幕が上がる、その先へ 第5話
↑前回のお話
『リザレクション』
「お疲れ様、いきなりでごめん。明日、2年で集まらない?」
「明日の放課後、いつものファミレスで」
「待ってるね。さくちゃん」
遠藤「かっきー…」

遠藤はスマホを机の上におき、ベットに寝転んだ。そして近くに置いていたノートを開く。
『私は演劇に向いていない。』
遠藤はノートを置き、枕を抱きしめて丸くなる。
遠藤「もういいかな…」
次の日の放課後。井上たちは部室に向かっていった。
井上「今日はなんの稽古するのかな」
中西「読み練習とかかな?脚本の書き方とかも学びたいけど」
高木「今日も台詞練習したいな!早く井上たちに追いつかないと!」
片山「焦ってもしゃあないよ。地道にやってこうよ」
菅原「ねぇ、いろは。そろそろあの時期なんじゃない?」
奥田「そうだよね!めちゃくちゃワクワクする!」
井上「え、なに?なにがあるの?」
奥田「強いて言うなら、試練?」
中西「試練?」
部室に到着してドアを開ける。中には中村と伊藤が向き合い英単語の暗記をしている。
峯村はパソコンで脚本づくりをしている。
伊藤「material」
中村「えーと…わからない」
伊藤「材料・原料」
伊藤「actually」
中村「わからない!」
伊藤「実は~、本当は~」
中村「もう!わからない!」
伊藤「じゃあtragedy」
中村「悲劇」
伊藤「なんでこれだけわかるのよ」
中村「常識」
峯村「ふうー、お、みんな、お疲れ様」
1年生「お疲れ様です」
中西「あれ?小林先輩と久保先輩は?」
峯村「今日は秋の地区大会の打ち合わせがあるから、HR終わったら直ぐに行ったよ」
片山「へえ、どこでやってるんですか」
峯村「あざみ文化会館」
移動中の車内
小林と久保は顧問の車で隣町のあざみ文化会館に向かっていた。
小林「いやー、助かったよ。梅ちゃん先生」
梅澤「先生をあだ名で呼ばない!」

久保「そうだよ、○○。そもそも○○が学校出るのが遅れたのが原因なんだよ?」
小林「しょうがないだろ、設楽先生に捕まって。無下に扱うわけにいかないだろ」
久保「そうだけど…」
梅澤「まあ、もともと乗せていく予定だったからいいけど、前回の全国出場校が堂々とギリギリに行くのはマズイでしょ」
小林「毎回感謝しております。梅澤先生」
久保「ありがとうございます」
梅澤「いいわよ。この調子だと開始の20分前に着きそうだし。そうだ、帰りはどうする?良かったら最寄り駅まで乗せてくけど」
小林「大丈夫ですよ。帰り、史織里と出かけるんで」
梅澤「あら、デート?」
久保「デ、デートってわけじゃ…」
久保は恥ずかしくなり語尾がごにょごにょになってしまう。
小林「お世話になってるカフェのマスターから舞台のチケットもらったから、せっかくだし史織里と行こうかなって」
梅澤はニヤニヤしながら
梅澤「デートじゃない!良いわね!」
久保「もう!いいですから!!!/////」
久保は梅澤の言葉に恥ずかしくて悶えてしまう。
場所は戻り、部室
菅原「2年生の先輩たちは?」
中村「ミーティング」
高木「ミーティング?それなら部室か教室でやれば」
中村「いやいや、もっとセンシティブなやつ」
伊藤「覚えた言葉をすぐに使わない、それにそこまで繊細なことじゃ」
峯村「いや、そんなこともないかもよ」
同時刻のファミレス。窓際のテーブルに、林稔、林瑠奈、賀喜遥香が座っていた。カトラリーの音とソフトドリンクの炭酸が弾ける音だけが、沈黙を埋めていた。
瑠奈「……で、さくらは?」
瑠奈がストローをくわえたまま言う。
賀喜「もうすぐ来るって。電車、一本遅れたって連絡きた」
数分後、ドアのベルが鳴る。
遠藤さくらが、少し息を弾ませながら入ってきた。制服の襟が少し乱れている。
遠藤「ごめん、待たせた?」
瑠奈「ううん、全然」
席についたさくらは店員さんに抹茶ラテを頼んだ。
