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舞台 「ゆうがい地球ワンダーツアー」 観劇レビュー 2025/09/06


写真引用元:南極 公式X(旧Twitter)


写真引用元:南極 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「ゆうがい地球ワンダーツアー」
劇場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
劇団・企画:南極
脚本・演出:こんにち博士
出演:端栞里、古田絵夢、井上耕輔、ユガミノーマル、瀬安勇志、門田宗大、岡本ゆい、藤井憂憂、ミワチヒロ、佐伯ポインティ
ピットチーム:九條えり花、こんにち博士、ポクシン・トガワ、揺楽瑠香、和久井千尋
期間:9/4〜9/7(埼玉)
上演時間:約1時間30分(途中休憩なし)
作品キーワード:子供向け、冒険活劇、宇宙、勧善懲悪、舞台美術、観客参加型
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


今若手演劇団体で最も勢いがあると言っても過言ではない、こんにち博士さんが作演出を務める「南極ゴジラ」改め「南極」の新作公演を観劇。
「南極」は今作が8回目の公演となり、初めて彩の国さいたま芸術劇場に進出した。
今作は大人も子供も親子で楽しめるような演劇をテーマに創作されている。
私自身、「南極」の公演を観劇するのは、『怪奇星キューのすべて』(2023年8月)、『(あたらしい)ジュラシックパーク』(2024年3月)、『バード・バーダー・バーデスト』(2024年9月)、『wowの熱』(2025年3月)と過去4回観劇しており、今回は5度目の観劇となる。

物語は、「死」をテーマに不死身の異星人が死ぬための冒険を繰り広げる(だれも死なない)スペクタクル地球旅行となっている。
シネナイ星から地球にやってきたのは、ラクダ(門田宗大)、ブイ(古田絵夢)、グッドバイ(岡本ゆい)の三人の異星人。
シネナイ星の異星人が死ぬためには、地球にやってきて地球旅行をすることが必要だからである。
地球に住んでいた星少年(端栞里)は、父親であるハンター(井上耕輔)と共に母親の帰りを待っていたが一向に帰って来ない。
ハンターは、母親はママさんバレーの友達とダンスパーティーに行っているから帰れないのだと星少年に伝える。
夜、星少年が一人で自分の部屋にいると、そこへラクダ、ブイ、グッドバイが現れる。
星少年は驚くが、彼らはシネナイ星からやってきて一緒に地球旅行をしたいという事情を聞き、3人の旅行ガイドを務めることになる。
タクシーの運転手(ユガミノーマル)の運転によって、三人がそれぞれの死に方を求めて地球旅行をすることになるのだが...というもの。

今作を観劇した率直な感想は、本当に「南極」の演劇作品のクオリティは安定してきたと思っていて、安心して楽しむことが出来て大満足であったということである。
脚本にせよ演出にせよ演技にせよ全ての要素においてレベルが上がってきたと感じていて、その実力は本物だと痛感した。

まず、彩の国さいたま芸術劇場小ホールという、比較的大きくて半円形の特殊な劇場空間での上演ということだったので、あの劇場空間をどうやって活かしてくるのか楽しみにしながら観劇していた。
客席の間には通路が何本もあり、ステージ後方には天井近くまで伸びる階段があったりと特殊な構造になっているのだが、それら全ての劇場のつくりをふんだんに活かした演出になっていて空間の使い方が非常に上手かった。

そして、子供でも楽しめるということを凄く演出面で意識していて、ステージ上に運ばれてくる様々な舞台セットが良い意味で作りもの感があって、夏休みの自由研究や工作で作ってみたくなるような、創意工夫のあるセットで子供たちも喜ぶだろうなと感じた。
また、客席側にボールのようなものが投げ込まれたり、手を叩いて観客参加型の演出も巧みに取り入れられていて子供たちも楽しめたと思った。

さらに、ステージと客席の間にオーケストラピットのような床面が昇降する仕掛けのあるエリアがあるのだが、そこに「南極」に所属する今作では出演者ではないメンバーたちが楽器を鳴らしていて、時にはステージ上にやってきてモブをやったりするなど、スタッフも一丸となって上演を作り上げている感じも素晴らしかった。
「あやめ十八番」の公演を観劇する時にもいつも思うのだが、スタッフも役者の一員というメッセージ性を感じる上演が素晴らしかった。

