『藍を継ぐ海』科学で紡いだ継承の連作短編集
徳島との二拠点生活を楽しむ友人が、『面白かったです』と書いていたので、『藍』のつくタイトルから、徳島を舞台としたお話しかな?と買って読み始めたところ、短編集だったので、徳島以外のお話しも含まれていた。
ひとつめの作品設定がとても面白く、このまま長編で読みたかったなぁと、しばらく途中で止まってしまっていたのだが、三編目を読んだところで、それぞれの短編が、科学と継承、二つのことでつながる連作だということに気づき、深く感動した。とても面白い連作短編集でした。
1作目『夢化けの島』(山口県萩市見島)
地政学者の女性と、祖父に萩焼の名人と言われた人を持つ男性の話。焼き物に使う「土」を、地質学や化学的なアプローチで、残されていない記録を解き明かしていく物語。嫌になって飛び出した道を、祖先がどのように残していこうとしたのかを知るうちに、もう一度辿ろうとする。
2作目『狼犬ダイアリー』(奈良県東吉野村)
絶滅したとされるニホンオオカミだが、その血を継いできた存在が徐々に表れてくる。新しい環境に馴染めずに途絶えたのか、それとも、実は生き残る工夫の上での選択だったのか。謎を解いていく、都会から流れてきた人見知りの女性に声をかけ続ける小学生男子が、恩返しの犬のようで愛おしい。
3作目『祈りの破片」(長崎県長与町)
夜中に青白く光る空き家を気味悪く思った老人たちに呼び出された、野心も向上心もない、惰性で働く市職員が、家を調べるうちに『自分がここに呼ばれた意味』を見出していく物語。80年も前の、無名の1人の行動の記録が、現代の人の生き方を変えていくことに、不思議さと同時に人の世のことわりを覚える。
4作目『星隕つ駅逓』(北海道遠軽町白滝野知内)
落ちてきた隕石は、発見した町の名が、しかも管轄区の郵便局の名前がつけられる。人口減から統廃合を余儀なくされた郵便局長を勤めた、老いた父を思う娘が、ついてしまった嘘。父と娘の物語ながら、2人と一定の距離を置く(義理の息子であり、夫婦も、元は他人だ)、娘の夫であり、父の後輩の郵便局員にしたところが、ウェットになりすぎず良いと思った。
5作目『藍を継ぐ海』(徳島県)
産卵に帰浜するウミガメにまつわる物語。中学生の女の子は、姫ケ浦のウミガメを自分で孵そうと、規則を破ってしまう。その行動の背景にあるのは、幼い頃の悲しい記憶だ。しかしその執着から自由になり、心を軽くしてくれたのも、またウミガメの健気な行動だった。
5つの作品に共通するもの
後を継ぐ、という言葉からは、古臭く、強制的な、逃れられないニュアンスを感じる。この家に生まれたからには、この名を継いでいく運命からは逃れられない、といった感じだ。けれど、この5作品に共通する『継ぐ』には、そうした血縁やしがらみのようなものはなく、自然まかせに途絶えたままになっていたものが、何年もの隔たりを経て、関係のない誰かによって、また現代に蘇ってきたりしている。
まるで、継がれるべきものは、継ぐべき人によって、継がれる時に継がれていくのだ、と言わんばかりだ。
人間が、人間の思いつく程度の仕組みで継いでいけるものの範囲など、知れているのかもしれない。
どのストーリーも化学的アプローチによって物語を解き明かしていくプロセスが楽しむことができる工夫が施されていて本当に面白いが、化学とは、人間が作り出したものではなく、自然界の法則を、人間が理解できるように解き明かしているに過ぎない、ということを思い知らされた。人間が滅んでもウミガメは生きてるし。オオカミも(血を変えながら)生きているのだと思う。
#2025年の100冊 028/100