抹茶ラテが届いた後にストローを手に取る前に、しばらく俯いていた。稔がそっと口を開く。
稔「遠藤……“あの時”のこと、ずっと言えなかった。役者として、異変に直ぐに気づかずフォローできなかった。悪かった。」
その声は、優しさよりも悔しさを含んでいた。瑠奈も賀喜も、黙って聞いている。
さくらは小さく首を振った。
遠藤「……稔くんはフォローしてくれたじゃん。私が……」
そう言った瞬間、彼女の目が遠くを見るように揺れた。
——そして、場面がゆっくりと回想へと溶けていく。
半年前 秋の県大会
舞台「雨の庭」のカフェのシーン。遠藤演じる占い師に騙されてお金がない女性が同級生の男子学生演じる同級生が詰めるシーン。稔はカフェの店員として出ていた
遠藤「最初は知り合いから借りてたんだけど中々返せなくて…」
男子「(あれ?セリフ何だっけ?何だっけ?え?)」
男子学生の台詞が出てこない
稔「(台詞がでない)」
遠藤「(稔くんは店員だから動けないし…)」
男子「…」
遠藤「(まずい、このままだと…)
観客「あれ、なに(ボソッ」
観客「セリフとんだ?(ボソッ)」
遠藤「(このままじゃ…やるしかない)」
——彼女は、芝居を止めなかった。
遠藤「それで地元に逃げてきたの」
稔「(それは男子の台詞…)」
男子「えーと(小声)」
遠藤「申し訳なかったけど、地元に戻って同級生に会えれば偶然装って、お金を借りれるかなって思ったんだ」
ひとつ、ふたつ。
——彼女は、芝居を止めなかった。このシーンは何とか遠藤が台詞を繋ぎ、やり切った。
その後、舞台は滞りなく進み、舞台を終えた。その時に彼女が感じたのは“達成感”ではなく“孤独”だった
遠藤「私は沈黙が怖かった。あの瞬間、私……ひとりだった」
遠藤「共演者の笑顔も、スタッフの労いも、遠くに感じた。誰も悪くない。台詞が飛んだこともしょうがない。でも——怖かった。その日から、“舞台の上”が、少しずつ息苦しくなっていった。心のどこかで、「もうあの孤独を味わいたくない」と思ったの」
2年の皆は遠藤の話を聞いている。
遠藤「久しぶりに行こうと思っても、部室のドアを開けるときに、手が震えちゃって一歩が踏み出せなかったの」
遠藤「いっそのこと、辞めちゃえば楽になると思ったんだ。舞台から去ればこんな気持ちになることもないし、寂しさはあるけど皆には会えるからいいかなって」
賀喜「え…」
遠藤「でも辞められなかった。気づいたら劇場に行ってノートに感想書いてた。
カーテンコールの興奮、お客さんの拍手、キャストの満足な顔。あの感情は一生忘れられない。だから中途半端に居続けたの」
遠藤「でも。今日決めたの。そろそろはっきりしようって」
賀喜「え、どういう…」
賀喜が話そうとした瞬間、瑠奈が口を開く
瑠奈「さくちゃんはある意味、自分勝手だよ」
遠藤「え?」
稔「おい、瑠奈」
瑠奈「なんでもかんでも自分で背負って、言いたいこと言って去ろうとしてさ。私たちにも悩みを分けてよ。仲間じゃん。しようよ。無駄話や愚痴、先輩の悪口とかさ」
賀喜「ちょっと…」
瑠奈「私は好きだった、あの時のさくら。確かに、あいつの台詞が抜けて演出にない沈黙ができた。でも、あの沈黙を切り裂くさくらの台詞に込められた感情が私には刺さった。あのときさくらの台詞の紡ぎ方と間の取り方で、あの沈黙に意味があったと観客に思わせることができた」
瑠奈の言葉に稔が続ける
稔「遠藤は焦ったかもだけどその沈黙を貴女は自分のものにした。そのかいあって俺たちは全国大会に進めた」
瑠奈の思いを黙って受け止めている遠藤
横に座っていたが遥香が遠藤の方に向く
遥香「さくちゃん…さくらは舞台のあの瞬間に“生きていたの”。それだけは自信を持ってほしい。あと約束する。さくらをもう孤独なんてさせない。演出を変えてでも貴女をさらに輝かせる」
遥香「だから、お願い。また私たちと一緒に“生きてほしい”」
