『変態病院』episode4 形を変えても塩である。《創作大賞2025#お仕事小説部門》
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episode4 形を変えても塩である。
ことなきを得た話である。
私の勤めている病院では、夜勤業務の安全性を考え、2時間の仮眠時間を設けている。仕事中は、仮眠のことばかり考える。私は、寝るためにイマ、走り回っているのだ。
閉所恐怖症の私は、仮眠室ではなく、鏡張りの広々とした、リハビリ室のプラットホームマットでこの時間を過ごしている。
大音量のアラームをつけても良し、寝言、いびき、歯ぎしりも大歓迎だ。心広きリハ室よ。
『睡眠は人生の喜びである。』
―モスキート エリ『夜勤者の枕草子』より
私は1番柔らかく、寝心地のいいクッションにカバーをかけ、寝る体勢に入った。瞼は時に、ふわふわの羽毛である。疲弊した眼球をそっと抱きしめてくれる。眠りの深部に足をつけた頃だった。
ざわざわ…コソコソ…
遠くで、複数人の話し声がした。
リハビリ室は道路に面している為、通行人の話し声がまれに聞こえてくることがある。
騒がしいな。そう思いながらも、睡魔は押し寄せ、寝返りをうつ。
耳の鼓膜がぼぉーっと響いた。
低い男の声がした。
近いようで、遠くて、声の発信元がわからない。
何を言っているのだろう。
ずっと何かぶつぶつと、誰かが何かを言っている。
嫌な感覚がした。
知りたくない。
思いとは反して、耳は澄んでいた。
だだ、何を言っているのかわからない。
妙に低く、言葉数が多く聞き取れない。
お経…?
私は飛び起きた。
お経はまだ、聞こえている。
オバケだ
怖すぎる…。
とどまる or 逃げる
この2択の中で、揺れていた。
ただ、すごく冷静な自分もいた。
この仮眠時間2時間を捨てたらどういう結果になるか。すでに仮眠室も満室になっている。私の眠る場所は今や、このプラットホームマットしかないのだ。
寝た方が良い。
ここを離れても、私に寝る場所などないのだ。
こんな時どうする。
差し迫った危機である。
そうだ、オバケにはお経だ。
でも、お経を唱えてるオバケには意味があるのか?
あ……。
塩だ。
オバケには、塩だ…!
カバンを漁ってみた。
夜勤中に食べようと思った赤飯のおにぎりが、コロンと顔を出した。
赤飯には、ごま塩がかかっている。
これだ。
私はお経が聞こえる中、
両手で赤飯を握りしめて眠ることにした。
私は、夢の底に引きずられていく。
誰かが、ここにいる。
複数人、この部屋に…。
2時間後。
わんわん
わんわん…
犬のアラーム音で目が覚めた。
お経は聞こえなくなっていた。胸の上で私は赤飯をしっかりと握りしめていた。
私は、図太いのかもしれない。
結局、めっちゃ…寝た。
形を変えても、塩は、塩である。
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