『月まで3キロ』を読み終えた十五夜の夜
「今日は往復1時間徒歩と
食後に娘と月見散歩して
いつものストレッチ!」
「あ、今日十五夜ですね!」
友達との「運動報告」グループチャットで、今日が十五夜だと教えてもらった。
ちょうど会社を出たところでピコーンとスマホが鳴り、見上げると綺麗な満月。
そして今日、あと2編で、伊予原さんの短編集、『月まで三キロ』を、読み終える。
・月まで三キロ(浜松)
・星六花(東京)
・アンモナイトの探し方(北海道富美別町)
・天王寺ハイエイタス(大阪阿倍野)
・エイリアンの食堂(つくば)
・山を刻む(日光白根山)
・新参者の富士(富士山)
前回読んだ、『藍を継ぐもの』は、ちょうど四国遠征の車の中で読んだ。徳島が出てくる短編があり、あ、この辺りかも、と窓の外を背景に写真を撮った。
そして今日は十五夜で、また、同じことを思い、月に掲げるようにして写真を撮った。
ワンパターンめ…笑
切なく優しい
『藍を継ぐもの』でも感じたことだが、自然が、自然とそうなっているように、人間と人間のすれ違いや、すれ違いによって生じた悲しい出来事も、なんらかの作用によって自然とそうなっていて、それは、どれだけ悲しいことだあったも、どうしようもないことがある。
その、「どうしようもないこと」を受け入れるきっかけのようなことが、自然のことわりのようにして現れる。科学が、受け入れ難い事実を、受け止めやすいように解きほぐしてくれる感じだ。
そんな、どうしようもない切なさが伊予原さんのお話にはあって、それをお話の中の人は、なんとか受け入れるので、泣けてしまう。
『月まで三キロ』は、巧妙なミステリー
ちょうど第九レッスンで姪っ子と待ち合わせた時に、手に持っていた本がこれで、何それ?と言われて見せたところ、
月まで三キロ?
三キロなわけないやん!
と、ツッコミをもらった。
そうやなぁ!でも、実は三キロのところが静岡県にあるねん!不思議やろ?彼女はよく本を読むらしい。まだ少し早いけど、もう2年ぐらいしたら貸してあげよう。よくわからない大人の話を、わかったふりして読むのって、最高に楽しいから。
『星六花』友情ロマンス
これを機に、自由になれるといい。こうでなければ、の呪縛みたいなものから解き放たれて、自然体で、人間として好きだと思える人と楽しい時間を過ごす。男女の仲にならないからこそ、ずっと続く人間関係もあるから、こういうのこそ、ロマンスだなぁと思う。
『アンモナイトの探し方』朋樹くん、強くなってほしい
朋樹くんが陥ってる状況を自分ごととして想像すると胸がキュッとなる。無邪気に目標に向かって努力し続けたいだけなのに、その選択が両親の力関係に大きな影響を及ぼしてしまう。選ぶことなどできないけど、だからといって、諦めるしかないの? 理不尽極まりないことだけど、誰かがなんとかしてくれるわけではない。手を直接差し伸べることなく、ただただ、アンモナイトの探し方を教える(いや、大して教えてもくれないか…笑)戸川さん。
大きなノジュールの石を割った中にアンモナイトが見つかったら、朋樹くんにも、何か吹っ切れるものが見つかってほしい。
『エイリアンの食堂』運命って偶然でしかない
この連作短編集の中でもいちばんロマンチックなのが、これ。もう、食堂に毎晩同じ時間に訪れて、曜日ごとに同じ定食を同じペースで食べて帰る客さん、というだけで興味津々だしミステリアス。
その女性客を、UFOのような飛行物体と交信をする宇宙人(プレアデス星のプレアさん)だと思い込み、お父さんが制するも好奇心に負けてこらえきれずに話しかけてしまう鈴花ちゃん。
3人がどうやって距離を縮めていくのか、の話しかと思いきや、プレアさんも、そしてこの父娘も、ほんとうにいろいろなことがあって、の筑波という地に流れ着いている。食堂を開いたのも、安価な食堂の割には食材にも味にもこだわる魚料理を採算度外視で出してることも、亡くなった奥さんと立てた計画をまっとうしたいという気持ち。
面白いのは、もっともお得感のある「日替わり定食」を、プレアさんが頼んでこなかった理由。ある副菜が理由だったのだが、それぐらい、融通効かせられるのに、というお父さんだが、毎日頼むものが日替わりだったら、ここまで強い印象は残らなかったかも。
なんでもかんでも、言えば良いというものではないな。
そんな小さな偶然の寄せ集めで、最後は3人で夜空を眺めて笑っている。ここからどうなるのかは書かれていないが、最高にロマンチックな終わり方だった。
「みなまで言うな」おっちゃん『天王寺ハイエイタス』
『天王寺ハイエイタス』は、大阪が舞台で、いかにも、な大阪のおっちゃんが出てくることもあり、特に面白くて、切なくて、優しかった。
関西の人はわかると思うけど、まさに、「みなまで言うな」の、誤解されてるけどいい人のおっちゃんがでてくる。ややこしーわー!という愛され方をするおっちゃん(でも、本気でややこしい)。身の回りにも、なんなら身内に近いところにも、居る!笑
『山を刻む』これは騙された!
火山学者の教授と大学院生のコンビ、言いたい放題でめちゃくちゃ良い。こんな関係性、今では本当に難しいだろう。パワハラセクハラアカハラしてくる相手に向かって、「それアカハラ!」とは言えないものね。
『山を刻む』には、この短編集の中でいちばん騙された。あぁ、よくある、専業主婦の女性が、自分の働きを尊重してくれない家族への不満を持ち、若い時の趣味で登山を再開したところ、素敵な男性に出会い、何もかも捨てて男の元に向かう話だな…。
伊予原さんが、そんな一筋縄で行くわけないのに、そうとしか思えない方へとグイグイ話が進んでいく。
ところが!
終わってみれば、山の良さを改めて感じる爽やかな、とは言え、決してうまくいく保証のない結末だった。さすがです。
『新参者の富士』この人は好きなのだ、富士山が。
文庫化にあたり書き加えた短い話しながら、だいたいの人が見惚れる富士山を相手に、嫌いだ、と言い放つ主人公が面白い。
日本一の称号は間違いがない。世界一ではないが、この国ではいちばんなのだ。その威厳のようなものが、自分の弱いところに向かって威嚇してくるように感じるのが嫌だと言う。
面白い。
こう富士山を捉えてる時点で、この人は日本一の山に張り合ってるのだから。
そして、ふとした知識を得たことで、自分と富士山の「弱み」の共通点を見出し、富士山に優しくなり、それが前に進むきっかけになる(そこまで書いてないが、きっとなったと思う)。
リスペクトってなんやろう、と考える。
尊重して遠慮して、思ったことを言わないことではないはず。言えば相手が傷つくと思って、それらしい顔をしてやり過ごすということは、相手を低く見ていること。
伊予原さんの小説のように、誰かに向き合う時、自然のものに向き合うように、なんの忖度もなく振る舞い、自然のままに返され、そりゃそうだ、と納得したい。シンプルに振る舞いたいなぁ。
