組織を持続的に機能させる “ボトムアップ力” #179
人は、一人で成し遂げられることに限界があります。
だからこそ、私たちは同じ目的を持つ人たちと組織をつくります。
しかし、人数が増えれば、組織は強くなるものではありません。
10人が集まっても、それぞれが一人分の力しか発揮できないなら、10人の「集合体」に過ぎません。
組織の本当の価値は、個人の力の総和を超える力を生み出すことにあります。
その力はどこから生まれるのかです。
私は、その源泉の一つが「ボトムアップ力」であると考えています。
■組織が停滞してしまう原因
従来型のヒエラルキー組織では、トップダウンに偏りすぎることで、組織が停滞することがあります。
トップが決める。
現場が従う。
この構造には、もちろん強みがあります。
意思決定が速く、組織としての統一性も保ちやすい。
緊急時や、明確な答えが必要な場面では、とても有効です。
一方で、トップダウンが過度になると、現場の主体性が弱くなる、指示待ちの文化が生まれる、現場の気づきや改善提案が上がってこない、経営と現場の距離が広がるといった問題が起こります。
組織は「管理」されている。
しかし、自ら考え、学び、変化することができない。
これでは、環境が変わったときに組織そのものが適応できません。
■ 混乱を乗り越えることが第一歩
チーム形成のプロセスを説明するモデルとして、タックマンモデルがあります。
一般的には、
1. 形成期
2. 混乱期
3. 統一期
4. 機能期
という段階で説明されます。
組織づくりでは、「混乱期」をどう乗り越えるかが第一歩です。
価値観がぶつかる、意見が衝突する。これまでのやり方に疑問が出てくるなど、当然、摩擦も起こります。
ここでトップが強く統制すれば、表面的な秩序を取り戻すことはできます。
しかし、それでは「従う組織」にはなっても、「自ら動く組織」にはなりません。
混乱をなくすのではなく、対話し、試行錯誤しながら、共通の価値観や判断基準をつくっていく。
その先にあるのが、組織が自律的に機能する状態です。

■ティール組織が投げかけた問い
2014年、フレデリック・ラルー氏は著書『Reinventing Organizations』で、組織の進化について論じました。
その中で注目を集めたのが、「ティール組織」という考え方です。
ティール組織の特徴として、ラルー氏は大きく3つを挙げています。
● セルフマネジメント(自主経営)
● ホールネス(全体性)
● エボリューショナリー・パーパス(存在目的)
なかでも重要なのが、セルフマネジメントです。
意思決定をすべて経営層に集中させるのではなく、現場に意思決定を委ねる。
つまり、「上から指示する組織」から「現場が考えて動く組織」へ変えることです。
これは、ボトムアップ力を考えるうえで重要な示唆を与えてくれます。
ただし、ここで注意したいことがあります。
すべての組織が、そのままティール組織を目指せばよいわけではありません。
例えば、長い歴史を持つ企業には、既存の制度、評価体系、管理構造、組織文化、これまで積み重ねてきた成功体験などがあります。
これらを一気に変えることは、現実的ではありません。
だからこそ重要なのは、「ティールになること」そのものを目的にしてはならないということです。
あくまでも、ティール的な考え方から何を取り入れるかなのだと捉えています。

■ボトムアップとは「任せること」ではない
ここは、特に誤解してはいけないところです。
「ボトムアップ=現場に丸投げすること」ではありません。
「自由にやっていいよ」と言うだけでは、自律ではなく放任になってしまいます。
本当のボトムアップとは、現場が考える、意見を出す、意思決定に関わる、実行する、結果を振り返る、そして、この過程から学び、また改善する。
この循環が回っている状態です。
そのためには、現場に「何を目指すのか」が見えていなければなりません。
経営が理念や方向性を示し、その方向性を実現するための具体的な方法は、現場が考える。
そして、現場の知恵を組織全体で共有し、次の意思決定につなげる。
ここに、トップダウンとボトムアップの接点があります。
■ 方向性はトップダウン・推進力はボトムアップ
組織づくりを考えるうえで、この言葉が一つの答えになるのではないかと捉えています。
方向性はトップダウン。
推進力はボトムアップ。
トップが担う役割は、なくなりません。
むしろ、より重要になります。
トップが担うべきなのは、
● 組織の存在意義を明確にする
● 経営理念を示す
● 判断の軸をつくる
● 目指す未来を明確にする
● 最終的な責任を引き受ける
ことです。
そのうえで、現場を信頼して任せる。
「何を目指すのか」は明確にする。
「どう実現するのか」は現場の知恵に委ねる。
この境界線を設計することが、経営の重要なマネジメントとなります。
■トップの役割は「支配」から「設計」へ
ボトムアップを機能させるために、トップの役割は小さくなりません。
むしろ、難しくなります。
トップダウン経営では、「自分が決める」ことがリーダーの中心的な役割になりがちです。
しかし、自律型の組織では、「自分が決めなくても、組織が適切に判断できる状態をつくる」ことが求められます。
つまり、トップの仕事は「支配」ではなく、「設計」へと変わっていくべきです。
● 理念を示す。
● 方向性を示す。
● 判断軸を示す。
● 必要な資源を提供する。
● 失敗したときには、最終責任を引き受ける。
その上で、現場を信頼して任せることです。
これは、トップが何もしないこととは正反対であるはずです。
■「強い組織」ではなく「進化できる組織」
これからの時代、環境変化はさらに速くなります。
経営層がすべての変化を把握し、すべての答えを出すことは難しくなっていくと考えます。
現場が感じる小さな違和感。
顧客との接点から生まれる気づき。
日々の仕事の中で見つかる改善の可能性。
そうした情報は、経営層よりも現場のほうが早くつかんでいることがあります。
だからこそ、現場の声が上に届く組織。現場が自ら考えて動ける組織。
そして、その知恵が組織全体に還元される組織。が重要となります。
ティール組織は、一つの理想形かもしれません。
しかし、すべてをティールにする必要はないと考えます。
大切なのは、一人ひとりが「自分もこの組織をつくっている」という当事者意識を持てることです。
組織づくりとは、人を管理することではありません。
人の力を信じ、その力が循環する構造を設計すること。
トップが方向を示す。
現場が知恵を出す。
組織がそれを受け止める。
そして、また次の挑戦につなげる。
方向性はトップダウン。
推進力はボトムアップ。
この循環が回り始めたとき、組織は「管理される集団」から「自ら進化する組織」へと変わっていくのだと思います。
