舞台 「いつだって窓際であたしたち」 観劇レビュー 2025/06/21

公演タイトル:「いつだって窓際であたしたち」
劇場:武蔵野芸能劇場 小劇場
劇団・企画:ロロ
脚本・演出:三浦直之
出演:稲川悟史、小川紗良、竹内蓮、土本燈子、端栞里、三上晴佳
期間:6/17〜6/22(東京)
上演時間:約1時間10分(途中休憩なし)
作品キーワード:いつ高、青春、ファンタジー、会話劇、高校演劇
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆
劇作家・演出家である三浦直之さんが主宰する劇団「ロロ」が、演劇を志す高校生たちに大会で上演してもらうことを目指して創作された「いつ高(いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三⾼等学校)」シリーズを上演したので観劇。
「いつ高」シリーズは、2015年11月に『いつだって窓際であたしたち』がvol.1として上演されたのを皮切りに、2021年6月にvol.9の『ほつれる水面で縫われたぐるみ』とvol.10の『とぶ』が上演されるまで10作品の上演が行われてきた。
今回は、再びこの「いつ高」シリーズをvol.1からキャストをフルオーディションで一新して再演するということで観劇した。
「ロロ」の本公演自体は、『BGM』(2023年5月)、『ロマンティックコメディ』(2022年4月)など4回ほど観ているが、「いつ高」シリーズを観劇するのは初めてである。
私が「いつ高」シリーズを知ったのがvol.8を上演していた頃で、人気シリーズだったのでいつかvol.1から再演してくれるだろうと期待していた。
そのため、今回は満を持しての観劇となった。
今作は、いつ高の昼休みの2年6組の教室の窓際で繰り広げられる生徒たちのたわいもない会話が繰り広げられる。
シウマイ(稲川悟史)は、イヤホンがスマホに接続されていなくて、浜崎あゆみの『Boys&Girls』が爆音で教室中を流れていることに気がついていない。
教室内の女子高生たちはクスクスとシウマイのことを笑う。
ようやく気がついたシウマイは、音楽を切ってお茶を取りに教室を出る。
瑠璃色(端栞里)と茉莉(三上晴佳)は、友人の海荷の影響もあって昼休み後に今から富士山に行こうかどうかという話をしている。
そこへ白子(土本燈子)が教室にやってきてシウマイの席に座って窓際を眺めている。
瑠璃色と茉莉は、自殺未遂した子ではないかと噂する。
そこへシウマイが戻ってくる。
白子が座っていたので、ここは自分の席だと言うために白子の肩を叩く。
しかし白子にとってシウマイの行動は、あまり良いものではなかったらしく、シウマイは白子に謝るが...というもの。
最初に作演出の三浦直之さんが、今作は高校演劇で上演してもらうことを目指して創作されたため、上演時間は60分、舞台セットを生徒たちが準備するところから始まるという説明がなされてからスタートする。
私自身は高校演劇というものを観たことがなかったので、そういう説明がなされることによって自分は高校演劇を観にきたのではないかと錯覚させられる体験が出来て、より一層引き込まれた感じがあって良かったと思う。
初めて「いつ高」シリーズを観た感想としては、物語として特に大きな起伏があるわけではないのだけれど、自分も含めて誰もが体験した学生時代の青春を思い出させてくれるような、どこか懐かしい気持ちにさせられて、凄く感動したとか、面白かったという訳ではないのだけれど、その時間ずっと居心地が良くて良い時間を過ごせたなという感覚だった。
ちょっと変わり者の男子高校生のシウマイが女子高生の瑠璃色と茉莉にクスクス笑われてしまう空気感や、将門(竹内蓮)と朝(小川紗良)がずっと良い雰囲気なのを羨ましく思うシウマイなど、これぞ青春というものが空気感として沢山詰まっていて、誰もが思い描く青春に浸れる空間がそこにはあった。
