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人間の成長と究極的な生き方4 ウィルバーの新刊から Cleaning Up

Cleaning Upは、"Finding Radical Wholeness: The Integral Path to Unity, Growth, and Delight"の中の最も重要な概念です。

どれだけ覚醒していても、抑圧し切り離されたシャドーを放置したままだと、さまざまな不都合が、時には深刻な問題が起きる可能性があります。

シャドーは、自分の中の受け入れたくない感情や考えを抑圧し、切り離すことによって生まれます。

例えば子どもの頃、「怒ってはいけない」、「泣いてはいけない」、「わがままを言ってはいけない」、「目立ってはいけない」などのメッセージを受けると、子どもは、それに関する感情・思考を切り離します。例えば、攻撃性、衝動性、弱さなどを抑圧し、切り離してしまうのです。

つまり、抑圧と切り離しにより、表面的には「いつもニコニコしていて、ゲームにのめり込むこともなく、泣き言を言わずに勉学にはげみ良い成績をあげるが、慎み深い」理想的な子になります。

そして、「怒りっぽく、ゲームばかりやっていて勉強もしないので成績が悪いが、クラスで目立っていて人気がある」クラスメートのA君を下に見るがどこか憧れているといったことが起こり得ます。

すると、本来の「I(私)」だったものが、「It(あれ)」になってしまい、そして外界(この場合、A君)に投影されます。

<Growing Up特有のシャドー>
ウィルバーは、Growing UpのプロセスにおいてはそのStageに特有のシャドーがあると言います。Growing Upのところで示したStage特有のシャドーをもう一度以下に整理してみます。

1. Archaic(原始段階):乳幼児的な段階
シャドー:存在不安 消滅恐怖 見捨てられ不安
シャドーの顕在化の例:「ライオンに食べられてしまう!」、「親から見捨てられる」など。

2. Magic(魔術的段階):幼児期的な段階。
シャドー:全能感 呪術的思考 被害妄想
シャドーの顕在化の例:「私が怒ったから地震が起きた」、「私は呪われている」、「私がいつも悪者にされる」など。

3. Red(衝動的・権力段階):自我の誕生と自己主張。
シャドー:支配欲 暴力 ナルシシズム
シャドーの顕在化の例:世界観が「勝者が正しい」、「負け組になる奴は努力が足りないのだ」、いじめ、ハラスメント、DVなど。

4. Amber(神話的段階):共同体への所属。
シャドー:原理主義 異端狩り 善悪二元論
シャドーの顕在化の例:「外国人は自分の国に帰れ」、「お前は、非国民だ」、「今時リベラル?」など。

5. Orange(近代合理主義):自立。
シャドー 唯物論 消費主義 ニヒリズム
シャドーの顕在化の例:「世界は全て、科学的に記述できる」、過度な成果主義、スピリチュアリティ批判など。

6. Green(多元主義):多文化主義 共感 平等。
シャドー 平均の専制 発達段階否定 被害者競争 キャンセル文化(異論排除)。
シャドーの顕在化の例:「徒競走で順位をつけるのは、差別的であるので、徒競走自体をやめるべきだ」、行き過ぎたポリティカルコレクトネスなど

7. Teal / Turquoise(インテグラル):統合。
シャドー 自分は統合しているという優越感 発達段階マウンティング
シャドーの顕在化の例:「私は、さとりの境地に達した」、「あなたは、まだRedの段階にとどまっている」、「私は宇宙の真理をすべて知っている」など。

<Opening Up特有のシャドー>
また、ウィルバーは多くを語っていませんが、Opening Upのプロセスにおいてもシャドーは生じ得ると僕は考えています。

以下に、6つの主要な知性について生じうると考えるシャドーをまとめました。

1. Cognitive intelligence 認知的知性
シャドー:認知能力に対する優越感 認知能力に対する劣等感 自我肥大 自己に対する過小評価 偏差値への固執 学歴主義 他文化批判
シャドーの顕在化の例:「私は勝ち組だ」、「私は受験に失敗した。だからこそ、娘にはh同じ思いをしてもらいたくない」など。

