一般社団法人BowLの歴史をつまびらくインタビューシリーズ第3章:芽吹期|2018年〜2019年(前編)
本記事は、一般社団法人BowLの歴史を紐解く「つまびらきプロジェクト」を立ち上げられた徳里政亮さん(まっきー)にお声がけいただいてスタートした、BowLの歴史を紐解くインタビューシリーズ第三弾です。
2013年1月に創業された株式会社BowLは、沖縄県浦添市に拠点を置く、県内初のうつ病特化型のリワーク(復職・再就職)専門機関です。これまでに500名にのぼる方々の復職・再就職を実現されてきました。
うつに陥った方のサポートだけではなく、そもそもうつにならない社会づくりをめざすBowLは、新しい働き方・組織の作り方・制度設計を自社自ら積極的に挑戦し、BowL独自の「チームシップ経営」及びチーム、組織、経営支援アプローチを開発してきました。
2020年には、うつを発症させず、健康的に働ける組織づくりをポリネーション(他花受粉)していくことをめざし、一般社団法人ポリネを設立。ポリネでは、経営者・マネジメント層を起点に、人と組織がより健やかな状態へ変容していくための独自プログラムを提供されています。
さらに、株式会社という法人形態と諸制度が、BowLが志向する経営のあり方と乖離しているという点から一般社団法人BowLへの移行を決断。
2024年10月1日を以て一般社団法人BowLとして第二創業されました。
第3回となる今回は、荷川取佳樹さん(ニカさん)と徳里政亮さん(まっきー)のお二人に、独自の組織づくりとメンタルヘルスの予防事業が発展していく2018〜2019年あたりのBowLについて伺いました。



また、これまでに公開した記事は以下のマガジンにも掲載しています。記事の一覧をご覧いただきたい場合はこちらをチェックいただけると幸いです。
2018年から2019年にかけて
予防事業の対象の拡大
―本日もよろしくお願いします。今回は、前回扱った2015〜2017年の続き。2018〜2019年までの株式会社BowLについて伺っていきたいと思います。
2018年12月以降は、BowLやポリネのHPでも「セルフリーダーシップ経営」というBowL独自の自律的な組織づくりが始まった時期と明記されていますね。
徳里(以下、まっきー):
2018年から2019年のBowLでは、組織のメンタルヘルス予防事業がより多様になっていったように思います。
うつ病発症後にBowLを訪れる研修生の仕事復帰サポートするだけではなく、そもそもうつ病にならないための職場環境づくりに目を向けた支援にも焦点をあて事業を育てていきました。
うつ病からの回復には、本人を取り巻く環境が重要です。
そして、うつ病当事者のご家族もまた悩みを共有できる場やサポートが必要であることもわかってきました。
こうした背景から、研修生のご家族を対象にした企画「ファミここ」が生まれました。

まっきー:
「Bサプリ」は、あたま・こころ・からだの各方面からアプローチするBowL独自のプログラムです。BowLのリワークにおいて研修生からの評判も良く、効果が高いと感じていたプログラムを対集団だけでなく個人向けにカスタマイズし、提供し始めた一例です。
全6回のプログラムを通して、いかなるストレス環境下でもしなやかに立ち回り、成長に繋げる力=レジリエンスを身につけることを目的としており、この取り組みは現在、一般社団法人ポリネに引き継がれています。

まっきー:
また、2019年10月には沖縄県内大学生向け支援事業「Bカレッジ」を開始しました。
メンタル不調等で勉学・通学が困難になった学生に対し、心理プログラムを提供することで復学をサポートする復学部と、復学ではなく就職のニーズが高まった場合に就職活動を支援する就活部の大きく2つに分かれており、社会人を対象としていた取り組みを学生に対して提供し始めた事業です。

まっきー:
創業以来、毎年継続的に開催してきた働く人向けのメンタルヘルス啓発活動では、ネッツトヨタ南国株式会社取締役相談役の横田英毅さんをお招きし、ホワイト企業や人間性尊重経営について理解を深める講演会の機会を作りました。

メンタル不調の予防と、組織経営の文脈を繋げて伝えることについて、BowLとしてもアンテナを立て意識している時期でもありました。
リモートワークの先駆け
まっきー:
