一般社団法人BowLの歴史をつまびらくインタビューシリーズ第3章:芽吹期|2018年〜2019年(後編)
本記事は、一般社団法人BowLの歴史を紐解く「つまびらきプロジェクト」を立ち上げられた徳里政亮さん(まっきー)にお声がけいただいてスタートした、BowLの歴史を紐解くインタビューシリーズ第3章の後編です。
前編・中編の記事は以下のリンクをご覧ください。
インタビューシリーズ第3章の後編にあたる今回は、BowL独自の「セルフリーダーシップ経営」の萌芽や新法人ポリネの設立など、よりメンタル不調に陥ることのない、心身ともに健康に過ごせる組織づくりや社会づくりにフォーカスした取り組みへ発展していく様子について伺いました。



また、これまでに公開した記事は以下のマガジンにも掲載しています。記事の一覧をご覧いただきたい場合はこちらをチェックいただけると幸いです。
「ティール組織」著者の来日とビジョン・クエスト
まっきー:
2019年9月には、東京工業大学でティール・ジャーニー・キャンパスがありましたね。
―「ティール組織」(英治出版)著者フレデリック・ラルー氏の来日イベントですね。フレデリック・ラルー氏の来日に加え、国内の先進的な組織づくりを行う起業家の皆さんが集い、分科会を主催されていました。
BowLのお二人は『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)』の監修を務められた吉原史郎さんらと共に、ホラクラシーの分科会に登壇されていましたね。
ホラクラシー(Holacracy)は、HolacracyOne社のブライアン・ロバートソン氏らによって開発された組織運営法であり、組織のパーパス実現のために日々の仕事上で起こる違和感(テンション)を即座により良い組織構造や仕事の進捗へと繋げる仕組み・やり方が設計されています。
フレデリック・ラルー「ティール組織」(英治出版)の中でも事例として紹介されており、国内最大規模の事例としてGMOグローバルサイン・HD全体550名超での導入・実践などがあります。
まっきー:
吉原史郎さんにはティール・ジャーニー・キャンパス以降も、BowLのホラクラシー実践について詳しく記事にまとめていただいたり、沖縄で開催されたティール組織に関する組織開発セミナーを実施する際にもお世話になりました。
BowLにとってティール・ジャーニー・キャンパスは、2017年5月の「O+Connecting Okinawa」(オープラス)以来となる、BowLの組織づくりについて広く発信する機会となりましたね。
ニカさん:
その後、山梨県の清里で開催されたリトリートにも参加しました。
「ティール組織」著者フレデリック・ラルーやティール組織解説者・嘉村賢州さん、英治出版の原田英治さんと下田理さん、当時のETIC.代表・宮城治男さんなど多くの起業家、ソーシャルリーダーといった方々が集まっていましたね。
まっきー:
僕はこの機会を通して、パーパスというものがどういったものか、もう一段階理解が深まったような気がします。
ニカさん:
確か、その場でラルーはパーパスに関して周波数とか、そういったことも話していたんだよな。
―「ティール組織」解説者の嘉村賢州さんもブログ記事でそのことに触れていますが、組織にはその存在目的を最もよく聴くことができる役割がいて、それは存在目的の発する声をラジオのように周波数を合わせて受信する役割。つまりソースだ、といったことも述べられていますね。
まっきー:
ニカさんはモヤモヤしてましたね。
ニカさん:
どこか、ラルーの言葉はしっくりこなくて。ただ、みぃちゃん(由佐美加子さん)の語る言葉とすごく似ていた、という感覚です。
―パーパスに関する議論は、2つの切り口で考えることができると言います。
1つは、組織の一人ひとりの思いや組織として持つ歴史、商品、繋がり、置かれた環境などから集合的に形作られ、見出されるというもの。
もう1つは、ソース原理における「ソース」のように、リスクをとって一歩踏み出したその人こそがプロジェクトや企業活動における創造性の源(ソース)であり、組織の存在目的に最もよく耳を澄ませることができるというもの。
どちらが正しいというものではないですが、当時のBowLとしてはまだその部分はしっくりきていなかったように感じられます。
まっきー:
ニカさんは、導入研修時にみんなの声を集約してパーパスをつくりあげた時、そのプロセスを大切にしていました。ただ、その後参加したビジョン・クエストから帰ってきた時、確信を持って「パーパスを変える」と言ったことが印象深かったです。
―ビジョン・クエストというと、ネイティブ・アメリカンのさまざまな部族で行われていたという通過儀礼の儀式ですね。ビジョン・クエストに参加する者は部族から独り離れ、非日常の空間で数日間を過ごし、深い内面の変容を遂げると言います。
ニカさん:
ビジョン・クエストは、自分の人生で一番と言えるくらい、大きく影響を受けた体験ですね。
―近年はワークショップの1つとして参加できるものもあるそうですが、ニカさんは1人で参加されたのですか?