そして、私がこの作品を観劇して特に良い点だと感じたのは、青春の綺麗事だけを描くのではなく、若いからこそ残酷であるという部分も忠実に作品に落とし込んでいること。
三浦さんの描く青春に誠実さが感じられ、そしてよりリアルに感じられるのはそのためかもしれない。
白子という存在が凄く良くて、自殺未遂をしてしまうほど今の生活に苦しさを感じているようだし、世界をミニチュアとして作りその世界にずっと浸っているくらい現実逃避したいのかなとも思える。
そういう白子の視点から見える世界を描くことによって青春ファンタジーを作り上げている点にとても引き込まれた。
出演者陣も、一部は今の小劇場演劇でよく観る顔ぶれといった感じでとても素晴らしかった。
南極ゴジラ改め「南極」に所属する端栞里さんの瑠璃色役は、普段「南極」の公演ではあまり観られないような普通の女子高生役でとても良く、土本燈子さん演じる白子のミステリアスな感じが絶妙に引き込まれて素晴らしかった。
また、シウマイ役を演じた稲川悟史さんの恋愛したいけどできてない不器用な男子高校生を見事に演じていたし、朝役の小川紗良さんの男子高校生から好かれそうな女子高校生っぽさが良かった。
物語や演出が優れているというよりは、ただただこの空間に浸っている時間の心地の良さと、自分の青春時代を思い起こしてくれるような感覚があって、これも演劇を観る醍醐味の一つだと感じさせてくれる作品だと思う。
大人ももちろんだが、10代・20代の若い層にも届いて欲しい演劇作品だった。

↓戯曲掲載
【鑑賞動機】
『四角い2つのさみしい窓』(2020年2月)で「ロロ」に出会ってから、三浦さんの創作する演劇がずっと好きだが、人気シリーズの「いつ高」シリーズだけは手付かずのままだった。いきなり途中のvol.8あたりから感激するのも気が進まなかったので、vol.1から再演してくれることを祈っていたが、「ロロ」と出会って5年の月日が経ってようやくそのタイミングが訪れたようだった。そのくらいずっと待ちに待った上演だったので観劇することにした。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
三浦直之さんがステージに登場し、今から始まる『いつだって窓際であたしたち』が高校演劇で上演されることを目指して創作された作品であることから、上演時間は60分で、何もないステージに舞台セットを役者たちが運び込む所からスタートすると説明する。音響、照明も大人たちがやる。
三浦さんが合図をすると、役者たちがステージに机と椅子を4つと窓際の舞台装置をセットして上演がスタートする。
いつ高(いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三⾼等学校)の2年6組の教室、とある日の昼休み。窓際のカーテン越しには、瑠璃色(端栞里)と茉莉(三上晴佳)が二人で話している。そして、男子生徒は将門(竹内蓮)と、弁当を食べようとしているシウマイ(稲川悟史)がいた。シウマイは、イヤホンをしているつもりでいたのに出来ておらず、スマホから浜崎あゆみの『Boys&Girls』が教室で大きな音を立てて流れていることに気づいていない。瑠璃色たちがシウマイにイヤホン繋がっていないことを教える。シウマイは慌てて音楽を切る。シウマイはお茶を取りに教室を出る。瑠璃色と茉莉は、シウマイが浜崎あゆみを聞くことを話題にしてクスクス笑っている。
瑠璃色と茉莉は、友達の海荷からのLINE通知が来る。海荷は富士山を登ろうとしているらしい。瑠璃色もこの昼休みが終わったら海荷の元へ行こうとし、茉莉を誘う。茉莉は今日行くのかとびっくりした様子である。富士山は静岡県と山梨県にまたがる山、瑠璃色は静岡県は青色、山梨県はオレンジ色というイメージがあると言う。茉莉は頷いていない。
