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幕が上がる、その先へ 第4話

↑前回のお話
『光が灯る場所』


18時ごろ、○○たちは学校帰りに商店街の商店街のはずれまで来てい。古びた木の看板に、手書きで「café 灯(ともり)」の文字。通り過ぎると、窓越しに柔らかな光と笑い声が漏れている。


小林「今日も盛況だな」

久保「本当に変わらないねー」

中村「2人はいつから来てんだっけ」

小林「中学からだよ」


ドアベルが鳴る。木の香りとコーヒーの匂いが混じる店内。壁には名作舞台のポスター、古いパンフレット、学生時代の公演写真。カウンターの奥では、マスター・生田誠一(52)が穏やかな笑みで迎える。


生田:「お、来たな」

久保「マスター、こんばんは」

生田「こんばんは、じゃねぇよ。部活終わりで喉乾いてんだろ?ほら、ハチミツジンジャー5つ、もう準備出来ている」

小林「……いつもバレてますね」

生田「芝居やってる奴の顔見りゃ、だいたい何飲みたいかわかるんだよ」


○○たちは全員が笑いながら奥のテーブル席へ向かう。
壁際の席には、店員の女性――藤ヶ丘演劇部OGの新名ほのか(26)がノートPCを開いている。彼女は在学中、全国大会で主演を務めた。


中村「あ!ほのかさんだ、お久しぶりです!」

新名「久しぶり。最近顔出せなくてごめんね、調子どう?」

峯村「新入生が入って、にぎやかになりました」

中村「でも、にぎやかっていうより、嵐みたい」

伊藤「ねえ、ほのかさん。今度、私の芝居みて下さい!あの頃より成長してると思うんです!」

新名「わかった。リリの成長したところ、見せてね」

伊藤「ほのかさんにもらった“自分の中にある誰かを見つけること”を忘れていません」

久保:「……私も常に考えています」

ハチミツジンジャーのホットを5つおぼんに乗せて運んできた生田が、会話に加わる

生田「芝居ってのはな、嘘を積み重ねて真実を見せる仕事だ。だけど“演じる”こと自体は、みんなが毎日やってることだろ?」

小林「変わらないですね、マスター」

生田「○○、お前は変わったのか」

小林「変わってません。今でも息が止まりそうなくらい、好きでやってます」


生田がニヤリと笑う。


生田「だろ? そう言えるうちは、まだ大丈夫だ。」


カップを置く音。外は夕闇に包まれ、店内の灯りが温かく広がる。


伊藤「マスター、ここっていつも演劇好きの人、多いですよね」

生田「そうさ。この店は、“演劇を愛する奴”なら誰でも来ていい。学生も、OBも、他校の奴でも、社会人でもな。芝居ってのは、世代も性別も関係ねぇ。ここに来りゃ、みんな同じ“役者”だ」

中西「なるほど、そういうことだったんですね」

生田「ただし、人の好きなものただ否定したいだけだったり、暴れたりするやつは即刻出禁してるけどな」

新名「……私、初めてここに来たの、高校1年の冬だったな。先輩たちが“お前も芝居の話がしたいなら、ここへ来い”って」

久保「え、それって……“ヒカリノカケラ”の始まり?」

新名「かもね」


照れくさそうに微笑む新名。
壁にかけられた古いポスターには、《藤ヶ丘高校演劇部 第15回公演》の文字。



テーブルに視線を落とした久保が、ポツリと

久保「この場所、落ち着きますよね。ここに来ると、“演じることが好き”って気持ちを、素直に言える気がする」

峯村「部室は“戦う場所”だけど、ここは……“還る場所”って感じですね」

生田「そうだな。部室で燃えて、ここで灯(とも)す。お前らが芝居を続ける限り、《灯》の光は消えねぇよ」

全員、笑みを交わす。その笑い声が、静かな店内に溶けていく。

生田「でもあれだな、最初ここに来たとき中坊だった○○と史織里がまさか、藤ヶ丘に入るとはな」

小林「演劇やるなら、藤ヶ丘じゃないとつまらないって思っただけですよ」

久保「私もやるなら本気でやりに行きたかったので」

伊藤「マスター、教えてくださいよ、2人の中学生だったときの話!」

生田「まあいいだろ、たまにの昔話くらい」



4年前

夜九時過ぎ。雨上がりの商店街はしっとりと静まり返り、その一角にあるカフェ《灯》の窓だけが柔らかく光っていた。
稽古帰りの久保史織里と小林○○は、肩を並べてその扉を押す。


この場所は、ふたりにとって“稽古のあとに呼吸を整える場所”だった。カラン、と鈴が鳴る。
カウンターの奥でグラスを拭いていた生田が顔を上げる。

生田「お、来たか。いつものだな」

久保「お願いします」


久保が笑う。小林は少し疲れた顔で軽く会釈した。マスターは二人の表情をちらりと見て、氷を落としながら静かに言った。

生田「……稽古、揉めたな」

久保が苦笑して、コートを脱ぎながら答える。


生田「分かりますか?今日は特に大変で。新人の子たちが多くて、上手く噛み合わなくて……。それでも合わせようとしてるうちに、自分の芝居がよく分からなくなっちゃって」

生田「ほう」

生田は短く相づちを打ち、コーヒーを淹れ始める。小林が続けるように口を開く。


小林「俺も似た感じです。演出の人と、ちょっと噛み合わなくて。“台詞をもっと感情的に言え”って言われたんですけど…… 俺、そういうのができないんです。相手の言葉を受けて自然に出てくる感じじゃないと、なんか“嘘”になる気がして」