ニカさん:
清里の清泉寮で開催されたリトリートの後に、外部アドバイザーのみぃちゃん(由佐美加子さん)からビジョン・クエストに誘われたんです。
ビジョン・クエストでの体験や発見は儀式の都合上、他言することができず、また、ある時ある条件が揃って誘われないと参加できないものらしく。そのため、まっきーは不参加でした。
英語も不慣れでしたし、抵抗感はめちゃくちゃありつつも、羽田から1人でトランジットを挟んで、アメリカのニューメキシコ州に向かうことになりました。

「ビジョン・クエストの模様は口外しない」という規則に則り、
その詳細を伺うことはありませんでした。
まっきー:
ビジョン・クエストから帰ってきたニカさんは「人が変わったな」という感じがしました。
僕の思うニカさんのイメージは、いつも身だしなみをきちんとして、髪も整え、髭も剃って、スラックス、ジャケットという感じ。僕は彼によく身だしなみについて指導されることもありましたし(笑)。本当にきちっとしているイメージでした。
帰国したその日にやってきたニカさんは、髭も伸びて日焼けして顔も真っ黒。下はスエットっていうかなりラフな格好でした。そして、めっちゃ笑顔。
ニカさん:
まず、帰国して空港から直接向かったからね。
―2018年の大きな3つの出会いから2019年後半のビジョン・クエストに至るまで、本当に多くの出来事があったように思います。
BowL独自の「セルフリーダーシップ経営」を打ち出していこうという際に、やはりビジョン・クエストが1つの転機になったのでしょうか?
ニカさん:
そうですね。明確にギアが上がった感じがします。
パーパスはこれまで自分の中でぶらさずイメージがありましたが、それがより明確になり、パーパスの刷新を提案しました。
また、BowLの外にもこのエネルギーを出していこうとなりましたね。BowLの外へ自分たちの取り組みや世界観を伝えていくことにも目を向け始めました。
BowLらしい「ティール組織」の体現へ
ニカさん:
「ティール組織」(英治出版)の中では3つの要素が紹介されています。
自主経営(Self-Management)、全体性(Wholeness)、存在目的(Evolutionary Purpose)。まず、これらの言葉を、自分たちらしい表現に落とし込んでいきたいと考えました。
自分の性質として、言葉、言語から質感を捉える傾向が強いためです。
まず、自主経営はセルフマネジメントですが、マネジメントか……と。どうしてもこれまで経験してきた「管理」というものがよぎってしまう。
そこで、「セルフリーダーシップ(Self-Leadership)」という表現はどうだろう?と考えました。
おそらく言わんとすることは同じです。一人ひとりの中にリーダーシップがあるんだ、という状態や質感に着目し、それを大事にしたいと思ったのです。
2つ目の「全体性」はというと、私なりには「自己一致」という言葉がしっくりくる。あるいは、アドラーが提唱する「共同体感覚」ですね。地域、職場、家庭などのコミュニティの中で人は繋がっているんだ、互いに支えあっているんだという感覚です。
3つ目の存在目的は、そのまま存在目的。あるいはパーパスですね。
ただ、パーパス実現のための「セルフリーダーシップ」を考えた場合、これはBowL独自の用語ですが、もう1つの要素である「リレーションシップ(Relationship)」が重要になると考えています。
同じパーパスに共感・共鳴し、共に実現をめざす一員として「セルフリーダーシップ」に基づいた自立と、互いを信頼する「リレーションシップ」に基づいた協働・連携はとても重要です。
そう考えると、全体性は「リレーションシップ」をより深いレベルに進めた人間に対する肯定・尊重があると思います。BowLという組織を超えて家族や地域、社会へと広く開かれた姿勢、実現していきたい状態と言えるかもしれません。
その後、少し時間が空いて2023年のことになりますが、これらBowL独自の哲学は「BowLが大切にしていること」として整理されていくことになります。
まっきー:
ニカさんが表現しようとしている世界観や組織のあり方が明確になるにつれ、僕はそれを具体的な制度にどのように落とし込んでいくかを考えていました。
これまでの制度づくりにおいても、有給取得、採用、報酬において社員を信頼して管理を手放すことにチャレンジしてきましたが、現在の形に繋がる報酬制度の思想設計をはじめたのが2019年でした。
給与・賞与の金額の差というのは、不平不満のもとになります。
まず、月例給与についてはメンバーが「安心して働ける」ことを目的として、生存給(ベーシックインカム)の考え方に基づいて設計することにしました。必要な各種手当を準備するという従来型のやり方にすると、メンバーが一番納得しやすい形として落ち着き、月例給与の制度が整いました。
ただ、そんな中でも既存の仕事の枠組みを超えて、熱心にエネルギーを費やしてるスタッフもいるわけです。ですので、半期に一回の賞与については、仕事に投下したエネルギーが循環したら良いな、それを制度上でサポートできれば良いな、と考えました。
これをきっかけに、チーム内に存在するロールと、人が投下したエネルギーを紐付けた形で、お金が循環していくような仕組みづくりを考えることとなったのです。