そこへ、白子(土本燈子)が教室にやってくる。白子はシウマイの席に座り、窓際を眺めている。瑠璃色と茉莉は、白子のことを自殺未遂した子だよねと噂し面白がっている。白子はシウマイの机の上に段ボールで作ったミニチュアみたいなものを広げて遊ぶ。
シウマイが戻ってくる。しかし白子に自分の席を占領されているのを知る。そしてシウマイが白子の肩を叩く。白子はハッとする。シウマイは、ここは自分の席、自分のものという訳ではないけれどと言う。白子は謝って欲しいのかと聞く。シウマイはそうだと言うと白子は、謝って欲しいがために肩を触るのは今度から止めて欲しいと言う。
将門が「HUNTER×HUNTER」のテーマソングを鼻歌で歌う。シウマイはよくこんなに人が教室にいる中で歌えるなと将門に言う。その間に瑠璃色と茉莉は教室を去る。
そこへ、朝(小川紗良)が教室にやってきて将門に写真を返しに来る。将門の近くにいたシウマイは自然と朝とも近くにいることになり、シウマイはもっと私から離れろ、距離が近いと言われてしまう。シウマイは朝から遠ざかって教室の端に行く。そのくらいなら大丈夫と。しかしシウマイは、それならカーテンの辺りにいたいと先ほどまで瑠璃色と茉莉がいたカーテンの辺りに行ってカーテンに包まる。
将門と朝は窓際からグラウンドを見ながら会話する。今グラウンドを走っている人がいるねと、しかし将門はそのグラウンドで走っている人を知っているようである。いつもバスで通学する時に、自分の前の席に座り、自分と同じ速度で漫画を読むのだと言う。
朝は、そんなにその人の行動を観察しているなんて将門はあの人が好きなの?と驚く。将門は今からグラウンドに出て一緒に走ってくると言い、教室を出ていってしまう。
そこへ瑠璃色と茉莉が戻ってきて、カーテンの元にいたシウマイをここは自分たちのエリアだと追い出されてしまう。瑠璃色と茉莉たちに、今グラウンドで走っている人は誰か知っているかと聞く。二人は知っていて、太郎と言うのだと教える。太郎は、『ブラックジャック』のシーンにあるみたいに心臓が右側にあって、だから反時計回りでなく時計回りにグランドを走っているのだと言う。そして太郎は海荷の元カレだとも言う。海荷もインスタで自分を鏡で反転させて投稿していると。どうやら瑠璃色たちの会話から海荷は富士山へ行ったらしい。
朝は、グラウンドに将門がいるのを発見して「おーい」と手を振る。そして太郎に負けるなと言わんばかりに将門を応援する。しかし将門はへばってしまったようで朝はガックリきている。
そんな朝の様子を見ていた白子は、どうしてそんなに将門を応援するのかと聞く。朝は、将門とは幼馴染でクラスの女子よりも話しやすいのだと言う。
白子はいきなりカバンから、南アルプスの天然水を取り出し、宇多田ヒカル『道』を流し始める。南アルプスの天然水のCMに使われている曲である。シウマイは知らなそうにしているが、曲を聞いているうちに絶対に分かると白子は言う。
白子は続ける。このCMで登場する大鶴山にずっと憧れていて、ここが大鶴山だとずっと思っていたが、実はCMで使われている場所は大鶴山ではなかったと言う。いざ大鶴山に実際に行ってみたら全然イメージと違う場所だったと。
シウマイは崎陽軒のシューマイ弁当を取り出す。シウマイはその弁当が好きだった。ご飯が冷めているところも、ご飯が俵形で八つに分かれているのも好きだった。シウマイは崎陽軒のシューマイ弁当を白子と二人で食べ始める。そして、あんずを食べるのが難しいと言い合う。
宇多田ヒカルの『道』の音楽と共に舞台セットが動かされる。ステージ奥が窓際になって、手前側に机が置かれる。
白子はストリートビューを使って富士山へ行こうとする。こうやって想像するだけでもどこへでも行けると。そして、お互いに同じことを想像していたらそれは一緒に行ったことになると。
富士山を歩いていると、同じ制服の誰かがいることに気が付く。それは海荷であることに気が付く。海荷がうずくまって泣いていた。
その時、シウマイが油断して持っていた写真が風によって外へと飛ばされてしまう。