2016年に首里の事業所を閉じて以降、BowLでは社員ひとりひとりが自律していく経営を目指し、管理を手放すことやそのための制度づくりを行ってきましたが、2017年から2018年にかけてその取り組みがより本格化しました。
2018年からニカさんは神奈川県葉山町に居を構え、関東への出張時にそこに滞在することが増えたり、事業停止していた首里オフィスで予防事業の構想を練ったりする機会が増えていました。
そして、僕自身もインプットのための研修で県外へ出る際に葉山に滞在していたので、現在では一般的になったZoomやChatサービスを活用したリモートワークを先んじて始めており、働き方を柔軟性をもたせる機会となりました。
2018年は僕自身、ニカさんと一緒に過ごす時間が長い時期でした。葉山の自然に囲まれて過ごしながら、BowLの制度づくりについてゆっくり考えました。
それこそ、1週間から10日間くらい、沖縄を離れるということもありました。この頃に話し合ったことが後に、有給取得に関する制度の整備につながり、休み方についてもより柔軟になっていきました。
3つの大きな出会い
荷川取(以下、ニカさん):
2018年から2019年にかけて、この頃は自分にとって大きな3つの出会いがありました。
「ティール組織」「森のリトリート®️」「ホラクラシー」、この3つです。
「ティール組織」はベルギー出身の元マッキンゼーコンサルタントのフレデリック・ラルーが著した新たな組織コンセプトであり、英語で書かれた「Reinventing Organizations(組織の再発明)」の邦訳書籍名です。
2018年1月に英治出版より「ティール組織」は出版され、その後10万部を超えるなど大きな反響を得ました。有史以来、人類が辿ってきた組織づくりの変遷を発達心理学の知見を応用して語ると共に、著者自身のリサーチによって発見された世界中のユニークな経営、組織づくりの事例が紹介されています。
特に注目される点として、人や組織を生産性を高めるための機械やその部品と見なす世界観から、人も組織も自然環境における1つの生命体であるという世界観への移行があります。
また、世界中で新たに現れつつある組織の特徴として自主経営(Self-Management)、全体性(Wholeness)、存在目的(Evolutionaly Purpose)の3点を挙げています。
ホラクラシー(Holacracy)は、HolacracyOne社のブライアン・ロバートソン氏らによって開発された組織運営法であり、組織のパーパス実現のために日々の仕事上で起こる違和感(テンション)を即座により良い組織構造や仕事の進捗へと繋げる仕組み・やり方が設計されています。
フレデリック・ラルー「ティール組織」(英治出版)の中でも事例として紹介されており、国内最大規模の事例としてGMOグローバルサイン・HD全体550名超での導入・実践などがあります。
この頃、BowLは「うつ病予防」という次元を超えた学びを続けており、「幸福学」にふれる目的で「shiawase2.0 シンポジウム―シアワセな世界を創ろう―」の参加したのですが、そこで株式会社森へが提供する「森のリトリート®︎」出会いました。
まっきー:
自然の中で過ごすリトリートを、本当にしっかりした形で経験したのは森のリトリート®︎がきっかけでしたね。
そして、葉山滞在で自然の中で過ごすことが増えていたこともあって、自然のメタファーで人や組織を捉える感覚も徐々に身についていったようにに思います。
実際に2018年6月にニカさんと共に参加した森のリトリート®︎の経験を経て、僕自身も無心でその場に佇めるようになったり、朽ちた木から芽が出ているのを見て「不要なものってないんだ」と感じられるようになりました。
この体験をきっかけに、仕事に対する焦燥感や不安感を自然に手放すことができましたし、関係性構築が難しかったメンバーに対しても素直に謝ることもできました。
人や組織の健康を自然をメタファーにする視点は、2017年の頃からニカさんのブログでも「竹はレジリエントな植物」というタイトルで表現されています。
ニカさん:
これと同時期に出会ったのが「ティール組織」です。このときBowLは、次の組織の形が見えていない状態でした。
いざ、分厚い本を手に取って読んでみると、BowLが考えていることや実現していきたいことがまさに書いてあるじゃん!となったんです。
これまでBowLが大事にしていたことが言語化されており、これからのBowLの組織づくりを指し示してくれました。ちなみに同時期に「ホラクラシー」の旧約版書籍も読み始めました。(現在は新訳版書籍が英治出版より出版されています)
