『変態病院』episode3 ぶっ放す、をやめられない。【創作大賞2025#お仕事小説部門】
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episode3 ぶっ放す、をやめられない。
日本語について考える。
その場に合った言葉が適切に使えないことはないだろうか。
先日若い男の子が、敬語について指導を受けている場面に遭遇した。悲しそうな顔をしている。
「どうした?」と聞くと、彼はどうやら、患者様に「おいで」と、遠くから、呼んだそうだ。
上司からは、「おいで」ではなく、目上の人には敬語を使えとお説教を受けたそうな。彼の言い分を聞いてみる。
「『おいで』は、『来る』の尊敬語です。相手を敬う気持ちを捨てた覚えはありません。ただ、うっかり出ちゃうんです」
きっと、ニュアンスの問題なのだろう。
彼の話し方は、優しく、息子のような可愛らしさがある。そして、口をついて出ちゃう言葉は、誰しも必ずあるだろう。私も、つい言ってしまうキーフレーズがある。
手術を控える患者さんの前処置で、浣腸をかけた時の話だ。60mℓほどのグリセリンという溶液を肛門から注入する。きれいさっぱりと、うんこを出す。目的はそれだけだ。
「溶液が充満するまで、しばらく排便をこらえてくださいね。それから、トイレに向かいましょう」
と説明し、部屋を退室した。その日は、とても忙しい日だった。病棟は、今日も慌ただしい。
「緊急入院きたよ!」
「レントゲン撮ったら上がってくるから!準備して!」
「満床のベッド開けて!患者一人転棟させよう!もう一件、アッペの人くるよー!」
「心停止!!」
「ドクターどこ行ったー?!?」
「DC持ってこーい」
「ボスミンないぞー!薬局走れーー!」
そんな中、赤いランプが点灯する。ナースコールだ。慌てて受話器をとると、遠くから控えめな声が聞こえてきた。
「…うんこしても、いいでしょうか?」
忘れてた、浣腸かけてた。
「はい、ぶっ放してください!」
私はナースコールを、切った。
手術介助の、機械出しナースをやっていた時の話だ。オペは既に6時間を超えていた。私の便意は、すでに最高点に達していた。オペ中は、手を下ろすことは許されない。不潔だからだ。同じ位置からほとんど動かずに、ただ、肛門に力をこめている。不潔な欲求は、静かに体を揺らす。
ドクターから次々と指示が飛ぶ。
「メッツェン」
「視野広げて、みえないよ」
現場は、緊迫していた。
そんな中で、BGMはB'zが流れていた。
『おのれの限界に気づいたつもりかい?』
高音ボイスの稲葉さんが問いかける。
私の視界は、既に真っ白な景色変わっていた。
私は言った。
「便意、限界です。ぶっ放します」
周囲の時が止まる。
音楽は流れる。
「♩そして〜羽ばたく〜ウルトラソウル!♩」
「ハイ!!」
を待たずして、私は手を下ろす。自身の緊急事態。私も「ぶっ放す」をやめられそうにない。この身体に命を宿している限り、限界は必ずやってくるのだ。
この後、私は手術室ナースをクビになる話は、また後日お話ししよう。
☝︎次の日お話はコチラepisode4☝︎
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