2. Emotional intelligence 感情的知性
シャドー:過度な共感 共感能力の欠如 過干渉 過少介入 依存・共依存 ストーカー行為 いじめ ハラスメント
シャドーの顕在化の例:「私だけが、このクライアントを救える」、何も感じない、あまりに過敏すぎるなど。

3. Moral intelligence 道徳的知性
シャドー:教条主義 アナーキズム 反社会的傾向 犯罪行為
シャドーの顕在化の例:無駄な校則を変えない 軍隊内での体罰の横行 連帯責任 自己責任論 「規則ですから」としか言わない、サボり、テロ行為、データ改ざん、賄賂など。

4. Interpersonal intelligence対人的知性
シャドー:共感能力の欠如 偽りの共感 協調性の欠如 孤立
シャドーの顕在化の例:忖度、媚びへつらい、空気を読みすぎて行動ができなくなる、何かと相手を怒らせてしまう、いじめなど。

5. Aesthetic intelligence 美的知性
シャドー:美の強調 美の強要 美の否定
シャドーの顕在化の例:ルッキズム、ルッキズム否定、整形を繰り返す、グロなど。

6. Spiritual intelligence スピリチュアルな知性
シャドー:スピリチュアルなエリート主義、スピリチュアルな物質主義
シャドーの顕在化の例:科学の否定、過度な陰謀論への耽溺、科学と宗教の無理矢理な融合、カルト化、超能力への固執など。

<ゴールデン・シャドー>
シャドーというと、暗いイメージがありますが、「ウィルバーは、自分自身の驚くほど素晴らしい側面――美しさ、善良さ、強さ、そして徳――を完全に見失い、それらを他人に投影してしまうこともある(p. 233)」と主張します。ウィルバーは、これを「ゴールデン・シャドー(golden shadow)」と呼んでいます。

他者にゴールデンシャドーを投影した場合、その人はシャドーと格闘する(shadowboxing)のではなく、シャドーを抱きしめる(shadow hugging)ことに時間を費やすようになります(p. 233)。
彼らは、自分の周囲にいる、「スーパーヒーロー」たちに憧れ、ひたすら賞賛し続けることにもなるかもしれません。

<積み残されたシャドー>
シャドーは、Growing Upのステージごとに、あるいはOpening UpのラインごとにCleaning Upされるのかというと、必ずしもそうではないと考えます。

例えば、Growing UpのArchaic(原始段階)のシャドーである見捨てられ不安が処理されずに残り、Magic(魔術的段階)の被害妄想・Amber(神話的段階)の善悪二元論と、Opening UpのMoral intelligence 道徳的知性のシャドーである反社会的傾向が結びついた場合、見捨てられ不安が激しくなり、その不安と悲嘆が怒りに転じ、善悪二元論のもと相手を激しく糾弾し、SNSでの誹謗中傷にまで及ぶということもありうるでしょう。

シャドーは、このように積み残され複雑に行動化される場合もあるでしょう。

これらのシャドーは、それぞれの領域のwholenessからBig wholenessに向かうためにCleaning Upする必要があるとウィルバーは言います。

そのための方法として、ウィルバーは3-2-1 Processを提案しています。3-2-1 Process は、インテグラル理論における Cleaning Up(シャドーワーク) の代表的手法です。

目的は、「自分が嫌っている(あるいは称賛している)他者や出来事の中に、自分自身の抑圧された部分(シャドー)を見出し、統合すること」です。
以下に、ウィルバーの3-2-1 Processについて概説します。

【3-2-1 Process】
<3 = Third Person(彼・彼女・それ)>
まずシャドーの対象となる人物を見つける。
例:嫌いな上司、攻撃的な政治家、横柄な同僚、とてもあの人のようにはなれないと憧れる理想的な人など。

クライアントに「その人の何が嫌なのか?」あるいは、「その人のどこに憧れているのか?」と聞く。
クライアントが、例えば「傲慢だ」、あるいは、「優しい」と答えたとします。

