地下に広がる空間で浮かび上がるアートの切れ味
うねるようなステンレスのパイプをくぐり
地下へと降りる。そこは地下とは思えないほどの光が
差し込む、広大な空間が広がっている。美術館はそれ
自体がアートの気配を持ちながらも、作品の器となる
場所。作品をめぐるということは、それらの持つ記憶
にふれること。時代背景や、社会の構造に、個人の記憶。
また作品は風景をつなぐ装置にもなる。どこかで見た
形や意図するものは、いつかの光景へつながっていく。

地上から降り注ぐ光に包まれるように

美術館への訪問者を迎えてくれる彫刻は、柔らかな曲線の中に

刃物のようなシルエットを合わせ持つナイフ・エッジという

ヘンリー・ムーアの作品。以前に訪れた際も、その鋭利な線を
浮かび上がらせる柔らかなシルエットを見上げた

また国立国際美術館といえば、曲面の壁に浮かぶ大きな人影の
高松次郎の作品に、訪問者の記憶が定着されるように

地下空間で構成された美術館の作品の記憶をたどるように

さらに下へと進む。エスカレーターの横の踊子という作品は

富山の旅でも出会ったマリノ・マリーニによるもの
旅の風景をつなぐように彫刻作品を楽しんでいる

さらに地下へと空間はつながる。吹抜けに面する大きな壁画は

1970年の大阪万博で展示されたもので、時を超えて
今は国立国際美術館の壁面で当時の記憶を伝えている

その前でふわりと宙に浮かぶオブジェは

空間の中でバランスを保つようなカルダーの作品

その軽やかなシルエットの作品は

名古屋市立美術館の前庭でも訪れる人を楽しませている

そのカルダーの作品の後ろのコンクリートの柱に
ぽつりと咲くチューリップは須田悦弘氏によるもので

美術館の仕掛けを楽しみながら、その日訪れたのは

彼女の肖像という展覧会
それは記号化された女性像でなく、個性や歴史を持つ
個人としての彼女の肖像に、現代の作家がどのような
社会や歴史、関係性を託しているかに着目されたもの

女性像が断片へと解体されるWoman with a letterという
切れ味のある作品を手掛けるのは福田美蘭さん。彼女
は岡本太郎の森の掟のチャックを開いた人でもある

《「神々の誕生」神話より》では女性像は解体、逸脱される
それは芥川紗織 が残した作品の記憶をつなぐもの

そして記憶はおぼろげに。登場人物の不在の情景が描かれ

その不在により、実在を問う受胎告知の情景は
磯崎新が手掛けたエンジェルハートの記憶へと

展示される作品に登場する女性像はかつて実在した人物も
アンディ・ウォーホルのマリリン・モンローの物語

側には彼女をイメージして作られた唇の形をしたソファも

壁面には岡本進次郎の空想の世界。ベティー・ブープの国は
作者がかつて見た様々な記憶の断片で構成される

サニー・キムは、母親の記憶を作品に託したり

様々な姿で展開される女性像。壁面にはMotherの文字

荒川修作による肖像No.1では、女性像は母としての記号へ
荒川修作の作品への旅の記憶も振り返る

壁面を飾るテキスタイルのような真鍮の作品の名は道子

レオノール・アントゥネスは女性作家の仕事から着想を得て
山脇道子とシャルロット・ペリアンの

二人の仕事が再解釈された作品が並ぶ
仕事の形としての女性像。アートは記憶をつむぎ

彼女の肖像は、様々な角度から浮き彫りになる

展示室の一角には、乾いた土の頭部という作品

ひび割れた乾いた土に記憶を染み込むようにして

マーク・マンダースによる切り取られた実在と不在の関係性
2021年には東京都現代美術館にて個展も行われた

展示室の作品の記憶の間をぐるりとめぐり
彼女の肖像が切り取る世界を感じて
国立国際美術館の作品が刻む記憶の層にふれた
その日に行われていた展覧会は、彼女の肖像。様々な
女性像をモチーフとした作品の数々。女性像としての
記憶は多様に展開されて、その切れ味はするどく、世界
を構築する多くの視点を与えてくれる。アートは日常
に視点を与え、それはまた旅の風景をも変えていく。
