道⑦
結局この死の病は何年も続いた。ひどい日が続くときもあれば、嘘みたいに何もない日もあったりした。でも、解決策も編み出していた。酒だ。
とにかく毎晩酒を飲んだ。深く酔っているときは発作が出なかったのだ。毎晩酔い潰れて意識を失うまで飲んだ。
ほぼ毎日二日酔いの状態だった。生活は滅茶苦茶になった。
彼女はというと、まったく関心がないようだった。「病院でも行ったら?」くらいしか言わなかった。少しは心配しろとも思ったが、確かに心配されてどうにかなるもんでもない。
ある日、ピタリとウチに来なくなった。今の自分の生活を考えると、こっちから連絡するのも躊躇った。彼女は姿を消した。
さらに生活は荒れた。毎晩夜の街に飲みに出かけた。元々一人でそんな所に行ける人間ではないが、酒の力は絶大だ。新しい仲間。事件。チンピラ。米兵。オカマ。船。ボールペン。
一つ面白い話がある。
ふらりとタトゥー屋さんに入った。ソファに座ってデザインのカタログのような物を見る。
どれでもよかった。どうにかなってしまいたかった。「これください」八百屋で大根を買うみたいに、カタログを指差した。タトゥー屋さんが言った。
「このデザインの意味分かってる?一生背負う覚悟ある?よく考えてまた来なさい」
その時は、うるせえなあ。と思ったが、今は本当に感謝している。タトゥーを入れずに済んだ。私が選んだ絵は、裸の女性の絵だった。危なかった。助かった。ありがとうタトゥー屋さん。
しばらくしたある日、家に帰ると彼女がいた。
一年、いやもっと経っていたかもしれない。彼女は中絶したと言った。頭が真っ白になった。私との子供ではなかった。怒りとか悲しみではなかった。ただ呼吸だけがいつまでも荒かった。
自分の中で、一つ踏ん切りがついた。
この人を幸せにするために生きていきたいと思った。もう、充分だった。
その頃、あの芸人さんがテレビでパニック障害のことを言っていた。「これだ!」と思った。未知の病でも死の病でもなんでもなかった。ただ、心が限界だっただけだったのだ。不思議なもので、病名を知り、死の恐怖が去っていくと、次第に発作は治っていった。
心というのは、よく分からないものだ。
16歳で母親に家を建てるために大工になった。そこから逃げ出してホームレスになった男が、落ち武者に誘われて路上ミュージシャンになった。詐欺師のような活動が始まり、将来の妻と出会った。落ち武者は去り、孤独の中、ヤの者が現れた。なぜか手にしたお金でアパートを借りてホームレスを脱した。素敵な死体が生き返って合鍵を渡したら、死の病に侵された。全ての経験を飲み込んで、病は消えた。
