世界一くだらない二律背反
大学三年の時、ミスコンで準グランプリになったことがある。
エントリーしたつもりもないのだが、あれよあれよという間に色々突破して、気づけば準ミス。
どんだけぼんやりさんなんだ!
準ミスともなれば賞金とか盾とか何やら金目のものがもらえるんだよなと浮き足立っていた。
……この時は今と違って体重は200kgじゃなかったからな!
浮き足立てるくらい軽かったのだ。
グランプリは同じ学科のオカルトマニア・カナだったのだが、
カナも同じく何ももらっていないと言う。
おかしいな。
ステージ上で白いドレスで頭にキラッキラのティアラを乗っけた巻き髪の女がトロフィーもらって涙を流しているというのに。
不思議だな。
もう一人の似たような女の方も何なら盾をもらって涙を拭うような素振りを見せているのに。
カナと私は互いのモッズコートと革ジャンの背中をバシバシ叩きながらこの上なく下品に笑った。
いやよく見てみろよ!
“凡ミスコンテスト”だよ!
私は本試験前にある試験の日に、とある科目の受験資格がないことを知った。
試験会場で身分証明書を出して待っていたら、
「いやお前誰だよ! 怖! 何でいんだよ!」
くらいの勢いで大学職員に警戒された。
基本的にあの大学の職員は老若男女問わず、なぜか学生に対しても教授に対しても「殺!」みたいなオーラを出しているのでわりと通常運転ではある。
だが、この時はもう私の背中に日本刀を半分くらい刺した上で「殺!」の顔をしていた。
引き抜かれたら、むしろ死ぬパターンである。
私は背中に日本刀が刺さった状態で、
「私はァ、こちらの宗教社会学なる怪しげな授業を大変真面目に履修しましたのでェ、今年こそは広域単位を埋めるべく試験を受けに馳せ参じておりますゥ(原文ママ)」
と説明した。
が、情け容赦なく摘み出され学生課に引きずられて行った。
相変わらず背中には日本刀が刺さっている。
「そこで待っていなさい。」
薄暗い学生課。
煉瓦造りで
秋の終わり頃は「冷凍庫」と呼ばれる。
夏は「ピザ窯」呼ばわりで、季節により名前を使い分けている。
程なくして、冷凍庫の奥のから重鎮らしき人物がこちらへ向かってきた。
まるで、二年前に余らせたルゥを使わずに作ったビーフシチューを冷凍睡眠から目覚めさせたかのような風貌!
「この桜吹雪が全てお見通しだ!!」
──と右半身の刺青を見せびらかしてはいないし多分刺青は、温泉に行けなくなるという理由で入れていなさそうな教務課長代理が申し訳なさげに登場。
「殺!」のオーラがない!
さてはおぬし、生粋の職員ではないな?
【生粋の職員】
本大学及び大学院を卒業し、ストレートで本大学に入職した職員を指す(研究職除く)。
なお、附属校からエスカレーター式に進学してきた者を“純血”とし、究極のエリートとして崇められる。
最も戦闘力が高いのは、図書館司書。
攻略難易度低は“記念館管理部門”及び“大学直営食堂”である。
【生粋ではない職員】
他大卒、もしくは本大学を卒業したが別の機関にて経験を積んだのち入職した者を指す。
圧がほとんどない。
ただし、成績証明書の依頼をかけるとあからさまに変な顔をする。
【スパイ】
大手派遣会社から派遣されてくるハイスペックパーソン。
表面上は良心として存在。
ただし、瞳の奥の方に「滅!」が潜んでいる。
でも圧ゼロ。
逆に怖い。
否、もうすぐ定年の生粋の職員なのだが数少ない良心だったようだ。
「誠に申し訳にくいのだけど、あなたがあの宗教社会学の授業に出席したという記録はありません。」
「え?! 大真面目に、全部出ましたよ! 抜かりなく! 台風で大学が水の都ベネチアと化している日も! 出ましたよ!」
「ないんです。」
「レポートも出しました。S+++で返却されました。」
「そもそも名前がないんです。」
「名前がない?! 履修登録しているのに?! バグじゃないんですか?! 早稲田大学の劣化版のシステムでも使っているのではないですか?!」
「断じて劣化版ではないですし、早稲田大学は無関係です。そしてあなたもあの授業とは無関係です。」
「ではなぜ、レポートが受理されているのでしょう。おかしいですよね。」
「……教授からは“ぜんぜん潜るつもりのないヤバいモグリがいる”と伺っております!」
「What's?」
「ですから、出席カードにはデカデカと名前書いて持ってくるし、真ん中の一番前の席でガンガンにメモとって、参考資料モリモリ使ってとんでもないレポートを出すモグリがいると伺っております!なお、そのモグリのノートには……」
「まあそれ明らかに私なんですけど、モグリではなくて……」
「確かに、あなたは宗教社会学履修登録なさっていますよ。」
「じゃあなぜモグリ扱いを……?」
「あなたが出席していたのはS山教授の宗教社会学。あなたが履修登録しているのはK教授の宗教社会学。」
「What's?」
「どちらも火曜の二限です。」
なんだよ!
