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自身と相手 双方を大切にしながら自己表現する「アサーション」 #68

組織とは、単に人が集まった集合体ではありません。
社会の中で、社会やコミュニティ、そして個人が持つニーズを満たすために存在する機関です。

企業であれば、その目的は顧客のニーズを満たし、新たな価値を提供することで、顧客を創造していくことにあります。

その目的を実現するためには、組織を構成する部署や個人が、それぞれ異なる役割や機能を持ちながら、互いに支え合う関係性を築くことが必要です。

つまり、組織とは「共依存によって成り立つ仕組み」であり、その基盤となるものがコミュニケーションなのです。

■ なぜ今、アサーションが必要なのか

かつての組織では、上位者が判断し、下位者がそれを実行するという一方向型のコミュニケーションでも一定の成果を出すことができました。

しかし現在、組織を取り巻く環境は大きく変化しています。
働く人の価値観は多様化し、経験や専門性、世代、働き方が異なる人材が同じ組織で協働しています。

そのような環境では、一人の正解だけで物事を進めることは困難です。
それぞれの立場から意見を出し合い、違いを認めながら、より良い答えを共につくっていくコミュニケーションが求められています。

そこで重要になる考え方が「アサーション」です。

■ コミュニケーションとは、情報ではなく「理解」を伝えること

コミュニケーションとは、単に情報を伝達することではありません。
社会学的には、社会組織の中で人間同士が行う知覚・感情・思考の伝達を意味します。
また心理学的には、自分自身との対話もコミュニケーションの一つと考えられています。

つまり、優れたコミュニケーションとは、人から人へ単に言葉が届くことではなく、考えや感情、意図まで正しく理解されることです。

しかし、組織の中では、必ずしも正しい意見や優れた主張が、そのまま認められるとは限りません。

なぜなら、人は内容だけではなく、「誰が言ったのか」「どのような関係性があるのか」という信頼も含めて判断するからです。

自分の考えを理解してもらうためには、まず相手との信頼関係(ラポール)を築く必要があります。

そして、その信頼関係は、日々の立ち振る舞いや言葉遣い、相手への向き合い方によって形成されます。

■ 採用もまた、信頼関係づくりから始まる

この考え方は、入社後の組織内コミュニケーションだけではなく、採用活動にも同じことが言えます。

かつての採用は、「企業が候補者を選ぶ場」という側面が強くありました。
しかし現在は、企業だけでなく候補者もまた会社を選ぶ時代です。

採用とは、一方的に人材を見極める場ではなく、お互いの価値観や考え方を確認し、共に働く可能性を確かめる場なのです。
候補者が見ているのは、給与や待遇だけではありません。
・ どのような仕事を任されるのか
・ 何を基準に評価されるのか
・ どのような人たちと働くのか
・ 入社後にどのような成長ができるのか
こうした要素を通じて、「この会社で働く理由」を探しています。

だからこそ、選ばれる会社は条件だけを伝えるのではなく、「なぜ、この会社で働くのか」「どのような未来を共につくりたいのか」を、自分たちの言葉で伝えることが大切です。

候補者だった頃の私は、企業が一方的に候補者を選ぶ採用面接に違和感を持っていませんでした。
しかし今振り返ると、採用とは本来、双方がお互いを理解し、相性を確かめる場であるべきだと感じます。
そのためにも、良い面だけを伝えるのではなく、課題や改善すべき部分も含めて自社の実態を正直に伝えることが重要です。
その上で「この会社で働きたい」と思っていただけるよう、企業として実現したい想いや目指す姿を誠実に伝える。
そこから、本当の信頼関係が始まるのだと思います。

■ 自分も相手も尊重する「アサーション」

アサーション(assertion)とは、自分の考えや気持ちを適切に表現しながら、同時に相手の考えや気持ちも尊重するコミュニケーションスキルです。
直訳すると「断言」「主張」という意味になります。

しかし、アサーションは決して、自分の意見を押し通すことではありません。
また、相手を傷つけないために自分の意見を我慢することでもありません。

大切なのは、「自分を大切にすること」と「相手を大切にすること」を両立させることです。

アサーションには、大きく3つのタイプがあります。

⚫︎ ノン・アサーティブタイプ(消極型・非主張型)
相手の意見を優先し、自分の考えを後回しにするタイプです。
相手との衝突を避けようとするあまり、自分の意見を伝えることを躊躇してしまいます。
一見すると協調性があるように見えますが、長期的には、「なぜ自分のことを理解してもらえないのか」という不満やストレスを抱えることになります。