瑠璃色と茉莉が教室に戻ってくる。結局海荷は富士山から戻ってくるらしいと。
瑠璃色と茉莉が教室を出ると、教室にはシウマイと将門がいる。将門は、とある作品のタイトルが思い出せなくてモヤモヤしていた。そのまま二人も教室を去る。ここで上演は終了する。
特に何かが起きる訳でもなく、本当に教室で繰り広げられる日常のワンシーンが切り取られているといった感じだった。物語がある訳ではないのだけれど、生徒たちの会話からその登場人物たちがどんな性格や関係性なのかが分かるし、今までにおそらくどんなことが起きたのかも伝わってきて、そういう余白を楽しむのも魅力の一つだった。
私たち大人であれば、ずっと昔に経験した青春時代に一時的に戻ったかのような感覚で、学校生活であったあるあると雰囲気を思い起こしてくれて懐かしさがあった。逆に、今の学生たちが今作を観てどのようなことを感じるのだろうか気になった。今作は2015年の作品で、ギリギリインスタグラムなどはあったのかもしれない。しかし、2025年ではBerealなど流行っていたり、LINEをあまり使わないなどと言うことも聞くので、違和感を感じる部分もあるのではないかとさえ思った。

【世界観・演出】(※ネタバレあり)
最初の三浦さんによる高校演劇を解説する説明から始まり、私たち観客が高校演劇を観にきてしまった感覚を体験させてくれる演出はとても良かったし、こういう形で演劇作品を観られること自体新鮮だったのでとても良い演出だと感じた。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。
まずは舞台装置について。
三浦さんの最初の説明にもあったように、客入れ中はステージには何もない状態になっていた。私も最初は不思議に思って素舞台でやるのかなとさえ思ってしまったが、高校演劇にあやかって役者たちが最初に舞台セットを運び込む所からスタートするからであった。
ステージ上には教室によくある机と椅子が4セット横に並べられた。一番下手の机は誰の席か分からず、下手側二番目の席がシウマイの席で途中から白子に占拠されてしまう席、一番上手の席が瑠璃色か茉莉の席になっていて、その左隣の上手から二番目の席が将門の席である。
一番上手側の瑠璃色か茉莉の席には、窓際にカーテンが取り付けられていて、いつも二人はカーテンの手前側で二人でずっとコソコソ会話していた。確かに学生時代女子学生たちがカーテンの向こう側でヒソヒソ話していることはあったなとも思い懐かしかった。カーテンは下手側の窓際にも取り付けられていたが、そんなに劇中使われなかった印象である。
カーテンの取り付けられた窓際は、木造のまるで障子の貼られていない引き戸のような感じで、それがステージの一面に設置されていた。窓際なので窓のように巨大な四角い枠のようなものが取り付けられている。学校の教室の窓際と言われるとちょっと違くてあまり似ていないのだが、これはおそらく高校生たちでも作ることが出来るように工夫されていると感じた。こう言う演出のポイントも作品として好きだった。
劇の終盤になると、この舞台セットが移動する。窓際がステージの奥側になり、机がステージの手前側に配置されて、下手側から瑠璃色か茉莉の机、将門の机、シウマイの机、誰かの机と教室の廊下側から見た光景に変わる。こうやって教室を違う方向に切り替えることによって、白子とシウマイが富士山にストリートビューで遠足に行くというフィクションのシーンを描いている点がとても面白かった。ここで世界が切り替わった感じがあった。
次に舞台照明について。
舞台照明は特別な凝った演出は見受けられなかったが、終盤に舞台セットを動かすシーンで宇多田ヒカルの『道』を流しながら、照明も少し神秘的というかファンタジックな感じで格好よく演出されていたのが印象に残った。
次に舞台音響について。
今作では、様々な懐かしいJーPOPが流れてきてそこが好きだった。
