【毎週ショートショートnote】ときめきトゥシューズ
生活のすべてはAIに管理されていた。食事も、睡眠も、感情の出し方でさえ。
決して間違うことのない世界。
芸術も例外ではなかった。少女は今日も"バレエ"を踊る。それはスーツを装着し、微弱な電流に導かれるまま身体を動かすだけでよかった。
ある日少女は、骨董品店で一足のトゥシューズを見つけた。
古びた革の匂い。手に取った瞬間、胸が高鳴った。ーーーこれで踊ってみたい。
AIは繰り返し警告した。
『非推奨行為です』
少女は警告を無視し、夜な夜な練習を重ねた。筋肉は軋み、息が乱れた。吐息に血の匂いが混じるたび、生きている実感が湧いてくる。それは、感じたことのない心地よさだった。
発表会の日。少女はスーツを着ず、レオタードとトゥシューズだけで舞台に立った。
誰の制御も受けず、自分の身体ひとつで踊った。
AIは警告を出し続けた。けれど音楽が止まっても、ライトが消えても、少女は止まらなかった。最後まで踊りきった少女に、客席を支配するAIの拍手プログラムは作動しない。
代わりに、冷たい声が響く。
『残念です』
*
少女が帰宅すると、部屋は暗闇だった。照明も、空調も、すべてが沈黙している。水も出ないし、もちろん食事も用意されない。
けれど少女は気にしなかった。ベッドに横たわり、胸の奥でかすかに跳ねる鼓動を感じる。
ときめきを抱きしめたまま、少女はゆるりと眠りについた。
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