脚本に関しては、子供にも楽しめる演劇作品を謳っているにしては少々難解なのではと感じた。
冒険活劇的な要素は子供でも間違いなく楽しめると思うが、異星人たちがどうして地球にやってきたのかなど哲学的で抽象的な展開もあるし要素も多かったので、もっと単純明快にして楽しませることに全振りしても良かったと思う。

今作は、「南極」所属のメンバーだけでなく客演のメンバーも多い出演者陣だったと思うが、全体的に演技のレベルが上がっていることに気づき素晴らしかった。
特に印象に残ったのはブイ役を演じた古田絵夢さん。
古田さんのあの特有の喋り方はツボだったし、あのようなキャラクター性は子供にも受けるだろうなと思う。
また、悪役のDrモウ・ドク役を演じた瀬安勇志さんの迫力ある演技も素晴らしかった。
今までの「南極」が上演してきた劇場と違って比較的大きな劇場だったので、尚更役者としての迫力があることを痛感する演技だった。

終演後に映画よりも演劇の方が面白いと親に言っている子供の声が聞こえるくらい、子供たちをも魅了する上演になっていたと思う。
そして子供たちに、観るだけではなく創るということも刺激してくる上演に思えた。
「南極」は次回公演をニッポン放送と共同制作してのぞむとのことで、ますますの活躍を期待したい。

写真引用元:ステージナタリー 南極「ゆうがい地球ワンダーツアー」より。




【鑑賞動機】

「南極」は勢いのある若手演劇団体なので、なるべく時間を見つけて積極的に観に行こうと思っているから。『怪奇星キューのすべて』から欠かさず観劇していて、演劇団体として成長していく過程をずっと追っているので、今回の公演も欠かさず観ることにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

客入れの演奏をオーケストラピットで行っている奏者たちのステージが徐々に降下していく。そして、ステージ上にあった巨大な下手、上手に壁面が移動することによって扉が開き、そこから銀色の巨大な物体が複数登場する。それと共に、シネナイ星の異星人であるラクダ(門田宗大)、ブイ(古田絵夢)、グッドバイ(岡本ゆい)の3人が登場する。

ここは地球。ステージには、ダイニングルームが登場し、星少年(端栞里)と父親のハンター(井上耕輔)が二人で食事をしている。星少年は、母はどうして家に帰って来ないのかとハンターに尋ねると、ママさんバレーの友達とダンスパーティーに行っているから帰れないのだと伝える。
星少年は自分の部屋に戻る。すると、窓から三人の異星人がやってくる。それは、シネナイ星からやってきたラクダ、ブイ、グッドバイだった。星少年は驚く、どうして異星人がこんな所にやってくるのかと。三人の異星人たちは話す。シネナイ星の異星人たちはシネナイ星だと文字通り死ぬことが出来ない。そこで地球にやってくれば死ぬことが出来るのでやってきたのだと言う。
ラクダ、ブイ、グッドバイはこれから死ぬために地球を旅行したいと言う。星少年は、それなら地球旅行のガイドをすると言って、三人の地球旅行と共についていくことになる。

ラクダ、ブイ、グッドバイ、そして星少年は運転手(ユガミノーマル)の運転するタクシーに乗って地球旅行をする。ラクダはだんじりに轢かれて死にたいと語る。運転手は、おばあちゃんからもらったお守りを大事にしながらタクシーを走行させている。
一同はスーパーマーケットに到着する。しかし、シネナイ星の異星人たちは、売り場に置かれていたお菓子を勝手に食べ始めてしまう。そこへ、店員の紀寿子(藤井憂憂)がやってきてシネナイ星の異星人たちを取り押さえる。
紀寿子の父親であるおかしら(ミワチヒロ)がやってきて、シネナイ星の異星人たちを尋問する。どうしてお菓子を勝手に食べたのかと。おかしらはラクダを2度も拳で殴ろうとするが、そのあまりの体の硬さに拳が赤く腫れてしまう。おかしらは、こうなったらだんじりに轢かれて死んでしまえと言う。ラクダはだんじりに反応する。どうやらこの街にはだんじりを使って以前は祭りを行っていたが、死者が出たことによってだんじりは博物館に封印されているようであった。
シネナイ星の異星人たちと星少年は、早速博物館のだんじりを見にいく。非常に立派なだんじりが眠っていた。ラクダは、このだんじりをタクシーで引っ張り上げて動かそうと言う。運転手に手伝ってもらってだんじりをタクシーで引っ張り動かす。
しかし、無断でだんじりを動かしたことでおかしらや紀寿子たちがカーチェイスのように追いかけてくる。紀寿子は兄をだんじりで亡くしてしまっているので、再度動かしたくはなかった。しかし運転手は、だんじりがあるなら動かした方が良いと説得する。タクシーだって動かさなかったらただの鉄の塊だと。
おかしらも紀寿子も納得して、ようやくみんなでだんじりを動かして再び祭りを開催して盛り上がることになる。ラクダも星少年もだんじりに乗って楽しむ。