まずは、シウマイが間違えてスマホから教室中に流してしまった浜崎あゆみの『Boys&Girls』。平成によく耳にしたJ-POPという感じがして懐かしかった。学生時代によく聞いていた音楽ではないけれど、自分が小学生くらいの時にテレビでよく流れていた音楽といった感じだった。
そして、南アルプスの天然水のCMで使われていた宇多田ヒカルの『道』。宇多田ヒカルだというのはすぐ分かったが、曲名は分からないなあと思いながら冒頭で聞いていた。聞いたことはあった。『道』が収録されている宇多田ヒカルのアルバム『Fantome』が私は好きで、『花束を君に』や『真夏の通り雨』をよく聞いていて、そのアルバムの一番最初の曲で耳に馴染みがあった。
そして一番最後に流れた楽曲のサニーデイ・サービスの『真赤な太陽』は、初めて今作を観劇して聞いた楽曲だが好きだなと思った。調べてみたら、ロロの舞台『BGM』(2023年5月)でも楽曲を担当した曽我部恵一さんが作詞作曲だったので、曽我部さんとロロ作品の相性良いなと思った。
その他、学校のチャイムなど学生時代を想起させる音も多くて良い空間だった。
↓浜崎あゆみ『Boys&Girls』
↓宇多田ヒカル『道』
↓サニーデイ・サービス『真赤な太陽』
最後にその他の演出について。
なんといってもやはり、最初の三浦さんによる前説が良かった。あれがあって本当に良かったと思う。高校演劇も観に行ってみたくなる。もちろんロロはプロの俳優たちがやっていて、高校演劇は学生がやっているので、一般的な観劇客として足を運び入れるのは違うと思っているけれど、新しい体験として高校演劇ってこういうものだと教えてもらったからにはいつか行ってみたいなと思った。それと、やはりあの説明があったことで腹落ちした上演時間の短い意味や、最初に舞台セットを役者たちが入れる所から始まること、そして舞台セットも簡素なものである理由もわかってくる。そして何より、高校演劇を観にきたような没入感が好きだった。今作は、武蔵野芸能劇場 小劇場という、普段小劇場演劇ではあまり使われないような劇場で上演をしていたが、この会場選びも高校演劇にあやかっているのかななんて思った。
あとは特殊な演出として、カーテンに風を当てて靡かせる演出があった。カーテンが風に揺られる光景は、確かにどこか学生時代の教室を思わせる懐かしさがあった。
あとは、白子の持ってきた校庭を表したミニチュアのセットも作り物として好きだった。あのくらいのクオリティなら学生でも出来そうだし、ああいうクオリティだからこそ良い気がする。作り物感が活かされた小道具だった。

【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
フルキャストオーディションで、「いつ高」シリーズとして一新されたキャストだったが、初演を観ていなくてイメージを持っていなかったというのもあり非常に楽しめた。そしてキャストさんの演技も素晴らしかった。
人数が少ないので全員の役者について記載する。
まずは、シウマイ役を演じた稲川悟史さん。稲川さんはピンク・リバティ『点滅する女』(2023年6月)で一度演技を拝見したことがある。
シウマイの童貞ぶりがとても上手く演じられていて良かった。浜崎あゆみの『Boys&Girls』が爆音で教室に流れてしまって恥をかいたり、朝に近づくなと言われたり、瑠璃色や茉莉にカーテンの所から出ていくように言われたりと散々な扱いをされて、そして学生時代そんな仕打ちにあっている男子学生いたなと痛々しい青春時代が蘇ってきて感情をかき乱された。
そういうシウマイが、お互いに孤独を感じているであろうミステリアスな白子と意思疎通していく様子も良かった。今作は、イケメンと美女でクラス内で注目されているカップルになどに重きを置くのではなく、クラスの中で若干疎外感のある二人を中心に描いていて、救いを与えているかのような作りになっているのが好きだった。