BowLが挑戦してきたホラクラシー体制化では、チームの全業務はロールとして可視化され、実行されます。そして、日々の仕事上のテンションによって新しいロールが作られたり、不要になったロールは無くなったり、別のロールに統合されるということも起こります。
それらロールはすべて、BowLのパーパス実現に必要なものですが、経営上の重要性や担う専門性、難易度などの違いによって、ロール間においてナチュラル・ヒエラルキー(自然な階層構造)も生じます。
そこで、それぞれのロールに期待される、これら経営上の重要度や専門性、難易度などをポイントとして割り振ることを着想しました。しかもメンバー同士で相互にポイント付けすることで、人事評価という色合いも小さくするよう設計しました。
こうして、ロールポイントの保有比率によって賞与を分配するという賞与システムが完成しました。
ポリネ事業立ち上げから法人設立へ
―2020年には一般社団法人ポリネも、株式会社BowLとは別の形として設立されるわけですが、2019年の時点では新しい法人設立の話などは既に出ていたのでしょうか?
まっきー:
実は、2019年度の時点でリワーク事業とポリネ事業という2つの事業がBowLで立ち上がっていました。
2018年時点では、企業・団体を対象としたメンタルヘルスの予防及びそのための組織支援、トレーニングを行う事業を「プラス事業」と呼んでいましたが、2019年になってポリネ事業へと改称した形ですね。

まっきー:
ちなみに、ポリネとは「ポリネーション(他花受粉・花粉交配)」を意味していて、ニカさんとみぃちゃん(由佐美加子さん)との対話の中で、
「(BowLという会社を大きくしなくても)ニカさんやBowLのスタッフがそれぞれ、必要とするクライアントの元へ翔んでいって、そこの会社をよくすれば良い」
「BowLの取り組みをポリネーション(他花受粉)すれば良いじゃない」
という一言をもらったことから「ポリネ」の名前が生まれました。
元々BowLは2013年にうつ病の方の復職を支援する生活訓練(自立訓練)の事業所としてスタートし、翌年に就労移行支援事業所としての指定を受けるも、この時点ではあくまでリワーク(復職・再就職)の支援が主たる事業でした。
そもそも、人がうつにならない職場づくり、組織づくりをするためには、研修生のリワーク(復職支援)だけでは叶えられません。
だからこそリワーク事業所の枠組みを超えて、企業・団体・教育委員会・商工会議所などを対象にメンタルヘルス研修も実践してきましたが、次第にその単発で関わる研修支援にも限界を感じていきました。もっと継続的なプログラムや伴走を通じて、チームや組織を支援するべきじゃないか?と。
2019年の時点で、僕はリワークにほとんど関わっておらず、ポリネ事業に時間とエネルギーを割き始めていました。そしてBowLとしては初の県外企業向けに研修を実施したり、ニカさんが経営者に対して1on1を実施するなど、現在のポリネの支援のタネが育まれていきました。
ニカさん:
私もこの頃に、役割が徐々に変わっていっていきますね。
本来、予防事業は一番やりたいところであり、私とまっきーはBowLのリワーク事業を飛び出して、そこにコミットしなきゃいけないと確信していました。
―それだけ、既存事業についてや現場については他の社員に任せても大丈夫だという状態になっていたのですね。
まっきー:
逆に飛び出さないと、既存の枠組みや考え方に意識を引っ張られるということもありました。
例えば、リワーク事業とポリネ事業の両事業をどう整合性をはかるか?そもそも、まったく新しい事業を構想なので、既存のBowLの体制とどう足並みを揃えるのか?といった課題が出てくるようになりました。
隙間時間でポリネの事業に取り組む状態では、エネルギーも高まらない上、分散してしまいます。
考え抜いた末にBowLとポリネを分社させる必要性を感じ、2020年の一般社団法人ポリネ設立へと繋がりました。
ホラクラシー実践についてのテンション
―後に新しい法人設立に繋がるほど、既存の事業アイデアとは異なるものが組織に生まれてくると、それはもはや社内ベンチャーですね。そうなると、組織運営が難しい部分やうまくいかない部分も出てきたのではないかと思います。
ニカさん:
この頃、「もうホラクラシーはやめようか」という話を皆にしましたね。
ミーティングはマンネリ化し始めていて、創造的なテンションが出てくることも減っていた。しかも、ミーティング中では出なかったテンションが、影で話されているというのも増えてきていた。
ここで、引き算を検討し始めているわけです。
まっきー:
ホラクラシーに関しては僕も当時、葛藤がありました。
ホラクラシーの導入当初はホラクラシー・キーパーとしての役割を担っていましたし、ホラクラシーの仕組みに沿った制度づくりにも携わっていました。
一方でポリネ事業の稼働を考えた時、ホラクラシーの枠の外やBowLという組織の外の方がロールの縛りもなく自由に動けるというジレンマがありました。
ホラクラシーの運営そのものをどうするか?というニカさんのメタなテンションを受けて、まず、タクティカル・ミーティングを休止することにしました。
2020年以降、流れも変わって大きく動いていきます。この時点では中途半端な状態になっていますが、また次回以降お話しできればと思いますね。
2018〜2019年のBowLとは?
