ディストピア小説「1984」と「攻殻機動隊SAC2045」
前回は村上春樹の小説「1Q84」について書いたので、今回はその元ネタとなったディストピア小説の歴史的傑作、「1984」について少し書いてみようと思う。
「1984」著:ジョージ・オーウェル
(初版:1949年/イギリス)

なんか、小説の装丁からしてめっちゃコワいですやん・・(笑)。
ジョージ・オーウェル(1903年~1950年)

で、この小説を書いたのは、ジョージ・オーウェルというイギリスの作家であり、彼は本作で徹底的にソ連っぽい国家の在り方を批判してるから彼自身は保守(右寄り)という印象受ける人も多いだろうが、いやいや、意外にも彼は左翼(マルクス主義者)なんですよ。
思想は左翼だがスターリンのことは大嫌いという、いわばリベラル系左翼というやつで、まぁこれは日本でも一番多いタイプのサヨクですわな。

我らが巨匠・宮崎駿もまたそのカテゴリーの人であり、彼はオーウェルにも共感してるのか、彼の著書「動物農場」(「1984」の前作)のアニメ化作品をきっちりジブリ美術館ライブラリーの中にセレクトしています。
なお、この「動物農場」もかなり強烈なアニメなので、興味ある方はこちらの記事を是非ご覧ください↓↓

さて、「1984」に話を戻すね。
こういう小説、我が国では正直それほど多くの人が読んでるとは思えんが、少なくとも欧州圏では
・「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」選出
・「ル・モンド20世紀の100冊」選出
・「ノルウェーブッククラブによる史上最高の文学100」選出
などの評価があり、あっちでは「20世紀文学の最高峰のひとつ」にカウントされてるらしい。
そうね、興味ある人は読んでもらえばいいが、手っ取り早く映画で見るのもひとつの手である。
コレね↓↓
映画「1984」(日本公開/1985年)

マーケティングとして、これは日本でも公開するタイミングは絶対1984年にするべきだったでしょ!
何で、よりによって一年遅れの1985年に公開してんの?
なお、日本での公開時は「史上初ヌードの陰毛にボカシを入れてない映画」として話題を呼んだそうです(笑)。
で、これはイギリス製作で、「ハリウッド映画」みたいな娯楽性は全く無しの陰鬱な作りだし、正直見ててしんどくなる人も結構いると思う。
でも、個人的には必見の映画だと思うので、ぜひ我慢して見てほしい。
「1984」の世界観

・時代は第三次世界大戦(核戦争)後の1984年
・世界情勢はオセアニア・ユーラシア・イースタニアという3つの超大国の陣営に分かれており(3国は戦争中)、本作の舞台になるのはオセアニアの首都ロンドン
・オセアニアは徹底した「全体主義」かつ「監視国家」
・指導者はビッグブラザー(上の画像の人物)で全国民が彼への忠誠を義務付けられているが、実はこの人物は単なる虚像、実在しない
・国のありとあらゆる場所にモニターTV(監視システム)が設置されており、国民のプライバシーはほとんど国に把握されている
・ビッグブラザーへの忠誠心に疑いが出た者はすぐに逮捕➾拷問

で、この「1984」のタイトルを聞いて、まず最初にこのアニメのことを思い出した人は結構いるんじゃないかな↓↓
「攻殻機動隊SAC2045」(2021年)

・・そう、この作品に出てくる草薙たち公安9課の敵、シマムラタカシなる人物がひとつの<革命>を起こそうとするわけだが、
その<革命>の思想を導くバイブルが、他でもなくジョージ・オーウェルの小説「1984」だったんですよ!

「・・あれ?なんかおかしくね?」と思う人もいるでしょう。
そうね、なぜならシマムラタカシは決してファシストじゃないし、<革命>で成し遂げようとしてる内容からして「全体主義」「監視国家」の実現では断じてなかったと思うから。
彼は、どっちかっつーと最初から最後まで一貫してリベラルな人物でしたよ。
・・じゃ、そんな彼が「1984」の一体何の惹かれたというのか?

