顧客感度を高める企業だけが、変化の時代を生き残る #201
時代によって経営環境とは大きく変化します。
かつて日本は、高度経済成長期という大きな成長の時代を経験しました。
当時は、社会全体でモノが不足していたため、「作れば売れる」という時代でした。
その後、日本の製造業は世界から高い評価を受けるようになります。
高い技術力と品質によって、「良いモノを作れば売れる」という時代へと移り変わりました。
しかし、現在の環境は、更に大きく変化しています。
どれほど優れた技術や品質を持っていても、それだけでは顧客から選ばれ続けることは難しくなっています。
なぜなら、現代の競争において重要なのは「何を作れるか」だけではなく、「顧客が本当に求めているものを理解できているか」だからです。
現代の経営環境は、1990年代頃から軍事用語として使われていた「VUCA(ブーカ)」という言葉で表現されることがあります。
VUCAとは、
* Volatility(変動性)
* Uncertainty(不確実性)
* Complexity(複雑性)
* Ambiguity(曖昧性)
の頭文字を取ったものです。
変化が激しく、将来予測が困難な時代において、過去の成功体験や既存の常識だけに頼る経営は限界を迎えています。
だからこそ、企業に必要になるのが「顧客を理解する力」です。
■ マーケティングとは顧客を理解する活動
顧客理解を深めるために重要になる考え方がCRMです。
CRMとは、Customer Relationship Managementの略で、日本語では「顧客関係管理」と訳されます。
CRMは単なる顧客情報の管理システムではありません。
顧客情報を一元的に管理し、企業と顧客との関係性を可視化することで、より良い関係を築いていくための考え方です。
重要なのは、顧客との関係を維持することだけではありません。
顧客を理解し、その期待を超える価値を提供することで、関係性をさらに強化していくことです。
その結果として、顧客満足度の向上や新たな需要の創出につながります。
CRMを効果的に活用するためには、マーケティングとの連携が欠かせません。
しかし、日本ではマーケティングを「市場調査のこと」「広告活動のこと」「営業活動のこと」と限定的に捉えられることがあります。
本来、マーケティングとは、顧客を理解し、
その価値を届けるための幅広い活動です。
マーケティングは、
「顧客のニーズ(needs:必要性)を把握し、そのウォンツ(wants:欲求)を満たすこと」
と表現されることがあります。
しかし、ここで重要なのは、顧客が語る要望だけを見ることではありません。
顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを発見することです。
顧客の「欲しい」という言葉の背景には、「なぜ欲しいのか」「何を解決したいのか」という本質的な課題が隠れています。
だからこそ、表面的な声だけではなく、その背景まで理解することが必要になります。
■ 顧客感度とは何か
ここで重要になるのが「顧客感度」という考え方です。
顧客満足度とは、提供した商品やサービスに対して、顧客がどのように感じたかという結果です。
一方、顧客感度とは、顧客自身もまだ明確に言葉にできていない変化や課題を察知する力です。
つまり、顧客満足度は結果であり、顧客感度はその結果を生み出すための能力と言えます。
顧客感度の高い企業は、顧客の発言だけではなく、その表情、行動、環境の変化から、本当に必要としているものを読み取ります。
ここでいう顧客は、必ずしも企業の商品やサービスを購入する外部のお客様だけではありません。
例えば、社内で自分の考えを実現したい場合、その承認者もまた「顧客」と捉えることができます。
相手が何を求めているのかを理解し、その期待に応える。
これは、あらゆるビジネス活動に共通するマーケティング的な考え方です。
だからこそ、顧客感度を高めることは、営業部門だけではなく、企業全体に必要な能力なのです。

■ デジタル時代だからこそ、人との接点が価値になる
デジタル化の進展によって、特にBtoCビジネスでは、SNSなどを活用したマーケティングが当たり前の時代になりました。
これは、資金力に限りがある中小企業にとって、大きな可能性をもたらしました。
従来であれば多額の広告費を必要としていた情報発信を、低コストで実現できるようになったからです。
しかし、その一方で、新たな課題も生まれています。
それは、情報量が増えすぎたことで、自社の発信が多くの情報の中に埋もれてしまうことです。
誰もが同じようにSNSを活用する時代では、単純に情報を発信するだけでは差別化が難しくなっています。
だからこそ、これからのマーケティングでは、デジタルだけに頼るのではなく、人との接点から得られる情報の価値が改めて重要になるのではないでしょうか。
データから見える全体像と、現場で感じ取る小さな変化。
その両方を組み合わせることによって、本当の顧客理解につながります。

