打ち合わせ、忘れてませんか? 〜異国のおもてなしに飲まれた日〜
打ち合わせのはずが、気づけば4時間超。
勝手に慌ただしかった私の心が、少し緩んだ話です。

これは私の初めてのマンガのクライアントさんのお話。
このクライアントさんは、東京都内でペルシャ絨毯の会社を経営しているイラン人のマジッドさん。
この方と最初に出会った時のことはまた別の機会にお話しするとして。
彼の話だけで本が一冊できそうなくらい面白い人物と言える。
その日の午後、約束の時間どおりにマジッドさんの会社を訪ねた。
依頼されたのは、彼の会社のSNS投稿用のマンガだった。
ネタ帳も準備してきたし、商品の写真も撮らせてもらえばいい。一時間もあれば終わるだろう、そう思っていた。
帰ったらあれをして、これをして…ともう先のことまで考えていた。
会社に着くと、マジッドさんのほかにもう一人、見知らぬ人がいた。
聞けば、彼と同じイラン出身の友人で、都内のカフェでシェフをしているという。
さて打ち合わせかと思いきや、マジッドさんと彼の友人は「準備してきたから」とにっこり笑う。
あっというまにテーブルの上に準備されたのは…
見たことのない彩りのご飯。そして、なぜかお酒まで並んだ。
バガリポロという名前のイランの炊込みご飯だそう。
——マンガの打ち合わせは、いつ始まるのだろう。
「まあまあ、まず食べてから」
そう言われてしまうと、もう何も言えない。
初めて口にする料理は、驚くほどおいしかった。
友人のシェフが腕によりをかけて作ってくれたのだと、知った。
二人のおしゃべりは尽きることなく、結局、一時間のはずの打ち合わせは、四時間を超えてしまった。
その間、何度「あの~、打ち合わせを…」と口にしたことか。
マジッドさんは日本に来て約30年。
日本語も、私よりずっと上手なくらいだ。
ご自身の仕事には誇りを持って取り組んでいる。
それでもこういう時間の使い方には、彼の国の人らしさがにじみ出る。
きっちりとした予定より、目の前にいる人をもてなすことのほうが大事なのだろう。
いつの間にか外はオレンジ色のきれいな夕焼け空だった。
お土産まで持たせてもらって。
慌ただしく時間に追われていた自分が、少し恥ずかしくなった。
おかげで、マンガの打ち合わせよりも先に、お腹も心も満たされてしまった一日だった。
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