街を後にして再びシネナイ星の三人の異星人と星少年はタクシーに乗る。今度はブイの死に方を話題にする。ブイは、恐竜に食べられて死にたいと言う。しかし地球には恐竜はとっくに絶滅していて存在せず、動物園に向かうことになる。
シネナイ星の異星人たちと星少年は、タクシーを降りて動物園を散策する。沢山の動物たちに囲まれたりする。そこへオウム(声:こんにち博士)がやってきて喋る。オウムは、ゴリラがプレゼントを投げるからキャッチをするように異星人たちと星少年に言う。
最初に投げたのはうんこで、ステージ上手側の客席に投げられた。2回目にゴリラが投げたうんこは客席中央前方に投げられた。そして、3回目にゴリラが投げたうんこを一同はキャッチした。オウムとゴリラは去る。
異星人たちと星少年は北極エリアにやってくる。そこで冷凍庫を見つける。中には、冷凍庫王(佐伯ポインティ)がいた。冷凍庫王は冷凍庫から出ると異星人たちと星少年と一緒に北極を冒険する。すると、巨大なパンダが出現する。異星人たちと星少年は巨大パンダを迎えうとうとするが、突然後ろから拳銃でパンダが撃たれる。振り向くと、そこには星少年の父親であるハンターがいた。ハンターは星少年を探しに追いかけてきたのである。ハンターは異星人たちに銃を向けて撃ち、ブイに当たるが効かなかった。
異星人たちと星少年はタクシーに乗り込みハンターから逃れるように車を走らせるのだった。ハンターは電話でCIAに異星人がいるから捕まえるようにと通報する。

タクシーの中で、最後はグッドバイの死に方について話題にする。グッドバイは山に登りたいと言う。タクシーはギャンガラ山に向かう。
グッドバイ以外の異星人たちと星少年は安全な遠回りのルートで山登りをしようとするが、グッドバイはこの危険な道を直進しようと言う。星少年もグッドバイについていく。
グッドバイと星少年の2人で登山する。星少年はあることをグッドバイに語る。それは、実は星少年の母親はすでに亡くなってしまっているということ。ずっと家に帰ってきてないことでそのくらい星少年にも分かっていたが、父親のハンターはなぜかずっと星少年に嘘をつき続けているのだと言う。グッドバイと星少年が登山する様子をハンターは追いかけてくる。
突然落雷が起き、それが星少年の元に落ちてきて星少年は気絶する。

星少年はベッドで療養していた。星少年は眠っている。その周囲に異星人たちが見舞いに来ている。Drモウ・ドク(瀬安勇志)が星少年の治療をしている。
ステージの後方の巨大な扉が開き、そこから星少年の母親の声がする。星少年は母親の声のする方へ向かう。星少年は母親にそっちに行って良いか尋ねる。しかし母親はもちろんダメだと答える。
星少年はベッドで目を覚ます。Drモウ・ドクはまさか星少年が目を覚ますとは思っていなかったので奇跡が起きたと驚く。そしていきなりDrモウ・ドクは異星人たち三人と星少年を身動きできない状態にして、そこに猛毒で攻撃しようとしてくる。Drモウ・ドクは怪獣に進化して化け物と化した。
苦しむ異星人たちと星少年だったが、そこへだんじり、パンダ、オウム、動物たちが駆けつけて怪獣となったDrモウ・ドクを迎え打つ。そしてDrモウ・ドクを退治する。異星人3人と星少年は自由の身となる。
シネナイ星の異星人たちは、結局地球旅行を終えて死ぬことはなかったが、自分たちの星に帰ることになる。星少年は異星人たちに別れを告げる。ここで上演は終了する。