まっきー:
とはいえ、書いてあることや言わんとすることはわかるものの、「ティール組織」で紹介されている企業の事例をそのままBowLに取り入れるだけではうまくいかないだろうとも感じていました。
そんな時に出会ったのが、桑原香苗さんです。
香苗さんは、ユング心理学から派生したプロセス指向心理学を学び、それを個人・集団へ提供するプロセスワークの実践者であり、知見を修めた対人支援者でした。
プロセスワークは心理療法としてだけではなく、集団に起こる葛藤の取り扱いや組織開発にも応用できる知見であり、香苗さんはこうした経験も豊富な方でした。さらに、ホラクラシーについても日本人として一早く海外でのトレーニングに参加し、専門家との連携を進めながら実践されており、BowLにとって本当にありがたい存在でした。
ひとりひとりの内面(感情や心の奥底のニーズ)を大切にした組織づくり、自己組織化組織のシステムを構築するためにも、ニカさんに香苗さんを繋げたいと思い、8月にその場をセッティングすることができました。
これをきっかけに、BowLにおけるホラクラシー実践に向けた準備が始まりました。
「手放すこと」による意図せぬ出来事
―2016年の由佐美加子さんとU理論との出会い以降、BowLではそれまで行ってきた管理を「手放す」ということが強調されていますね。
U理論(Theory U)とはマサチューセッツ工科大学C・オットー・シャーマー博士(C.Otto Sharmer)によって提唱された経営理論です。
過去のベストプラクティスからではなく、今ここにあるものを観察、内省することで出現する未来から学習し、行動するという一連のプロセスをアルファベットのUの字になぞらえて説明しています。
また、過去のパターンを脱却し、新しい未来を作るために個人の内省を進め、内面の変容を遂げることで、個人が関わる組織、コミュニティ、社会にまで変化を及ぼしうるといいます。
由佐美加子さんは、中土井僚さん(オーセンティックワークス株式会社)と共にオットー・シャーマー博士の書籍を翻訳出版し、国内におけるU理論の普及啓発に尽力された人物です。
―「手放す」というのも無責任に手放すわけではなく、そこには社員一人ひとりへの信頼があり、「任せる・委ねる」ことへの「恐れ」を超えての「手放す」かと思いますが、ホラクラシー導入以前まで、このプロセスは順調に進んでいたのでしょうか?
あるいは、「手放す」ことで何かうまくいかないことが起こったりしたのでしょうか?
トライアウト採用とその後
まっきー:
ふと思い浮かんだのは、「トライアウト採用」と題して行った採用についてですね。

まっきー:
これまでBowLの有給取得は、社長であるニカさんの承認が必須でしたが、これを省略し有給取得はチームごとの話し合いの中で相互承認で取得できるようにしました。
このような流れに沿って、次は採用決定についても権限を手放し、メンバー間での話し合いの中で決定できないか?と試みたのが、トライアウト採用です。
BowL入社を希望する方に対して、5日間の有償インターンの機会を提供します。現場でメンバーと働くことで相互理解を深める”選考期間”を設ける制度です。
2018年1月に開始したこの制度に1名の応募があり、いざ取り組んでみると、いわゆる”グリーンの罠”に見事にはまりました。
ティール組織でも言及されていた、互いの意見を尊重する話し合いを重視するために意思決定が遅くなり、決断できなくなるというプロセスに陥ってしまいました。
その当時のわたしたちは「メンバー全員の合意形成を目指す」を目的としていたため、結果的に皆が少しずつ妥協する形で、採用を決めた形になりました。妥協の上に成り立った意思決定はメンバー間の不満に繋がり、全員合意を目指すプロセスに疲弊感や徒労感を感じていたと思います。
その後、紆余曲折あってトライアウト採用した方は退職することとなるのですが、トップダウンでの意思決定を手放し、皆との対話で合意をめざす難しさを身をもって学ぶ機会となりました。
研修生とスタッフの関係性の歪み
ニカさん:
あと、あれもだね。ざわつく案件があった。あれは、2018年9月から翌年1月、2月くらいまで尾を引くことになったね。
―ざわつく案件、ですか。
まっきー:
ある研修生との関わりについて、ですね。