その裏番組みたいなトラップは!!
「教場は……」
「八号館……」
「八号館!」
「三階の……」
「三階の!」
「一!」
「三!」
おい!
同じ日の同じ時間、同じ建物の同じ階で同じ科目名の授業をするな!
罠だろう!
明らかに罠だろう!
じゃあ何だ?
私が背後で繰り広げられし銃乱射事件を生き抜いたあれは無駄だったということか?!
遡ること二週間ほど前、
寒さも極まれり、と鍋パと称し飲めない酒を飲んでは顔を浮腫ませる日々を送っていた。
前日、中途半端にほろ酔いを飲んだことを後悔する。
「こんなことならガツンとハイボールにしておけばよかった。」
時すでに遅し。
肝臓は、キャパオーバーの仕事を任され退職代行の“ご依頼フォーム”入力中といった状況である。
それでも、パワーワードキャプターの私はこの日も真ん中の一番前の席を陣取る。
教授は順当にパワーワードを連発する。
粛々とパワーワードを汝のあるべき姿に戻している。
「黄檗宗というのはそれはそれはもう存在が貴重ですから……この中でご親族のお墓が黄檗宗のお寺にあるという方は……?」
「ドッドエーーー!!! あなたお名前は?水上(仮名)さん?!」
パワーワードNo.1【ドッドエーーー!!!】
驚きを表す。感嘆句。
(この日の登場回数:3回)
どんな驚き方なんだよ。
ドッドエーーー!!!に対してドッドエーーー!!!ってなったわ。
しかも件の水上さんは、全然黄色くない。
黒髪に黄緑のメッシュがたくさん入った草原に擬態するタイプのパリピだ。
あまり黄檗っていない!
──黄檗るって何だよ!
「皆さん黄檗宗ご存知?これは禅宗三銃士の中の一つで……」
パワーワードNo.2【禅宗三銃士】
曹洞宗・臨済宗・黄檗宗
(この日の登場回数:6.3回)
ちなみに、黄檗宗がどれくらい貴重かというとだな。
【黄檗宗】
寺院数:約460
信者数:約35万人
【浄土真宗】(日本でいちばん人気)
※仏教界のMrs.GREEN APPLE
寺院数:約2万2000
信者数:約1500万人(本願寺派:約770万人+大谷派:約689万人)
黄檗宗が東京ドームライヴをギチギチの満席にできる回数は約6回だ。
対して浄土真宗は約273回!
浄土真宗が今で言うところのMrs.GREEN APPLEポジション。
黄檗宗は、下北沢のライブハウスで3番目くらいに出てくるバンドポジション。
伝わっただろうか?
なお、例え話の下手さには定評がある!
これは、自慢だ!
なお、この日は教授が黄檗宗にうつつを抜かしまくり宗教社会学の“社会部分”が不在だった。
そして私が出した出席カード、あれは不在票とイコールの関係にあったという事実をたった今突きつけられている。
「では、これにて本日の授業はおしまいです。」
と言い切るか言い切らぬうちに、背後で平和ボケした抗争が始まった。
「ハッピーバースデートゥーユー ハッピーバースデートゥーユー ハッピーバースデーディア リサ ハッピーバースデートゥーユー ♪」
「イエエエエエエ!!!!」
「フゥゥゥウ!!!!」
「パチパチパチパチ」
「パァァァアンッ!!!!(銃声クラッカー)」
二日酔いでぼやけた脳みそも一気にピントが合うほどの発砲音が響いた。
教場は突如として抗争ありきのパーティー会場、言わば物騒なクラブへと変化を遂げた。
私は背中でパリピの輝きときらめきをひたすらに受け止めている。
──まるで新月だ。
いるけど、見えない。
私は新月である。
他の新月たちは各々に、唐揚げをかじったり、スティックタイプのカロリーの塊をボロッボロこぼしたりしている。
マインドが強すぎる新月は近くのインドカレー屋で手に入れたと思しきバターチキンカレー・ナンセット(推定)の強烈な臭気を漂わせている。
しかし、それをも凌駕する甘ったるい香りが私の脳天を突く。
真っ白なホイップクリームから漂う気怠げ甘い匂いと真っ赤ないちごの弾けるような甘酸っぱい匂いに遠のく意識。
おおよそ3号ほどのかわいらしいホールケーキを囲んでいるのだろう。
スマートフォンのシャッター音が幾度となく聴こえてくる。
純粋に「おめでとう」と思う心と、
教場で発砲事件起こすなという思いがひたすらにせめぎ合う。
我が心の中はこうだ。
「うるせえ」
↓
「おめでとう」
↓
「黙れ」
↓
「でも、おめでとう」
↓
「いやいや、うっせえ」
↓
「おめでとう」
↓
「イライラする」
