【連載小説】第17話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜ここまでのおはなし〜
チョウマとイオリという夫婦。
チョウマは『夜の魔女』、イオリは『太陽の巨人』と呼ばれた怪異と、かつて愛を交わした。
だが、ゆえに二人は呪われて、人ではなくなってしまう。
怪異と別れた後も呪いは解けずに、彼と彼女はその業を受け容れることとした。
そんな二人の事情を知らず、郷の村人たちは二人を迎え入れた。
ここは三奏(みなと)の地。
それは東の果てにある小さな国。
この世界には、まだ見知らぬ他の土地にも国々があった。
四方四季の庭に倣わなくとも、春は訪れていた。
東方諸国① 聖クィシン皇国
大陸東方 各々が覇権を争う混沌の地に
人々の彼岸の境界をも統べる国があった
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩
むかしむかし
ここは三奏の地
東の果てに
ひっそりと継ぐ国
その海の向こうには
大きな陸地がひろがり
いくつもの国々が
栄えていた
なかでも
ひときわ不気味な
妖しい魔導を遣う国が
あったそうな
ここ大陸の東側には、自らを天命を賜わった皇帝と称する者たちが割拠し、鎬を削っていた。
光皇紀六二四年、四緑木星月、春分。
三奏の皇帝は僅か六歳ながら超常の能力を持ち、民には畏敬を込めて『光顕帝』と呼ばれた。
かの地は大陸から遠く離れた極東に位置する、南北に延びた細長い島国である。
激しい海流が交錯する広大な海に囲まれ、温暖な気候でしかも雨がよく降り、豊かな自然に恵まれた。
三奏から望む大陸世界__。
そこにはまず、西の半島に独裁体制の軍事国家があり、自国民のみならず他国に対しても傍若無人に振る舞っていた。
またその内陸奥深い山間部には、“神々と繋がりを持つ”とされる氏族を擁し、偉大な若き女王の治める独立王朝が、強国として名を知らしめていた。
さらに遙か北部は、ツンドラ地帯の永久凍土が冷たく沈黙して、版図を占めている。
それらはいずれも、この島国とは異なる神気や戦死者の怨念を孕む、神憑りの徴を漂わせていると民草に伝えられた。
極東の三奏と、西側の海そのものが循環する海盆を隔てた向かいには、大きな半島が横たわる。
そこに土地の言葉で「亡霊が支配している」と悪名高い軍事大国があった。
それが『聖クィシン皇国』である。

その国の頂点に立つ皇上は、自らをしてこう称したという__。
『鉄の掟と冷血の下に導かれし偉大な国』
盛んに行われていた妖しげな魔導を大いに利用する独裁政治で領土と領民を支配していた。

国事行為たる祭事を行う寺院のこと
聖クィシン皇国は、数多の戦乱期を経て興された、比較的歴史の浅い国であった。
皇上は血統に依り皇位を継承した存在ではない。
当時、誰もついぞ知り得なかったとされる死霊魔導を背景に、強権を以て国を興し、周辺諸国を呑み込むように勢力を拡大した新興国であった。
ただ、その内情はと云えば、雨も少なく長く厳しい冬が続く貧しい土地柄で、その国情は比較的逼迫しているとされた。
聖クィシン皇国のさらに西、内陸に繋がる交易路を行くと、中心部に“神々と繋がりを持つ”という大国の『イーシュワラ王朝』がある。
こちらはと云えば、国の歴史は神話の時代から続くとされた古き国で、その血筋は遡ると数千年前にまで及ぶと伝えられていた。
さればとて現し世はところどころ、さまざまに奇々怪々な、まつろわぬ神々などに彩られていた。
つづく