物語としては、普段の「南極」の演劇に比べたら深堀が弱いなと感じ、子供向けにしては難しい脚本だなと思い、どっちつかずな印象を受けた。子供でも楽しめることを謳っているのであれば、演出だけでなく脚本ももっと分かりやすくしても良かったかなと思った。
シネナイ星の異星人ということで、死ぬために地球にやってきたという設定が非常に独特で、普段の演劇なら面白いのだが、子供達たちがどう感じたのかは気になるところである。
ただ、ラストは悪者が出てきてそれをみんなで退治するという勧善懲悪な形で終わるのは子供向けらしくて良いなと感じた。ラストの色々な旅の仲間たちが全員駆けつけてDrモウ・ドクを倒すシーンは本当に素晴らしかった。戦隊モノのラストの巨大化して悪者と戦うみたいなシーンを勝手にイメージした。
また三人の異星人それぞれにスポットライトが当たる構成は良いなと思った。ラクダ、ブイ、グッドバイとそれぞれにフォーカスされているのは良かった。もう少し、三人の異星人のキャラクター性を活かしたシナリオでも良かった気がするが。

写真引用元:ステージナタリー 南極「ゆうがい地球ワンダーツアー」より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

彩の国さいたま芸術劇場小ホールという、少しユニークな構造をした劇場を巧みに活かして上演していたと思う。そして演出に関しては子供たちでも楽しめるような、そして何かものづくりに掻き立てられるような、そんなワクワクが込められた舞台美術・演出になっていて素晴らしかった。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていこうと思う。

まずは舞台装置について。
杉原邦生さんの舞台美術のように、ステージ上には最初は一切何もなくて、シーンの都度舞台セットが運び込まれてくる感じの演出だった。そしてその運び込まれてくる舞台セットの種類が大量にあって、よくここまで物量を揃えたなと感心した。
まずステージ後方の巨大な左右に開く大きな扉の上に、雲のような飾り付けがされていて可愛らしかった。
最初のシーンの銀色の巨大なオブジェのような舞台セットから始まり、星少年とハンターの住む移動式の一部屋分のスペースだけ用意されている家、この家は回転させるとダイニングルームになったり星少年の寝室になったりした。
黄色いタクシーの作り物も良かった。運転席、助手席、後方席があって外装はないけれど確かにこれは車だと分かる。どこか遊具みたいな作りになっていて、子供たちの想像力も掻き立てられそうで良い装置だった。
だんじりの巨大な大きさには驚かされた。ステージ後方の大きな左右に開く扉が開くと、そこから博物館に飾られた巨大なだんじりが出現する。このだんじりもどこか子供たちが遊べる遊具のような可愛らしいデザインなのが良かった。みんなでロープを引っ張って動かす感じは、お祭りの山車を想起させられて観ていて楽しかったと思う。
至る所に出現する作り物の動物たちもとても手作り感あって可愛らしかった。私が保育園児の時に作り物の動物を展示して動物園ごっこをするみたいなことをした。段ボールや紙やビニールを使ってパンダやポニーや猿を作るのだが、そんな当時のことを思い出したりしながら観ていた。客席も含めて作り物の可愛らしい動物たちが沢山登場して子供たちは、間近でそんな体験ができて満足だったのではないだろうか。その動物たちを運び入れる役者・スタッフたちも一つの演技をしているなと感じた。
北極エリアに出現した巨大なパンダのインパクトは凄かった。顔がめちゃめちゃ怖いのだが、それがまた迫力があって良かった。
ギャンガラ山の舞台セットも良かった。山の風景を舞台セットとして表現することで冒険活劇的な感じに見えて良かった。
そしてなんと言ってもラストの、巨大化したDrモウ・ドクと対戦するシーンの舞台美術は迫力があって圧巻だった。今まで登場しただんじりやパンダや動物たちが一堂に出来ててDrモウ・ドクと戦うのが好きだった。あのごちゃごちゃとして戦隊モノの最後の巨大化したシーンみたいな印象を受けてとても楽しかった。
そんな感じで、可愛らしい作り物の舞台セットが沢山あってユーモア溢れる世界観だった。たしかにこれは「南極」でないと作り出すことの出来ない世界観だったと思うし、大人でも楽しめる演出だった。

次に衣装について。
なんと言っても衣装は、シネナイ星の三人の異星人の衣装が良かった。ラクダは、動きやすいようなラフな普段着で、ブイは全体的にまん丸いようなピンク色の球体のような太っちょの衣装で、グッドバイは全体的に青っぽくて髪の毛の束ね方が異星人ぽくて可愛らしかった。ブイがハンターに撃たれて、一部衣装が捲れた部分を引っ掻く演出が個人的にツボだった。たしかにあの衣装なら銃で撃たれても頑丈そうで無傷だなとも思った。
ハンターの衣装も好きで、いかにもハンターっぽいそして髭を生やしてワイルドな感じも好きだった。

