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真冬のプラセボ大作戦

ヒートテックを過信すると、人は仏像になる。

時は平成。
網走監獄を彷彿とさせる、真冬の地下スタジオにて。

俺たちは目のやり場に困っていた。

だって、そうだろ?
何の脈絡もなく現れた金ピカの仏像がギター掻き鳴らして歌ってるんだからな!

……いかんいかん。
これはアレだ。
簡単に言えば、軽音サークルよもやま話だ。

とにもかくにもあの日は寒かったのだ。
地上は毛根根こそぎ剥いでいきそうな寒風が吹き荒んでいたし時刻はもう日も沈み腐った午後五時過ぎ。
暖を求めて自販機の前に立つも、惰性でアイスコーヒーのボタンを押してしまう。
心も財布も一層のかん極まれりといった状況。

笑うしかない状況に、捻くれている私は笑わなかった。

きたる、“ほとんどの四年生が留年するという状況下で開催される卒業おめでとうライブ”に向けての水面下、もとい氷点下の地下での音合わせ。

何が卒業おめでとうだ!
どちらかと言えば抑留おめでとう!並びにモラトリアムの延滞おめでとうライブだろうが!
と寒さと怒りにブルブル震えていた。

それでも生きねばと我々は必死だった。

官房長はコートのポケットに潜ませたウイスキーを風邪っぴきの喉にひと思いに流し込む。
「学内飲酒禁止」の六文字の真ん前で。

官房長は空調の設定温度をハイビスカスが咲いちゃいそうなレベルに設定する。
──エアコン設定温度:暖房30℃

官房長はドンドコドンドコタンタカタカタンテケテケテケテケとドラムを叩く。
手癖で。

って……

「なんでだよ! 俺しかがんばってねえじゃん!」
風邪のせいか酒灼けか判別に苦しむしゃがれっぷりで官房長がブチギレたその時だった。

レノンが頬を火照らせ、汗ばみながら言う。

「ふう……さすがに暑いよ……」

おもむろにモッズコートを脱ぎ始める。

まあ、感じ方なんて人それぞれだしな。
となるべく意に介さぬといった空気を醸し出しつつ、私はかじかむ指でベンベケベンベケ太い弦に八つ当たりしていて、その隣ではハリスンがブツブツ言いながらエフェクターをチャカチャカ踏みまくっていた。

次の瞬間だ。

我々の前には頼りない金ピカの仏像が堂々と立っている。
しかも、テレキャスターギターを高めの位置で構えて。

ポーカーフェイスが売りのハリスンが膝から崩れ落ちた。
「ハヒィッハヒィッハヒィッ……」
彼は、跪いたまま顔を真っ赤にしている。
その華奢な首を掻きむしりながら、焼き過ぎたアジの干物の如く白目を剥く。

もう、ポーカーフェイスの商標は何の価値も持たなくなった。

火照るレノンは大真面目に言う。

「これ、一枚でいけるやつじゃないの?」

のっけから理性などなかった官房長はスネアドラムごと床にひっくり返っている。

ヒートテック、それも金色を素肌に重ねただけの男の問いかけに私は降伏するわけにはいかない。
だって、捻くれているから。

……耐えろ、耐えるんだ俺!!

意識を逸らすため、自分の革ジャンの臭気に意識を集中させる。

「(クッサ!!!)」

いけない。
臭いことすらおかしい。
あまりにもおもしろい。
唐突にレノン宅エントランスの変な三角のフレームの映像まで頭に浮かんできた。

いけない。
本当にいけない。

電源が入ったままのアンプは断続的にシュオオオオ……と音を吐き出している。
何もおかしくなんてないはずの音が横隔膜をくすぐる。

現実というのは手厳しい。
自分よりも先に、腹の虫の方がをあげた。

そしてなし崩し的にその日の朝食のハリスンそっくりの“焼き過ぎたアジの干物”の表情を重ねてしまい、膝から崩れ落ちた。

電源など見当たらないただの人間である私たちは、壊れた機械の如く白煙を噴き上げている。

──ズシンッ!
ドドドドドドドド!!!!

スタジオは震えている。
震えるスタジオの中で我々も震えている。
大地が怒っている。

揺れの中立ち尽くす仏像、しかも黄金。
しかもテレキャス。

「こんな金ピカボディライン丸わかりの男と一緒に死にたくねえ!」

ハリスンは、シラフにも関わらず一番酔っ払いみたいなノリで泣き出した。
跪いたまま、祈るような形で。

そんなに「生」に貪欲だったのかハリスン!

彼の叫びをマイクが律儀に拾い、スピーカーから発せられハウリングしている。

しかし、まだ誰も気づいてない。
入口に貼られた「館内全室空調設備故障中」の事実に。

後日、私はこれを“プラセボ事件”と名付けたのだった。
レノンには、駅前の女に気をつけろと釘を刺しておいた。

さて。
金ピカ仏像スタイルの余韻もすっかり抜けたある日のこと。
私はシンと澄んだ空気の冬の教場で川端康成の『伊豆の踊子』を読んでいるふりをしていた。

「おはよう。あんたが一限でるなんて異常事態じゃん。どうしたの?」

見覚えのある金ピカに身を包んだアサミが完全に馬鹿にしながら声を掛けてくる。

「それのまま湘南新宿ライン乗ってきたの?」
「当たり前でしょ、それしか移動手段ないんだから私は!」
としれっとしている。
なんなら若干怒っている。

「いや待ってよ、なんで半ギレなの?」

半ギレのアサミと半笑いの康成に翻弄されし我。

金ピカの仏像が湘南新宿ラインでガタンゴトンとやってきて、ガタンゴトンと帰る絵面のせいで授業が全く頭に入らず単位を落とした。

なお、アサミは主席で卒業(マジ)。

私は間一髪で卒業。

レノンは留年。

だから私はヒートテックを過信しない。
だって、捻くれてるから。

でもね、あの日私たちが寒かった原因、わかってるの。
だって、ハリスンはなぜか生脚ハーフパンツすね毛添え、私はペラッペラのシャツの上に革ジャン(しかも臭い)。

なんでそんな格好だったかって?

捻くれてるからに決まってんだろ!

ケッ!


捻くれているので書いた小説を供養しました。


捻くれてても言い訳したい。


捻くれてても、この世の自分以外の才能が羨ましい!


ゆきお様・作
思い出が温まりました。
ええと、思い出が凍てつく道路だとしたらこちらは蒸したての肉まんです。
寒過ぎたあの日が温まり始める、不思議なリリック。

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よもぎ よもぎちゃーん! はーい! 何が好き? ポテトチップスよりも お・ぬ・し

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