―ありがとうございます。最後に、お二人にとって2018〜2019年とはどのような時期だったのか?BowLの歴史にとってどのような位置付けだったのか?お聞かせください。
まっきー:
前回の2015〜2017年の時期はサナギと表現しましたが、この2018〜2019年は羽化し始めてる時期だと思います。
みぃちゃん(由佐美加子さん)や桑原香苗さんと出会い、伴走やフィードバックをいただく中で、「僕って何をしたいんだろう?」という葛藤状態から「僕ってこんな人で、こんなことをやりたいんだ」と明確さが増してきました。これは、ホラクラシー実践を通じてかなり内面の発達が引き上げられたと思います。
一人ひとりの言動、一つひとつの意思決定や判断について、ティール組織で言うところの「オレンジ的なエネルギーを感じるな」と、BowLで起こっていることを実践を通じて理解を深めていった感覚があります。
「自分自身や他者を”許す”」ってどういうことなのか?についてもこの時期の実践や体験から学んでいました。
BowLの経営について自分ごと化も深まって、僕も参画しているという感覚も持ち始めた時期でもありますね。
ニカさん:
この時期は、インプットとアウトプットの質感が大きく変わった時期ですね。
インプットに関しては、自分にないものを積み重ねていくためという発想から、自分の中にあるものに繋げていくためという発想に変わりました。
自分の中に足りないものがあるから学ぶのではなく、まだどんな意味や価値があるかわからないけど、自分のセンサーに引っかかったものを直観的に選び取り、インプットしていくスタイルに変わりました。
そして、この時期に出会い、学び、取り入れたものが「ティール組織」であり、「森のリトリート®︎」であり「ホラクラシー」ですね。
これらの出会いと並行して、大手新聞社が主催する経営塾にも参加していたのですが、そこに登壇する名だたる経営者の方々と自分の間に、明確な違いを感じていました。
登壇されている経営者の話を聞くと、利益最優先の姿勢に基づき、多店舗展開やグローバル展開による右肩上がりの成長を実現したストーリーにあふれていましたし、何より経営者自身が輝いている。成功者である自分というあり方、佇まいで脚光を浴びているように感じられました。
ただ、時の人となった経営者も、後に同業他社にビジネスモデルを真似されて苦境に追いやられている様を見たり、事業規模をスケールさせたことによる急成長から急降下という様も見てきました。
外資系保険会社時代の自分も、月次単位で徹底して数字予測をするほどでしたが、今の自分はといえば年間計画や予算といったものも気にしなくなってきました。なぜなら、どれだけ精緻な計算をしようと数字はズレるものだから。数字に一喜一憂することも無くなってきました。
今までと、この時期以降、インプットのためのセンサーに引っかかるものが、明らかに違いますね。
私たちは従来の経営者とは違うものをめざしていることが確信できて、ビジョン・クエスト参加以降はパーパスもより明確になり、ギアも上がりました。
そしてアウトプットの形については「自分が行動するのではなく、あり方を体現・表現する」という形に変わりました。
こういったことが、自分の中で明らかになりましたね。
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次回、インタビューシリーズ第4章に続きます。
これまでに公開した一連の記事は、以下のマガジンにも掲載しています。記事の一覧をご覧いただきたい場合はこちらをチェックいただけると幸いです。
一般社団法人BowL、一般社団法人ポリネについての関連情報は、以下のリンクもご覧ください。
自問自答・試行錯誤を続けた先に辿り着いた「チームシップ経営」(前編)|静岡新聞SBS
空き家買取専科 組織作りを考える1年の取り組み(第六話 ポリネによる研修)
「本当にいい組織」ってなんだろう? すべてはひとつの記事から始まった(嘉村賢州+吉原史郎)|英治出版オンライン
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