そしてシウマイが食べる崎陽軒のシューマイ弁当がとにかく美味しそうだった。崎陽軒のシューマイ弁当は食べたことがあるが、そこまでハマるほど好きかと言われたらそうでもなかったが、ああやってシウマイに力説されると食べたくなってしまう不思議。そして帰り道の三鷹駅で崎陽軒のシューマイ弁当を売っているので、思わず買いたくなってしまった。そのくらい説得力のある崎陽軒のシューマイ弁当の一人語りが良かった。
次に、白子役を演じた土本燈子さん。土本さんは、爍綽と『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』(2025年2月)で一度だけ演技を拝見したことがある。
土本さんが演じる、ちょっとミステリアスで変わった女子高校生白子の雰囲気がとてもハマっていて素晴らしかった。何を考えているかよく分からなくて、そういう感じの女子高校生って確かにいたなとさえ思う。
こういう女子高校生はたしかに周囲の生徒たちから距離を置かれてしまうのだが、そんな彼女をどこか悲劇のヒロインのように描かず、彼女を中心として日常を展開していく脚本も凄いし、結構白子役は難しいと思うがそれを卒なくこなしてしまう土本さんも良かった。
「南アルプスの天然水」と大きな声で言う所が好きだった。このセリフ、女子高校生似合うなと感じた。
そして、逆に初演時に白子役をやっていた大場みなみさんがどんな感じで演じられていたのか気になった。この役は難役であり、白子をどんな感じで演じるかによってこの作品の雰囲気もだいぶ違ってくると思うから。
ストリートビューでシウマイと富士山を遠足で行くようなシーンもとてもファンタジックで素敵だった。
次に、朝役を演じた小川紗良さん。小川さんの演技は初めて拝見する。
他のキャストは主に小劇場演劇を中心に活躍する俳優であるのに対して、小川さんは芸能事務所に所属して、ラジオなど異なるフィールドで活躍されている印象でちょっとだけ異質だったが、上手く馴染んでいた。
小川さんが演じる女子高校生の瑞々しさが本当に良かった。男子高校生の多くが好きになってしまうようなそんな女子高校生で、頑なに朝に近づこうとする男子を拒絶する感じも分かるなという感じだった。
こういうモテるタイプの女子高校生がクラス内で女性から孤立するのもよくあるんだよなと思う。朝は、女友達と一緒にいるより幼馴染の将門と一緒にいる方が良いと話していたが、それは将門を友達だと思っているのか恋人だと思っているのか絶妙に描いている点も凄く好きだった。将門が凄く太郎の行動に詳しくて、それって好きなの?と焦る朝も良かった。若干同性愛的な要素もあって、多様性を全体的に受け入れる脚本でいいなと思う。
朝が窓際で将門に対してずっと応援して手を振っている姿とか瑞々しくて好きだった。青春が詰め込まれていて凄く良かった。そう考えると、朝の役を演じた小川さんは完璧なハマり役だなと感じた。
将門役を演じた「劇団スポーツ」の竹内蓮さん。竹内さんの演技は劇団スポーツ『ルースター』(2021年4月)に一度だけ拝見したことがある。
個人的にはもう少し存在感があっても良いのではないかと思ったが、劇中には登場しない太郎という男子生徒に夢中になる感じが男子高校生らしくて良かった。朝との関係も凄くナチュラルで良かった。
最後に、瑠璃色役を演じた「南極」の端栞里さんと、茉莉役を演じた三上晴佳さん。端さんの演技は、「南極」の公演で度々演技を拝見しており、三上さんの演技は初めて拝見する。
この二人の会話が、本当にその辺にいる女子高生という感じがして良かった。てっきり初演では、この二人をロロの望月綾乃と森本華さんが演じていると思ったが、森本さんが演じているのは当たっていたが、望月さんは演じられていなかった。
端さんは俳優として安定感があって、いつも「南極」では特殊能力を持った主人公みたいな役になりがちなので、こういうナチュラルな女子高校生役が逆に新鮮で良かった。
