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人間の成長と究極的な生き方3 ウィルバーの新刊から Opening Up

Growing Upのところで、「発達段階というものがあるにせよ、シャドーに影響されそれに気づかないと退行を起こすのではないか」と書いたのですが、その答えとなり得るのが、このOpening Upの考え方です。

ウィルバーは、人間にはIQだけでは捉えられない複数の intelligences(知性)のlineがあり、それぞれが比較的独立して発達するとし、その発達をOpening Upと名付けています。intelligences(知性)のlineには、Cognitive intelligence 認知的知性、Emotional intelligence 感情的知性、Moral intelligence 道徳的知性、Interpersonal intelligence対人的知性、Aesthetic intelligence 美的知性、Spiritual intelligenceスピリチュアルな知性などがあるとしています。

1. Cognitive intelligence 認知的知性
基本的な問いは、”What exactly am I aware of right now?(p.72)”「私は今何に気づいているのか?」です。
これは単なるIQや計算能力ではなく、物事を理解する、論理的に考える、複雑な関係を把握する、複数の視点を取る、より大きなシステムを認識する能力です。
例えば、幼い子どもは自分の視点を中心に世界を理解しますが、発達すると、「相手には、自分とは異なる考えがある」と理解できるようになります。さらに発達すると、「個人の問題には、心理、家族、文化、経済、社会制度など、複数の要因が相互に影響している」と考えられるようになります。

2. Emotional intelligence 感情的知性
基本的な問いは、”What do I feel about that?(p.72)”「私はそれについて何を感じているか?」です。
これは、自分の感情に気づく、感情を区別する、感情を言葉にする、感情を調整する、他者の感情を理解する能力です。
例えば、「何となく嫌だ」という漠然とした感覚から、「私は怒っている。しかし、その怒りの下には、傷つきと見捨てられる不安がある」と細かく認識できるようになることも、感情的知性の発達です。

3. Moral intelligence 道徳的知性
基本的な問いは、”What is the right thing to do?(p.72)”「正しい行いとは何か?」です。
これは、何が正しいか、誰に配慮するか、自分の利益と他者の利益をどう調整するか、公正さや責任をどう考えるかに関する知性です。
発達の方向を単純化すると、自分だけを守る→自分の仲間や集団を守る→すべての人間を平等に扱う→人間以外の生命や生態系、将来世代も考慮するというように、道徳的配慮の範囲が広がります。

4. Interpersonal intelligence対人的知性
基本的な問いは、”What is that other person thinking?(p.293)”「他者はどのように考えているのか?」と表現できます。
これは、他者の立場を理解する 相手の気持ちを感じ取る 対話する 協力する 葛藤を調整する 適切な境界線をつくる能力です。
感情的知性と重なりますが、少し違います。
感情的知性は、「私は何を感じているか」が中心です。
対人的知性は、「私とあなたの間で何が起きているか」が中心です。

5. Aesthetic intelligence 美的知性
基本的な問いは、”What looks the most attractive or most beautiful to me? (p.72)”「何が最も魅力的、あるいは最も美しいか?」です。
これは、美を感じ取る 調和を認識する 芸術を理解する 新しい美的表現を創造する 微妙な色彩、音、形、リズムを感じる能力です。
単に「絵が上手」「音楽が上手」という技術だけではありません。
例えば、同じ音楽を聴いても、「明るい曲だ」「この和音の変化には、喜びの中に喪失感がある」「この曲は、個人的な悲しみを普遍的な美へ変えている」というように、美的認識には深さがあります。

6. Spiritual intelligence スピリチュアルな知性
基本的な問いは、”What is of ultimate concern?(p.72)”「究極的に重要なものは何か?」です。
これは、「人生の意味を考える」、「究極的価値について考える」、「自己を超えた視点を持つ」、「宗教的・霊的象徴を理解する」、「神秘体験を意味づける」能力と言えるでしょう。

Growing Upが「Pre-Personal→Personal→Trans-Personalという発達段階を一つ一つ登っていくこと」を示し、Opening Upとは、人間の中にある複数の知性を認識し、それぞれを発達させ、相互に統合することと言えるでしょう。

Opening Upで語られる知性には凸凹があるのが普通です。これは、Uneven Development(不均衡な発達)と言えます。

例えば、
認知的知性:非常に高い
感情的知性:低い
道徳的知性:低い
対人的知性:高い
美的知性:高い
スピリチュアルな知性:低い
ということもあり得ます。

このような人が、例えば、宇宙との一体感を経験したとしましょう。これは、Waking Upにおけるspiritual experience(スピリチュアルな体験)と言えます。

Spiritual intelligence(スピリチュアルな知性)とSpiritual experience(スピリチュアルな体験)は同じではありません。
「この体験には自分にとってどのような意味があるのか」「この体験を、宗教、心理学、科学、倫理との関係でどう理解するか」「この体験があったとして、『自分はさとった』などと自己愛的に解釈してしまうと、逆に退行を起こしてしまう可能性はないか?」などと考える能力は、Spiritual intelligence(スピリチュアルな知性)です。

スピリチュアルな知性が低い場合、この体験を「自分が最終的な発達段階、すなわちさとりの境地に到達した」と短絡的に考えるかもしれません。認知的知性が高い場合、自分が最終解脱に到達したことを、宗教、心理学、科学の観点から難解な用語を駆使して知的に説明することもできるでしょう。
対人的知性が高いので、仲間を作り、やがて教団にまで発展させることもあるでしょう。感情的知性と、道徳的知性が低いため、信者たちから多額のお布施をとることも厭わないでしょう。美的知性が高ければ、集めたお金で華麗な神殿を作るかもしれません。
やがて、不正が発覚し、世間から非難され司法の裁きを受ける可能性が出てくると、高い認知的知性を使って、自分たちが不正に迫害されているというストーリーを作り、自分たちに反対するものは殺害しても構わないという結論に達し、実行してしまうということも起こり得るのです。

不均衡な発達による影響は、こうしたカルトの暴走だけではなく、極端な陰謀論、政治の混迷、組織的な不正、いじめやハラスメントなどにしばしばみられることです。

現代の日本では、学歴偏重、偏差値重視の傾向が強く、認知的知性ばかりがが注目されるような状況がありますが、それは、知的とみられる人が自分の理論に酔う「知性の罠(Interigent Trap):ロブソン, D. 2025」に陥り、周りにいる認知的知性と感情的知性の高い人たちが、「もっともらしい『知的な』説明を理解して、他者に共感しすぎるので、結果的に騙されやすい」状況を生むことにもなりかねません。

そのほか、感情的知性ばかりが高ければ、詐欺に騙されることもあるでしょうし、他者に共感しすぎ依存的な人に巻き込まれることもあるでしょう。対人的知性ばかりが高い人は、周りの空気を読むことばかりに長け、自分が何を感じているのかがわからなくなるなんてことも起こるでしょう。

それぞれの知性は、その凹に気づけば高めることができます。そして凸の部分もそれが突出していてあまりにバランスが悪いとデメリットになる場合もあることを知っておくと良いでしょう。

一つの能力だけを最高レベルまで伸ばすのではなく、自分の中の多様な知性に気づき、それらを開き統合していくことで、新しい種類のWholenessが生まれるのです。

そのためには、まずは自分の発達の凸凹を知り、シャドーを見つめ修正していくCleaning Upのプロセスが必要になってきます。

Cleaning Upについては、次回。

参考:
Wilber, K. 2024, "Finding Radical Wholeness: The Integral Path to Unity, Growth, and Delight" Shambhala

ロブソン, D. 2025,「知性の罠」 著 日経ビジネス人文庫

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