呼び名はひとつ、関係はふたつ ~『よしえさん』をめぐって~
友人のダンスの発表会の日、私の席は、彼女のお母さんの隣だった。
初対面だったが、せっかく隣になったわけだし、ときどき言葉を交わしながらステージを見守った。
発表会が終わるころ、お母さんはふと私の方を向いてこう言った。
「良かったら、飲みに行きませんか?」
面食らいながらも頷いた。発表会が終わり、友人本人は帰り支度でばたばたしているはずだ。
その隙に、お母さんと二人でお店に入った。



なぜ誘われたのか、その時はよくわからなかった。
あとで聞くと、お母さんには私くらい年の離れた友人はいないのだという。だから、あの誘いはかなり珍しいことだったらしい。
あれから大分経つが、この関係はなぜか続いている。
友人が結婚し、遠くに住むようになっても。
娘の不在の実家に上がりこみ、お父さんとお母さんと三人で、日曜のゴルフ番組をぼんやり眺めて過ごすこともあった。
何をそんなに話すでもない。ただ、そこにいる。
不思議なのは、友人本人からも、同じように「今度二人で会いたい」と誘われることだ。
母と娘、それぞれが別々に、私を誘ってくれる。
二人とも、私のことを「よしえさん」と呼ぶ。
私のいないところで、二人は時々私の話をしているらしい。
それを知った時、少し笑ってしまった。
私は二人の間で、いったい何になっているのだろう。
昔から、なぜか友達の母親には好かれる。
理由は分からない。
この友人のお母さんは、毎年、私の誕生日を祝ってくれる。
二人きりで、ご馳走してくれながら。
友情というのは、誰か一人から始まって、そこで完結するものだと思っていた。
でも、友人とそのお母さんとの関係を見ていると、そうでもないらしい。
一人の人との縁が、いつのまにか、もう一つの縁を生んでいる。
母と娘、それぞれの「よしえさん」は、同じ人物なのだろうか。
それとも、少しずつ違う私なのだろうか。
あなたは、誰かの家族の中で、どんな存在になっているでしょうか。
友達の家族に妙に気に入られたエピソード、ありませんか?
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