■ 顧客感度を高めるには量が必要
顧客感度を高めるためには、顧客との接点における「密度」「頻度」「速度」を高める必要があります。
ネット通販の普及によって購買行動は大きく変化しました。
今後もオンラインでの取引はさらに拡大していくでしょう。
しかし、顧客の本質的なニーズを理解するという意味では、パーソナルアプローチ、つまり人的営業の価値は決して失われません。
よく「量より質が重要」と言われます。
もちろん最終的には質が重要です。
しかし、質を生み出すためには、まず量が必要です。
多くの顧客と接し、多くの情報に触れることで、初めて小さな変化や重要な兆候に気づくことができます。
量とは、単なる行動量ではありません。
有益な情報を受け取るためのアンテナを広げる行為です。
ただし、重要なのは単純な量ではありません。
接点を増やし、得られた情報から仮説を立て、検証を繰り返すことです。
その積み重ねによって、行動の質が高まっていきます。
量あっての質なのです。
■ 情報を得ても気づかなければ意味がない
しかし、接点を増やしただけで成果につながるわけではありません。
同じ場所で同じ話を聞いていても、そこから多くの気づきを得る人もいれば、何も感じ取れない人もいます。
営業同行をしていると、顧客との会話の中に多くのヒントがあるにもかかわらず、それに気づけないケースがあります。
これは、情報が不足しているからではありません。
「何を捉えるべきなのか」という焦点が定まっていないからです。
心理学には「カクテルパーティー効果」という考え方があります。
これは、周囲が騒がしい環境でも、自分の名前や関心のある人の声などを自然に聞き分けられる現象です。
1953年、心理学者コリン・チェリーによって提唱されました。
人間の脳は、すべての情報を均等に処理しているわけではありません。
自分にとって重要だと認識した情報に焦点を当て、必要な情報を選択しています。
これを「焦点化の原則」と表現することもあります。
つまり、「顧客のニーズを理解する」という目的に意識を向けていれば、日々の会話や行動の中から、それに関係する情報を拾えるようになります。
これは、想像力を高める上で不可欠なセレンディピティと言う思考にもつながります。
■ 空白=課題を埋めようとする脳の働き
一方で、人間の脳は同時に多くのことへ焦点を当てることはできません。
だからこそ、目的を具体的に設定することが重要になります。
例えば、「顧客の課題を見つける」ではなく、
「3か月以内に既存顧客10社から新たな課題を発見する」
というように、期限や目標を明確にすることです。
目的が明確になることで、脳は無意識に関連する情報を探し始めます。
課題という「空白」を認識すると、それを埋めようとする心理が働きます。
これを「空白の原則」と呼ぶことがあります。
デジタル化によって、誰もが同じような情報発信ができる時代になりました。
だからこそ、強い差別化とは、常識を疑うことから始まります。
「みんながやっていること」を追いかけるのではなく、「あえてやらないこと」に価値を見出す。
それは、顧客との関係性を深く見つめ直すことでもあります。

■ 顧客感度の高い企業を目指して
顧客感度の高い企業とは、単に大量の情報を集める企業ではありません。
大量の行動によって得た情報の中から、本当に重要なものへ焦点を当て、顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを発見し、それに応えられる企業です。
では、自社は本当に顧客の変化を感じ取れているでしょうか。
顧客が口にした要望だけではなく、その背景にある想いや課題まで理解できているでしょうか。
変化の激しい時代だからこそ、企業に問われているのは「売る力」だけではありません。
「気づく力」です。
顧客を理解し続ける企業こそ、これからの時代に選ばれ続ける企業になるのではないでしょうか。
私自身も、顧客感度の高い企業を目指していきたいと思います。
■ 同じ情報でも「気づく人」と「気づかない人」がいる
実際の現場では、
• 同じ顧客に会っているのに何も得られない人
• 多くのヒントを拾える人
がはっきり分かれます。
極端な話ですが、
商談中に居眠りしてしまう新人もいます。
なぜこんな差が生まれるのか。
■ ニーズを掴むために必要な「焦点」
心理学に「カクテルパーティー効果」というものがあります。
騒がしい中でも、自分の名前だけは聞き取れる現象です。
これはつまり、
人は「関心のある情報」しか認識できない
ということです。
言い換えれば、
焦点が当たっていない情報は、存在していないのと同じ
顧客のニーズを掴みたいのであれば、
そこに明確に焦点を当てる必要があります。
ただし、人間の脳は同時に多くのことに集中できません。
だからこそ重要なのが、
• 期限
• ノルマ
• 明確な目的
です。
これらを設定することで、
脳は自動的に関連情報を拾い始めます。

但し、脳は、一度にたくさんの物事に焦点を当てることができません。
つまり、ニーズを掴みたいのであれば、そこに焦点を当て易いように「期限とノルマ」を具体的に設定をすることが大切になってきます。
また、目的である顧客のニーズ(需要)に焦点が当てることで、潜在的ニーズも見えてきます。
それも具体的にです。
すると脳は、無意識のうちに、その顧客の潜在的なニーズを埋めたいという心理的な欲求が働き、能動的に行動するようになります。
この様に焦点が当たることで、顕在化した課題を空白と呼び、それを埋めようとすることを脳の「空白の原則」と言います。

顧客感度のいい会社とは、アンテナを張り巡らせるような大量行動から得た大量の情報の中から、ニーズに焦点を当て、潜在的ニーズを掴み、応えられる会社なのかと思います。
そして、そのような顧客感度のいい会社を目指したいと思います。
