隣に散乱している、墨で真っ黒に書き殴られた何枚もの半紙を手に取った。 「昨日の夜、誰が書いたか知らねえが……時系列に沿った見事な詞章ができあがってるぜ! しかも一番上に、でかでかと『供奴(ともやっこ)』って題名が書いてあるぞ!」
俺は目を白黒させた。 (供奴? なんだそりゃ、俺は書いちゃいねえぞ! 第一、俺は字を書くのはめんどくせえんだ!) 俺が両手で激しくバッテンを作ると、三郎助が「おう、巳之助は書いてねえってよ!」と通訳する。
「俺は目が見えねえんだから、書けるわけがねえだろ」と文次が欠伸混じりに言う。 「おう、じゃあ俺が酔っ払って書いたのか? まあいいや、そいつぁ傑作だ!」 三郎助はニコニコと笑って、その『供奴』と書かれた半紙をヒラヒラと揺らした。
大番頭への意趣返しから始まり、江戸一の切れ者を試す超難問へ。 深酒と大悪ノリの果てに、奇跡的に噛み合った大作『供奴』は、こうしていつの間にか、俺たち三人の前にその姿を現していたのであった。
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父の研究サポートのバイト代として「チップは好きに受け取っていい」って言われて、なんとなく引き受けてしまいました。本当に面白かったらで構わないので気が向いたらお願いします。父の研究支援にも回したいと思ってます。