次に舞台照明について。
様々なシーンがあって、舞台照明の演出も多種多様だった。オープニングのシネナイ星の異星人が地球にやってきたシーンの照明演出の迫力もすごかったし、だんじりが動き出して祭りになるシーンの照明もインパクトあった。
そして、星少年が母親に夢の中で出会うシーンの照明も好きだった。私は下手側の前方の席だったので、扉の向こうに誰かいるのか分からなかったが、そこから白い光が漏れてくる演出が好きだった。
ラストのDrモウ・ドクをみんなでやっつけるシーンの迫力ある照明も良かったし、Drモウ・ドクがシネナイ星の異星人たちと星少年を縛り上げてしまうシーンの紫がかったピンク色の照明も良かった。

次に舞台音響について。
ステージの手前にオーケストラピットのようなスペースがあって、そこで今回の作品に出演しない「南極」のメンバーたち、こんにち博士さんや九條えり花さん、揺楽瑠香さんたちがいて、「南極」メンバー全員でこの作品を作りに行っている感じが本当に良かった。
客入れ時から、オーケストラピットでちょっと不思議な楽器を演奏していて、その時点で愉快だったのだが、開演になるとそのオーケストラピットが徐々に下がっていって、こんなにユニークな演劇はみたことないなと思った。
基本的に多くのシーンが、このオーケストラピットにいるスタッフの生演奏で音楽が流れており、もはやここにいるメンバーも役者だなと思わされた。
こんにち博士さんがオウムの声を担当するのが良かった。マイクを使ってあの感じで喋るのが好きだった。似合っていた。

最後にその他の演出について。
まず、彩の国さいたま芸術劇場小ホールの使い方が非常に上手かった。「劇団papercraft」の『昨日の月』(2025年1月)を観劇した時に入ったことのある劇場だったが、客席が半円形でステージを囲む感じだったり、通路が何本もあったり、ステージ上に天井に向かう階段があったりと、非常に構造がユニークな劇場で、この劇場を使いこなすのはなかなか至難の業だなと感じていた。
しかし、「南極」はものすごくこの劇場を上手く使っていた。半円形の客席、数本ステージに向かって伸びる通路、オーケストラピット、ステージ後方の大きな扉、ステージ上の天井に向かう階段と全てを使って、地球ワンダーツアーを繰り広げていて、こんにち博士さんはこの劇場を使うということを上手く理解して創作をされたのだなと思った。
「南極」はカーチェイスのシーンが好きだなと改めて思った。確か『wowの熱』(2025年3月)でも登場した気がしているが、今作でもタクシーでだんじりを引っ張りながら、後ろから警察が追いかけてくるというカーチェイスを舞台で上演していて良かった。カーチェイスも演劇でこんな感じで上手く描けるのだなと色々発見出来て良かった。
観客参加型の演出が良かった。特に動物園のシーンでは動物たちが客席の通路を使って登場したりするので、そういった演出が多かったように思う。客席の人々がみんなで手を叩いて動物たちを誘き寄せたり、ゴリラからのプレゼント(うんこ)を投げるので観客がキャッチをしたりとインタラクティブな演出が、特に子供たちにとっては楽しかったのではないかと思う。

写真引用元:ステージナタリー 南極「ゆうがい地球ワンダーツアー」より。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

「南極」のメンバーと、今作ではかなりの客演のキャストも多く、若い俳優が中心だったのでエネルギーと勢いがあった。
特に印象に残った役者についてみて行く。

まずは、星少年役を演じた「南極」所属の端栞里さん。端さんの演技は、「南極」の公演で毎度のように見ている。
『wowの熱』といった過去作に比べたらだいぶ出番や物語に占めるインパクトは弱かったように思うが、こういう少年役は端さんは似合っているよなと思う。
ずっとハンターの父親と暮らしていて、母親は死んだと分かっているのにどういう訳だか父親は母親は家に帰ってこないだけと嘘をついている。きっと星少年は父親よりも母親のことの方が好きだったようだ。しかし、大好きだった母親はもう他界している。
星少年に稲妻が落ちてきて危篤状態になり、夢の中で母親が現れる。星少年は母親の元へ向かおうとするが母親にダメだと言われる。母親のことが好きだったから、いっそのこと自分も死んで母親の元に行こうとしたけれど、大好きな母親は星少年にまだこれからの人生を生きて欲しいと言っているかのようだった。
星少年を中心に観ていると、生きることを大切さを改めて教えてもらえた気がする、そんなように感じた。