その方は利用開始当初、BowLの文化にすぐに馴染み、他の研修生とのコミュニケーションも円滑にされていました。しかし次第に社員との距離感が近づきすぎたり、他の研修生ともコミュニケーションのトラブルが起こったりするようになっていました。
こういった状況はどんどんエスカレートし、ついに、その方がBowLの若い支援員を捕まえて土下座させ、罵声を浴びせる事案に発展しました。
「あなた方は私に支援してくれるんでしょう?」「どうしてもっとそうしてくれないの?」と支援員に要求するようになってしまっていたのです。
研修生と支援員の関係は、最初は友達のような仲の良い関係だったのが、しだいに上下関係が出来上がってしまっていました。
その研修生は精神疾患の症状が悪化し、歯止めが効かない状態になっていました。結果的には、ニカさん、僕、その研修生とご家族で面談し、利用中止の決定を下すこととなりました。
前回のインタビューでもお話ししたように、BowLのリワークでは精神保健福祉に関して、教科書通りに取り組んでいる部分とBowL独自の取り組みの両方があり、それがBowLらしさ、つまり良さとして受け取ってもらえることにもつながっています。
研修生との近い距離感もその一つです。
特に、従来の「支援する側・される側」という固定化された関係性を超えたあり方はBowLらしい特徴です。研修生自身の主体性や能力を大事にし、日々のプログラム運営に関わってもらったり、季節ごとのイベントを企画してもらうなど、積極的に役割を担ってもらうのです。
ただし、それはメンタルヘルス領域の専門性をベースにおいた上での関わりでもあります。専門職としての軸が確立されていなければ、途端に友達感覚のなぁなぁな関係となる危険性もあります。これは結果的に研修生のためにならないということが起こってしまいます。
ニカさん:
その時ばかりは「支援する側・される側」という構図を意図的につくり、専門性という権威をもって対処せざるを得ない状態になっていたね。
まっきー:
実はこうした事態も、経営者としての管理を「手放す」ということをきっかけに生じてしまいましたね。
―「手放す」と言っても、いきなりすべての制約を取っ払って何の縛りもない状態にしてしまうと、無秩序となってしまいます。権限移譲を積極的に進める組織でも起こってしまう話ですが、秩序を保つ最小限の枠組みと「手放す」のバランスの難しさを感じさせるお話ですね。
ニカさん:
まさにそんな状態でした。
まっきー:
今振り返れば、その方は本来、BowLが提供する支援にあわない症状・特性をお持ちだったと思うのですが、当時は経験不足から見立てることができずに利用を受け入れました。
支援員は「力になりたい」という思いから、より距離感を縮め、その方の懐に入るという選択をしましたが、結果的に病状を悪化させてしまいました。
ニカさん:
BowLの良さでもあった距離感の近さに関して、その裏に隠れるリスクを的確に突かれた出来事でした。
このケースがあって以来、同様の出来事を起こさないために「いかにアンテナを立てられるか?」がBowL全体で問われるようになりましたし、いざ起こってしまった場合「BowLはどうできるのか?」を注視し続けています。手放していた管理・マネジメントが、少し引き戻されることに繋がった一件でした。
まっきー:
時には権威を使った介入も必要な局面がある。また、組織体制や支援体制には、ある一定の枠組みは必要であると考えさせられる出来事でしたね。
実は、そういった点でもホラクラシーはありがたかったです。ホラクラシーはまず、組織に関して自己組織化していくフレーム、環境づくりをすることから始まり、そのフレームや環境を活かすことで、より一人ひとりの仕事や働き方が自由になっていくことをめざすものだったからです。
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次回、インタビューシリーズ第3章(中編)に続きます。
これまでに公開した一連の記事は、以下のマガジンにも掲載しています。記事の一覧をご覧いただきたい場合はこちらをチェックいただけると幸いです。
一般社団法人BowL、一般社団法人ポリネについての関連情報は、以下のリンクもご覧ください。
県内初!民間のうつ病特化型リワーク施設「株式会社BowL」とは?|RYUKYU JOURNAL
BowLのリワーク説明動画|一般社団法人BowL
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