【毎週ショートショートnote】月見バーバー
月見バーバーという床屋があった。そこに行くと、髪型は必ずひとつに決まっていた。
まんまるの、つるりとした坊主頭である。あんまりにも丸すぎて、秋の夜、外に立っていると煌々と光る満月と見まがわれた。
いつも通り散髪をしたその晩も、帰り道にお年寄りたちがぞろぞろと集まってきて月見の宴を始めてしまった。動くに動けず、僕はそのままじっと満月の役を務めた。
けれど夜風に吹かれて思わずくしゃみをすると、正体が露わになった。驚いたお年寄りたちは深く頭を下げ、大量のお菓子を手渡してくれた。
その中に、無理やり連れてこられた孫がひとりいた。どうやら僕を気に入ったらしく、その後しきりに訪ねてきては熱心に想いを伝えてきた。根負けした僕は結婚し、やがて幸せな暮らしを始めることとなった。
ただひとつ、妻の望みがあった。
「あなたはずっと、そのまんまるでいてね」
以来、僕の髪型は一度として変わることがない。月見バーバーに通うたび、鏡の中にはいつも変わらぬ満月が映っている。
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