そして三上さんの演技がとても素晴らしかった。楽しそうに瑠璃色と会話している姿を見て元気がもらえる。話し方がやや森本さんに似せているように感じたが、そもそも森本さんは初演では瑠璃色を演じているし気のせいかなと思った。三上さんは他の作品でも演技を観てみたいなと思った。

【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは、私が初めて「いつ高」シリーズである今作に触れた感想と、脚本の考察をしていきたいと思う。
まず「いつ高」が、高校生たちに大会で上演してもらえるような創作をするプロジェクトだったということを恥ずかしながら初めて知り、三浦さんはなんて演劇愛の持ち主なんだと感動した。
高校の演劇の大会は、確かに60分という強い制約があって、なかなかその制約にあった作品って存在しないと思う。今を生きる等身大の高校生たちの物語を書き下ろしてくれることによって、どれだけの高校生が演劇の魅力を感じてくれるのかとワクワクさせられる。
戯曲デジタルアーカイブというものもあって、今作もそこで無料で戯曲が掲載されているので、学生たちも気軽に今作の戯曲を読みながら演劇を楽しむことができるので、こういう作品に出会って演劇を好きになって欲しいなと思う。
今作が書かれたのは2015年で、浜崎あゆみの『Boys&Girls』や宇多田ヒカルの『道』などは当時の高校生であれば聞いていた楽曲だと思うので、今作を今の令和を生きる高校生たちが観劇したら何を感じるか気になる所である。
今作の上演に際しても、一部脚本は書き換えられていて、TikTokなどが劇中に登場することからも今の高校生たちに合わせているのかなと思う。しかし、楽曲は10年前のものと変わらないし、この雰囲気が今の高校生のリアルに近いものになっていて、何か感じるものがあるのかというと少し疑問に思う部分もある。
今の高校生はLINEをそもそもやらずにinstagramのDMを使うと聞くし、BerealというSNSをやったりすると聞くので、今の高校生たちの日常のリアルになっているのかは正直分からないなと思う。
この辺りに関しては、ぜひ高校生や大学生の感想を聞きたい所だなと思う。
今作を観劇して思ったこととしては、学生時代の日常を描いていながら、どこかファンタジーの要素も入っていることを忘れてはいけないことだと思う。
白子の終盤の台詞が印象に残る。ストリートビューを通して、富士山に行くことを想像していたら、行ったような気分になれるし、それを誰かと共有していたらそれは一緒に行ったことになると。
白子は先述した通り、現実世界では人間関係など上手くいっていない生徒として描かれている。自殺未遂したと話題にもされていたし、ミニチュアを作って一人で遊んでいる時点で、なかなか周囲の生徒たちが近寄ってくる感じにはなれないだろう。
白子は現実世界で楽しむことが出来ない代わりに、想像力が卓越していた。想像力さえあれば、色々なことをすることができると。そして、それは演劇にもそういう側面があるよなと教えてくれる。
演劇は決して一部の人に開かれた世界ではない。学校生活で孤独に感じていたとしても、演劇を通じて色々なことを追体験することができ、非日常の世界に没入させてくれるものである。
今作は、高校生たちに出会ってもらうことによって、決してこの物語は学校生活において日常を楽しめている人たちだけの作品ではなく、すべての人に体験してもらえる、没入してもらえる作品であることを教えてくれているように思う。
孤独だったとしても、想像することによって好きな人と一緒に時間を過ごしたり、やりたいことをやったりと。そうやって観る人たちすべてに寄り添ってくれるような作品にも思えた。
今年(2025年)7月8日からは、「いつ高」シリーズvol.2『校舎ナイトクルージング』も上演予定である。どんな作品に仕上がって上演されるのか今から楽しみである。

↓ロロ過去作品
↓三浦直之さん演出作品
↓稲川悟史さん過去出演作品
↓竹内蓮さん過去出演作品
↓土本燈子さん過去出演作品
↓端栞里さん過去出演作品