いや、それが「SAC2045」の中で最も難解な概念だった「ダブルシンク(doublethink)二重思考」というやつですわ。
実際、前述した映画「1984」の中にもこの「ダブルシンク」の植え付けシーンが出てきます。
「この指が何本に見える?」

と4本の指を出して問い、相手が「4本」と答えたらすかさず電気ショックを与える、という拷問です。
これを延々と繰り返します。
・・こんな理不尽な拷問も無いよね(笑)。
4本出されてるから「4本」と答えたら電気ショックって・・。
でも、これを数えきれないほど繰り返すうちに主人公もだんだん何本かよく分からなくなってきて、自分の認識そのものを疑い始めるわけです。
その辿り着く先は、おそらく「何本かを決めるのは自分の認識ではない」というところなんでしょうね。
(たとえばビッグブラザーが「3本」といえば「3本」が真実だと認識するということかと)

はい、このやり方は何も小説の中だけの架空のお話というわけでもなくて、現実世界でもカルト宗教などが信者に対して普通によく使う手です。
・・ほら、ああいう信者の人たちはビックリするほど理屈が通じなかったりするでしょ?
ああいうのに「おい、目を覚ませ!」とか言っても絶対に無理です。
既にダブルシンクが成立してる人って、認識を自分自身の目や耳から完全に切り離してますから・・。
で、シマムラタカシの場合は、
このダブルシンクを「いい方」に活用しようとしたわけです。

<シマムラ式ダブルシンク>
・現実➾つらい、苦しい、死にたい
・仮想現実➾楽しい、幸せ、happy

そう、つらい現実(指が4本)が目の前にあってもそれを認識することなくその状況を楽しい、幸せ(指が3本)と認識するように世界中の人々の脳を書き換えるのが彼なりの<革命>でした。
あ、くれぐれも誤解ないようにしてほしいが、彼は決して自分自身がビッグブラザーになろうとしたわけじゃありません。
あと、全体主義や監視国家を標榜してるわけでもありません。
彼の思想はもっとポジティブなもので「世界全人類がダブルシンクすれば、この世から戦争はなくなって皆が幸福に生きられるのではないか?」ということなんですね。
・・あの悲壮な内容のディストピア系「1984」から、よくもまぁそんなユートピアな発想が出てきたもんである(笑)。

さて、話をもう一度「1984」に戻そう。
皆さんも正直疑問に感じられてると思うんだが、そもそもオセアニアの国家上層部は、なぜ国民たちに「ダブルシンク」を強制してるのか?ということについて。
これはね、全体主義/ファシズムというのは国家を「ひとつの生き物」とするような考え方なんです。
仮に国家上層部が「脳」という器官だとして、物事を思考するのは脳だけで十分でしょ?
手や足や各臓器などは、いちいち自分たちで思考する必要なんてない。
ただ命令に従ってりゃいいのさ。
国民は、個々に「細胞」である。
細胞は、決して物事を考えてはいけない。
たとえば、体内に侵入してきた雑菌を殺すのが仕事の白血球細胞が
「今度来た雑菌、俺の第一印象としてそれほど悪い奴らじゃなさそうな気が・・
よし、今回だけはひとつ大目に見て、見逃してやろうかな?」

と、勝手な自己判断するようになったら、これエラいことになりまっせ?
ヘタすりゃ、これ破傷風でこのまま死ぬかもw
だから細胞は何も自分の頭で考えたりせずに、ただ命令通りにマシーンのごとく黙々と働いてくれてりゃいいんですよ!

・・えっ?
現場(細胞)に対する配慮がない?
オーナー(カラダの所有者)の考え方が「ブラック」すぎる?
いやいや、そうは言われてもねぇ・・。
だけどさ、マジで知恵つけた細胞が団結とか始めて、労働条件「週休二日」を求めてきたらどうするよ?
私、土日だけ赤血球が機能せず、そのまま酸素欠乏で死亡するのとかはマジで勘弁ですよ?

「はたらく細胞」は、我々のカラダとは自由主義や民主主義などではなく、あくまで社会主義、共産主義によって機能してるということを我々に教えてくれてる作品です。
細胞=人民
ということでしょ、ビッグブラザー?

ところで、中国では相変わらず検閲の規制がめちゃくちゃ厳しく、かなりの数の日本アニメが放送を許可されていないというのが現状にも関わらず、
「はたらく細胞」だけ中国共産党お墨付きで、
どうやらあっちの国営放送でバズってるらしいんですよねww


こういうのを聞いて、私は思わず「なるほど!」と納得しちゃいましたw
そうか、やはり共産党お墨付きとなったか・・

まぁ、確かに理想的な左翼国家がここにあるのかもしれん。
とりあえず「はたらく細胞」と「SAC2045」の2作品は、日本からジョージ・オーウェルに向けたアンサーということにしておこうか?