⚫︎ アグレッシブタイプ(攻撃型・主張型)
自分の意見を優先し、相手に押し付けてしまうタイプです。
自信があるように見える一方で、相手の意見を受け止める余裕がなくなり、周囲にストレスを与えてしまいます。
「自分が正しい」という思いが強くなるほど、対話は難しくなります。

⚫︎ アサーティブタイプ(バランス型)
自分の意見を正直に表現しながら、相手の意見も尊重するタイプです。
意見が違うことを前提として、対話を通じてより良い結論を探します。
対立を避けるのではなく、健全な議論によって組織を前進させるタイプと言えます。

■ 意見の違いは問題ではない

良好なコミュニケーションとは、意見の違いがなくなることではありません。
むしろ、異なる意見を安心して出し合える状態こそ、健全な組織と言えます。

問題なのは対立そのものではなく、「対立を恐れて本音を言えないこと」です。
異なる視点があるからこそ、個人では気付けなかった新しい答えにたどり着くことができます。
強い組織をつくるにはお互いに妥協のない関係が必要となって来ます。

■ インサイド・アウトという考え方

アサーションの考え方は、「インサイド・アウト」と「アウトサイド・イン」にも通じます。

インサイド・アウトとは、「相手や組織、環境を変えたいのであれば、まず自分自身が変わる」という考え方です。

一方、アウトサイド・インとは、「自分は正しい。問題は相手や組織、環境にある」という考え方になります。

人間関係がうまくいかない時、人は問題の原因を相手に求めがちです。
しかし、自分自身に変化の起点を置くことで、見える景色は変わります。

■ 自分のコミュニケーションタイプを知る

まずは、自分自身の傾向を理解することが大切です。
次の質問に対して、YesかNoで回答してみてください。

A項目
① 自分自身に、あまり自信がない。
② 相手と意見が違っても、発言するのが苦手。
③ 意見を求められたり、指摘をされると黙ってしまうことがある。
④自分より立場の上の人に対して委縮しがちである。
⑤ 自分から率先して動くより、誰かに合わせて行動するところがある。
⑥ つい自分の考えより相手の考えを優先しがちである。
⑦ 相手に反論されると言い返せなくなる。

B項目
① 人前で弱みを知られたくないと思う。
② 他人の間違いを指摘することがよくある。
③ 自分の思い通りにならないと感情的になることがある。
④ 他人に助けてもらうことは、あまり好きではない。
⑤ 実力以上に強がって見せることがある。
⑥ 安心して人に任せることが難しいと感じる
⑦ 正しいと思ったら、自分の主張を通す。

結果、A項目でYesが多かった方はノン・アサーティブタイプの傾向、B項目でYesが多かった人はアグレッシブタイプの傾向が高いと思われます。
また、A項目とB項目の双方でYesの少ない方は、アサーティブタイプの傾向が高いと思われます。

診断結果は、自分を評価するためのものではありません。
大切なのは、自分自身の傾向を知り、より良いコミュニケーションにつなげることです。

■ ポジション・チェンジで視点を変える

アサーションを高める方法として、「ポジション・チェンジ」という考え方があります。

これは、
 ・ 自分の立場
 ・ 相手の立場
   ・ 第三者の立場
という異なる視点から物事を見る方法です。

自分の主張を相手の立場から見た場合、どのように感じるのかてんす。
第三者が双方の意見を聞いた場合、どのように判断するのかです。
視点を変えることで、今まで見えていなかった考えに気付くことがあります。

■ 組織を変えるのは、一人ひとりの姿勢である

ただし、アサーションの向上は個人の努力だけでは実現できません。
特に管理職には、メンバーが安心して意見を言える環境をつくる役割があります。

意見を言ったことで否定されたり、不利益を受けたりする組織では、誰も本音を語ることができません。

組織全体として、
* 相手を尊重しながら意見を伝える
* 違いを否定せず対話する
* より良い答えを共につくる
という文化を育てていくことが必要です。

組織を強くするのは、声の大きさでも、正しさの押し付けでもありません。
互いを尊重しながら、本音で対話できる関係性です。
その土台となるものが、アサーションなのです。

まずは今日、一人の相手の立場に立って考えてみる。
一度飲み込んだ意見を、適切な形で伝えてみる。
相手の考えを否定する前に、その背景を聞いてみる。
小さな変化の積み重ねが、やがて組織の文化を変えていくのだと思います。

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