【毎週ショートショートnote】誤解陸上
誤解陸上は、審判が読み上げる平凡な文を、選手たちが一斉に誤解して叫ぶ競技だ。ねじれが鋭いほど観客は沸き、得点も跳ね上がる。
この大会にはもうひとつ楽しみがあった。
毎年、試合のあとに振る舞われるコンフィだ。オリーブ油をたっぷり使った特製のもので、驚くほど美味しいらしい。
今年が初参加の僕も、ひそかに楽しみにしていた。
審判が問題を読み上げる。
「問題。『今日はいい天気』」
「明日は嵐だ!」「陰謀の暗号だ!」
間髪入れずに叫ぶ選手たちに、観客席から歓声があがる。僕も負けじと声を張った。
勝ち進んだ僕は、決勝に残った。
「最終問題です。『優勝賞品は最高級オリーブ油、一人分』」
考えずに叫ぶ。
「僕を餌にするつもりだ!」
会場は一瞬凍ったように静まりかえり、次いで割れんばかりの大歓声に包まれた。
表彰台に案内され、金メダルが首にかけられる。
台の上からは、観客たちがよく見えた。
こちらを見つめる目は祝福というより、舐めるように僕を値踏みしていた。
ーーーオリーブ油一人分。
その意味が、いまになって喉の奥から重たくせり上がってくる。
じゅるり、と。誰かが涎を啜る音が聞こえた気がした。
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