久保が横で頷く。


久保「わかる。私も、相手を立てる芝居ばかりしてたら、 気づいたら“自分”が消えてて」

生田はアイスコーヒーとホットココアを二人の前に置く。湯気の向こうで、低く穏やかな声が響いた。

生田「悪くねぇな。どっちもちゃんと“息してる”芝居だ」

二人が目を上げる。マスターは2人に視線を向けたまま続けた。

生田「芝居ってのは嘘だ。けどな、その嘘の中でちゃんと息してりゃ本物になる。“上手く言う”より、“生きてるように聞こえる”ほうがずっと難しい」

小林が小さく息をつく。


小林「……俺、台詞を“言う”って感覚がないんです。相手を見て、反応して、自然に出る。それが一番しっくりくる」

生田「それでいい」


生田は短く笑う。


生田「芝居をやめたらどうする?」

久保が驚いたように顔を上げる。小林は一拍置いて答えた。

久保「……多分、息が止まります」


久保が小さく微笑む。


久保「特別っていうより、“生きること”に近いんです」


生田はコーヒーを口に運び、わずかに頬を緩めた。

生田「そりゃあ、厄介な生き方だな。お前ら。それがお前らの武器で才能だ」

静かな間。時計の針の音だけが聞こえる。

生田「下手でも、苦しくても、続けたやつだけが“舞台の呼吸”を覚える。
芝居は、才能よりも呼吸だ」

久保と小林は、互いに顔を見合わせて頷いた。

《灯》の壁に映る橙色の光が、二人の横顔を柔らかく照らす。
カップの中の反射が小さく揺れた。その光はまだ頼りなかったけれど、確かに燃えていた。“舞台の呼吸”という言葉の意味を、この夜、二人は少しだけ理解した気がした。



生田「まあ、こんなところか?」

伊藤「へぇ、そんなことあったんだ」

峯村「前に言ってたことってマスターからもらった言葉だったんだね」

小林「それぐらい大事にしているってこと」

久保「でも、そのことがあったからその舞台も成功できたし、私たちも腐らず今まで続けられるんだから」

新名「マスター、私にもその言葉かけてくれましたよね。私が始めて主演するときに」

生田「お前の場合は、余計なもんに囚われすぎてたんだよ」

中村「でも、○○と史織里たちがいたから私たちもここにいるし、2人に全力でぶつかっていけるんだよ」

小林「麗乃、受けて立つぜ」

峯村「じゃあその勝負する前に、文化祭用の台本の初稿が出来たから。皆の意見を聞かせてほしい」

峯村は人数分の台本のペラと自分用のパソコンを出して意見を聞く準備をする。


小林が机に広げた台本を指でなぞりながら言う。

小林「この場面、ちょっと感情の流れが不自然に見えるな……」

伊藤が眉をひそめる。


伊藤「でも、ここって相手の仕草で全部変わるよね。私なら、動きに合わせて台詞を調整するかな」

久保は静かに頷く。

久保「私も……でも今回はもう少し自分の気持ちも乗せたいかな。」

中村が台本にペンを入れながら

中村「ここは少し台詞が長いよ。説明しになっちゃってる」


小林が手を伸ばし、机の上の台本に指を落とす。


小林「台詞が“型”にはめ込んじゃってるな。ありがちな台詞がオンパレード」

峯村は肩をすくめる。

峯村「皆…やっぱボロクソに言うな…型か……なるほど。確かにこの演目だと型にはめると面白くないか」

中村「そうね、この役は愛する人を殺された憎悪と守れなかった悲しみや後悔が溢れている役だと初見は感じた。でも、それを台詞で埋めるより少し役者に委ねてもいいかも」

伊藤「この役なったとき、どんな感情が生まれるのか。すごい楽しみだな~」

中村「リリ?感情をオマージュするのにたくさん資料見るのは良いけど加減してね。戻ってくるのに時間かかるから」

伊藤「善処します…」

小林「まあまあこれが俺たちだ。好き勝手言ってるが、最終的にはみねが書きたいものを書いてくれ。みねが書いた嘘(ものがたり)を俺たちが真実にするからさ」

久保も頷く


久保「みねが書いてくれてた絵に、私たちが色付けしていく。それが私たちのやり方だしね」

峯村「そうだね。ありがとう。今度は完成したら見せるよ」

5人の間に静かな理解が流れる。
この瞬間、過去の経験と現在の自分たちが、自然に重なった。

同時刻

林兄妹と賀喜はファミレスで会議していた。

稔「さすがにこのままじゃいけないよな」

瑠奈「うん、このままだと本当に辞めちゃうかもだし」

賀喜「明日、話してみようよ」

稔「ああ、だな。あいつのためにもならない」

瑠奈「あの娘の今の気持ちも聞きたいしね」

賀喜「連絡してみる」

賀喜はスマホでメッセージを打つ。

「お疲れ様、いきなりでごめんだけど明日、2年で集まらない?」
「明日の放課後、いつものファミレスで」

「待ってるね。さくちゃん」


続く
↓次のお話


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