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『変態病院』episode7 オートで30分、行かせていただきます。《創作大賞2025#お仕事小説部門》

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 episode7  オートで30分、行かせていただきます。


「人は生まれながらにして完璧であり、不完全な形をより求めて人間界に落とされるんです。これが、私だ。私はこんな人間だ。そもそも、私とは何ですか?私、なんてものはありません。いわば魂が求めるもの、それが自我になるわけです」

 ぼんやりと、こんな話を2時間聞いている。

「私があなたにヒールを送ります。だから、あなたは扉を開けて欲しいのです。開きますと」

「…開きます」

 開いているのかどうかすら定かではない。この男から何かが体内に注入されるらしい。

「これから少しずつヒールを送ります、効果の出方はそれぞれですが、ヒールを受け入れられる場合は、少し眠くなったり、体のだるさを覚えます。逆に信じていなかったり、開いていない場合は、イライラすることもあるようです」

 今夜は夜勤だ。合計で16時間、この病院に留まらなければならない。

 私は、仕事をするのが異常に早い。そして異様なほどに暇な日もある。それが、今日だった。

「受け入れましたか?」

 その男は、真っ直ぐこちらを見ている。あまり、面と向かって人の顔を見ることもないが、こんな顔をしているのか、と突如顔の特徴が浮き上がり、掌がぶ厚いことや、指が極端に短いことが、違和感でしかなくなってくる。この兆候が出てくると、私はまずい。ドン引きの境地だ。

 私は、いま、変な男に引っかかっている。

 仕事が早く終了させてしまった弊害が、変な男に隙を与えてしまったのだ。どんよりとした、脂汗がマスクの中を流れるのを感じた。毛穴は、いつもより開いている気がする。

「はい、受け入れられた気がします」

 つらい。私は地味に抵抗してみることにした。
 私がされて1番嫌なこと。ボールペンをカチカチ…と連続して鳴らしてみた。

 カチカチカチカチ…指が痺れて、そっとボールペンを置いた。どうやら、効果はなかったようだ。

 私はこの男の話を聞きながらずっと気怠い。このラリーが私の体を蝕んでいる。ただ、なんだか本音も見透かされそうなので、遠くを眺めることにした。正確には、羽虫の賑わう蛍光灯を、ただ、注視した。天を仰ぐ。今ならその先の、宇宙まで見えそうだ。

 今一度、振り返ってみよう。
 やはり、私は今、変な男に引っかかっている。

 この男は何者なのか。

 ただの介護職員である。よく、働く。可もなく、不可もなく。一日を通して、彼に対して、何も思わない。この会話の始まりは、私の恋愛事情について聞かれたことだった。大抵はうまくいかない。思ったんと違う。見た目とのギャップが強すぎる。大抵はそんなことがきっかけで別れを切り出される。

 男運ないよね。

 そんな言葉を今まで、どれだけかけられただろうか。

「もう一度言います。あなたとは、なんでしょうか?己を愛して下さい。ただ、それは自己愛になってはいけません。意味がわかりますか?」

 考えることをやめた。新しい境地だ。身を任せて、静かに寝たふりをした。この方が色々都合がいいだろう。

「私のヒールは眠くなるでしょう?オートで30分、行かせていただきます」

 ことごとく、私は人に縁がない。
 私もこの男にヒールを送り込むことにした。

 『頼む、黙ってくれ…』と。

 この男、何を隠そう、院内の人気者なのだ。人間には人徳というものがある。不思議と癒し系に分類されている。

 私はいつだって変な人として処理されている。           
 感情はいつだって、ログアウト状態だ。彼と私、どちらがズレているのだろう。いや、もう答えは出ている。

 ズレてるのは——多分、私の方だ。ヒールも届かない場所に、私は平然と立っている。

 ジリリリリリリリリー!!!!


 私と、彼は、背中をビクゥっとさせた。
 けたたましい大音量で遠くの廊下から非常用アラームが院内に鳴り響いている。
 慌てて廊下に飛び出すと、180cmをゆうにこえる患者が両手を広げて天井に向かって叫んでいるところだった。


「宇宙エネルギーを、いまぁーー!!」


「特大のヒール、送りましょうか?」
 私の背後には、あの男が立っていた。
   ーーーー夜勤終了まで残り、あと13時間。




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