<2 = Second Person(あなた)>
次に、ゲシュタルトセラピーのエンプティチェアーの手法を適用して、その人物に話しかける。
たとえば、「あなたは本当に傲慢だ」「あなたは人の話を聞かない」「いつも上から目線だ」「私は苛立っている」「私は萎縮してしまう」
あるいは、「あなたは本当に優しい」「あなたは共感的な人だ」「あなたは、いつも対等に話をしてくれる」「私はあなたと話すのが嬉しい」「でも、どこか構えてしまうのです」
など。

<1 = First Person(私)>
今度は、その嫌な人物になりきります。

たとえば、「私は本当に傲慢だ」「私は人の話を聞かない」「いつも上から目線だ」「あなたは苛立っている」「あなたは萎縮しているように見える」
あるいは、「私は本当に優しい」「私は共感的な人間だ」「私は、いつも対等に話をする」「私はあなたと話すのが嬉しい」「でも、あなたは、どこか構えているように見える」
などと、一人称で話します。

つまり、「彼」を「私」へ戻すのです。これが3-2-1 Processです。

最初、クライアントは、対象の人に対し、「私はそんな人間じゃない」と思うことが多いでしょう。しかし、もし本当に対象の人の資質が自分の中に存在しないなら、それほど強い感情反応は起きません。

つまり、激しい感情は、シャドーのサインかもしれないのです。

次に示すのは、3-2-1 Processを応用し私自身が考案した3-2-1-0 Processを紹介します。

【3-2-1-0 Process】
<3=Third Person(彼・彼女・それ)>
椅子を二つ用意する。一つの椅子は、遠くの部屋の隅に置く。もう一つは、参加者の前に置く。クライアントは参加者の前に置いた椅子に座る。

クライアント役は、「どうしても我慢がならない人」、「どうしようもなく憧れる人」、のいずれかを思い浮かべる。

クライアント役は、今思い浮かべた人について、自身のその人との体験やその時感じたこと考えたことなどを参加者にシェアする。

参加者は、クライアント役の話を聞いて自分が感じたことを述べる(良い悪い、正しい誤っているの判断はしない)。クライアント役は、ここでは参加者と対話する。

<2=Second Person(あなた)>
部屋の隅に置いていた椅子をクライアント役のすぐ横に持ってくる。

クライアント役は、その椅子に向かって座り、自分の感情や身体の反応を見つめる。

クライアント役は、そこで感じたことを言葉にする。エンプティチェア(苦手な人)に話しかけたり感情をぶつけても構わない。

参加者は、感じたことを話し合う。 良い悪い、正しい誤っているの判断はしない。この時、クライアントは参加者の話を黙って見ている(リフレクティング)。

<1=First Person(私)>
クライアント役は席を変わる。相手役(苦手な人、あるいは憧れる人)になって、そこで浮かんだ自分の感情や身体の反応を見つめる。

クライアント役は、そこで感じたことを言葉にする。先ほどまで座っていたエンプティチェアに話しかけたり感情をぶつけても構わない。

参加者は、感じたことを話し合う。 良い悪い、正しい誤っているの判断はしない。この時、クライアントは参加者の話を黙って見ている(リフレクティング)。

<0=Witness(俯瞰している私)>
クライアント役は、元の席に戻って座る。もう一つの椅子は、部屋の隅に戻す。

クライアントは、ワーク全体を通しての経験をシェア。

全体シェア。

ウィルバーの言うCleaning Upは、何も3-2-1プロセスに限られたものではありません。あらゆるセラピー手法が活用できるでしょう。

要は、自分のシャドーと取り組む決意ができれば、誰もが統合への道を歩夢ことができると考えます。

ただ、自分のシャドー、すなわち暗部を見つめることになりますから、辛い場面もあるでしょう。無理せず、自分のペースで進んでいくことが大切かと思います。

参考
Wilber, K. 2024, "Finding Radical Wholeness: The Integral Path to Unity, Growth, and Delight" Shambhala

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