↓
「ケーキの甘ったるい匂いが不愉快!」
↓
「でも、おめでとう」
謎に葛藤する私と盛り上がり続ける背後の抗争。
これはほとんど、
反社会的勢力 VS 警察の構図である。
言うなれば私は泳がせ捜査をしている警察官。
しかし既に“発砲”の現場に居合わせてしまっている。
もうこれは、
「警察だ!」
と現行犯逮捕するべきなのか、
それともまだ泳がせ捜査を続けるべきか。
苗字を“葛藤”に変えた方がいいのではないかというレベルで葛藤に葛藤を重ねた。
葛藤することに勤しんだ。
ものの見事に完成した葛藤のミルフィーユをフォークで突きながら、
そんなことに勤しんでいる暇があったら
有意義な知識の一つでも入れておいて欲しかったと心の中で言葉を漏らす。
しかしやはり、パリピに物を申すだけの気概の残機は残されていない。
私は自分の不甲斐なさが憎くてたまらなかった。
物言わぬ、他の新月にも赦し乞う。
とにもかくにもさまざまな感情がぶつかり合い、
イマヌエル・カントもびっくりの
世界一くだらない二律背反が爆誕した。
【二律背反】
どちらも正しいように見えるが実は両立できない状況のこと。
世界一くだらない二律背反に殺されそうだった。
相変わらず付きまとう希死念慮が、
「それはお前の死因にふさわしくない!」と叫んでいる。
私は抱えきれなくなった矛盾を、脳への直接対話で仲間に連絡した。
「教室でハッピーバースデー歌いやがって…
うっせえな、でもおめでとう」
程なくして仲間からリプライがきた。
「|ツンデレの発動タイミング、今じゃないよ」
ほぼデレぬ、可愛げのない私の貴重なデレは実にしょうもないタイミングで発動してしまったようだ。
ツンデレの無駄遣いと
世界一くだらない二律背反の産生という、
浪費(マイナス)と生産(プラス)。
バランスをとったとみせかけて実はマイナスに傾いているという悲しみ。
「出してしまったデレは戻らない。まだデレゲージがたまるのを待つしかなかろう。」
それが有識者の見解である。
出席すべき授業を誤り、ツンデレのデレの発動タイミングまで間違えた私。
これが、凡ミスコンテスト準グランプリに輝いた経緯である。
なお、グランプリは成績発表の日に自分がその授業を履修していることを知ったカナだ。
とったつもりのない授業から「F」をくらったと語る。
告白する前に振られるとか、全く興味のない人間に「あんたには興味ない」と先回りして言われる時と似ている。
トロフィーの代わりに「F」、賞金の代わりに「F」を手に入れた私たちは全く別の世界線のグランプリと準グランプリだったのだ。
なお、私の後ろでハッピーバースデートゥーユーのユーとして君臨していたリサ(仮名)は正しい世界線における第四ミスである。
ティアラがなければただの大学生である。
カナと私とて、成績表に「F」を潜ませたただの大学生である。
なお、長年に渡り「F」は“fool=馬鹿”の頭文字だと信じてきた。
私の頭にはキラッキラのティアラではなく、
キレッキレの「fool」ないし「fail」の「F」が燦然と輝いていた。
本来のミスコンには出たことすらない。
そもそもエントリーすらさせてもらえないし、エントリーする紙はおろかエントリー方法さえおしえていただけませんでした!
世知辛い!
とにもかくにも寝言は寝て言え!
というわけで、寝言を言うために夜は寝る。
昼も寝ろ!
寝る子は育つ!
否。
深夜にふざけるから昼間ミスをするんだ、私は。
だから寝るぞ!
ネタとてミスをするがな。
ミセスもミスも、ミスターも。
それ以外も。
みんな仄暗い歴史を連れて生きている。
私の仄暗い過去は上記の通りだ。
わかるだろう……
重度のツイ廃だったんだ。
これは、受験テクニックで言うと“直接的表現はされていないがわかれよ”の一番鬱陶しいパターンのやつである。
さてと。
背中に刺さった日本刀、抜き忘れておるな。
「これにて一件落着!」
と遠山の金さんがいい感じに〆ようとも、なにも落着はしていないことを忘るべからず。
でも言いたい。
これにて一件落着!
↑
カナがドッペルゲンガー使って私を天に召そうとしてくる話。
↑
大学の時の友人をモデルに小説を書いた。
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よもぎちゃーん!
はーい!
何が好き?
ポテトチップスよりも
お・ぬ・し