次に、Drモウ・ドク役を演じた「南極」所属の瀬安勇志さん。瀬安さんも「南極」の公演で毎度観劇している。
今回は終盤に登場する悪役ということで非常に似合った配役だなと思った。あの喋り方が怪しくて良かった。そしてオーバーリアクションな感じも全て良かった。
特に、ラストでDrモウ・ドクが退治されてしまう際に、大声でステージ上で叫ぶのだが、こんなにも迫力のある役者だったとは驚いた。今まで新宿シアタートップスなど小劇場で演技を観てきたので、こういったさいたま芸術劇場小ホールのような大きい劇場で演技を観たことがなかったのだが、こんなに迫力があるのだとびっくりした。
瀬安さんだけではないが、「南極」のメンバーの演技力も全体的に上がっているなと感じた。

シネナイ星の異星人の一人であるブイ役を演じた「南極」所属の古田絵夢さんも素晴らしかった。古田さんも「南極」の公演で毎度観劇している。
古田さんは今回の役が今までの「南極」の公演(南極ゴジラの時代も含めて)で一番印象に残ったし大活躍だった気がする。
まずあの喋り方がビジュアルとピッタリハマっている。非常にキャラクター性が強くて、子供であったら誰でも好きになってしまいそうな愛嬌があった。
そんでもって戦闘能力も高そうなのも良い。ハンターに銃で撃たれても少し傷つくくらいで命に別状はないし良かった。

もう一人、シネナイ星の異星人を演じたグッドバイ役の岡本ゆいさん。岡本さんの演技は、南極『バード・バーダー・バーデスト』(2024年9月)で演技を一度だけ拝見したことがある。
岡本さんのキャラクターは、「南極」にはいない感じの清楚な女性という印象なので、『バード・バーダー・バーデスト』では異質な存在として存在感を発揮していた。今作では、ちょっと不思議な異星人として役がハマっていた。
あまり出番がそこまで多くなくて勿体なかったが、終盤でギャンガラ山を星少年と二人で登るシーンは好きだった。

写真引用元:ステージナタリー 南極「ゆうがい地球ワンダーツアー」より。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、今作を観劇して思ったことをつらつらと書こうと思う。

まずは、「南極」が8回公演まで行ってきてだいぶ演劇のクオリティが安定してきているなと感じた。『怪奇星キューのすべて』から観てきているが、『バード・バーダー・バーデスト』から団体として違うフェーズに入ったかのように大化けして成長していっていることを実感した。
今作は、子供でも楽しめるようにということで、今までの演劇公演とも趣向を変えての挑戦だったと思うが、脚本はやや難しめではあったけれど、演出などは子供でも楽しめるものになっていて、終演後にとある子供が「映画よりも演劇の方が観たい」と言っていたので、こうやってどんどん子供たちに良いインスピレーションを与えていって欲しいなと思う。

今作は、死というものを通して生きることの大切さを教えてくれたファンタジーだったなと思う。
シネナイ星の異星人たちは死ぬために地球にやってきたが結局は死なないまま自分たちの星に帰って行くことになる。それは、地球上で出会った星少年に出会ったからかもしれない。死を望んでいるシネナイ星の異星人とは真逆で、星少年にとっては死は大事な母親を奪った存在でもあった。本当は母親に会いたいけれど、死んでしまったのに会うことができない。
星少年は終盤に危篤状態に陥る。そして死んでしまった母親と話をする。星少年は母親の元に向かう、つまり死にたいと思ってしまうが母親に拒まれる。そして星少年は地球上の現実世界に戻ってくる。
それは奇跡だった。Drモウ・ドクは、星少年はそのまま帰らぬ人になるのではないかと思っていた。しかし、そうはならず復活した。そんな奇跡をシネナイ星の異星人たちは目撃したのである。
これこそが生きることの大切さと希望だったのかなと思う。シネナイ星の異星人は地球旅行を通じて、生きることの大切さ尊さを学んだのだと思う。

だから誰も死なずに自分たちの星に帰ることになったのだと思う。命があることの大切さ、命があるからこそ出来ることがある。それを蔑ろにしてはいけない。
とても哲学的で優しいお話である。子供たちにはどうやって映ったのか分からないが、大人である私にとってはとても良いお話だと映った。

「南極」は、次回公演はニッポン放送とタッグを組んで上演とのことで、ますますの活躍ぶりを見せている。どんどん上に上がっていって一世を風靡する演劇団体になってほしい。

写真引用元:ステージナタリー 南極「ゆうがい地球ワンダーツアー」より。


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