遠藤「…皆。先輩たちに似てきたね」
瑠奈「え?」
遠藤「実は一昨日、○○さんと話したんだ」
2日前
放課後の風が、校舎の隅を抜けていった。
ベンチの上でノートを開いていた遠藤さくらはそこに思いを書きなぐっていた。
『舞台「雨の庭」——感情の“間”が良かった。けれど私は間を怖がっていた。
沈黙に自信がなかった。……あの時の私は、生きてなかった。』
彼女のペン先は震えていた。そのページには、観劇した舞台の感想と、自分の過去の芝居に対する辛辣な言葉が並んでいる。
ノートの表紙には“観劇ノート”と書かれていたが、実際には、彼女自身の“自分との対話帳”だった。そこへ、足音が近づいてくる。
小林「……やっぱり、ここにいたか」
小林が手に缶コーヒーとペットボトルを持って現れた。
遠藤「○○先輩」
遠藤はノートを慌てて閉じようとしたが、小林が手で制した。
小林「別に隠さなくていいよ。史織里が言ってた。『さくら、最近部室には来ないけどノートは続けてる』って」
遠藤は小さく眉を寄せる。
遠藤「……史織里先輩、なんでも知ってますね」
小林「見てるんだよ。お前のこと。あの人、そういうとこ抜け目ないから」
小林は笑いながらベンチに腰を下ろす。
ノートの端をちらっと覗くと、小さく「沈黙」「失敗」「空気」といった単語が並んでいた。
そして、ひときわ目立つ一文があった。
『私は演劇に向いていない。』
小林の笑みが、そこで止まった。
小林「……これ、本気で思ってんのか?」
遠藤は答えない。ただ、ノートを見つめている。
遠藤「だって、うまくいかなかった。本番も私が暴走して…あの沈黙、怖かったんです。だから
あんなことを」
小林「俺、袖で見てたんだ。あの瞬間、誰よりも“生きてた”の、お前だったよ。」
遠藤は目を伏せたまま、肩を震わせた。小林は続ける。
小林「史織里も言ってた。『あの沈黙、良かったよね』って。確かにトラブルはあった。
でもあの時の遠藤の気持ちは伝わってた」
風が吹き抜けて、ノートのページがぱらりとめくれた。そこには、遠藤が観劇した舞台の感想が並んでいる。
小林は指で一行をなぞる。
『舞台は呼吸だ。沈黙もまた、台詞の一部』
小林「……これ、いいな」
小林「さくらが書いたんだろ?だったら、それが答えじゃないか」
遠藤はノートを閉じ、両手で抱え込む。
その仕草は、まるで自分の中の“光”を守るようだった。
遠藤「……私、またあの沈黙を怖がるかもしれません」
小林「怖がっていいよ」
小林は穏やかに言った。
小林「「芝居って、上手くやるもんじゃない。一緒に、生きてくもんだから」
遠藤は、ようやく小さく笑った。
久保がいつも浮かべる、あの柔らかい笑みに少し似ていた。
小林は立ち上がり、空を見上げた。
「だから、そろそろ帰ってこいよ。“ヒカリノカケラ”に。」
遠藤はノートを抱えたまま、少しうつむいて——そのまま小さく、うなずいた。
稔たちは黙ってさくらを見ていた。彼女は小さく息を吸って、微笑んだ。
遠藤「……小林先輩に言われたんだ。“帰ってこい”って。だから、ちゃんと戻ってきた。
また皆と演劇やりたい」
遠藤「また、私と“生きてくれますか”」
稔「遠藤…」
賀喜「さくちゃん…」
瑠奈「もちろん!」
賀喜「さくちゃん!」
横の席に座っていた賀喜が遠藤に抱きつく
賀喜「良かった…さくちゃんが帰って来てくれて…」
遠藤「かっきー…ありがとう。瑠奈も、稔くんも」
瑠奈がふっと笑う。
瑠奈「良かった…さくらが帰ってきて…」
賀喜「ほんと。でも、あの時のさくちゃん、ほんと怖かったよ?」
賀喜が茶化す。
遠藤「うるさい」
稔「それぐらい説得力あったってことだ」
瑠奈「これであれが楽しくなってきたね」
賀喜「あれ、もうその季節だっけ?」
瑠奈「でもさくら、いきなり大丈夫?」
遠藤「大丈夫。てか勝負したくて戻ってきたし」
稔「1年も面白いやつが多い。未経験者が半分だが、その分伸びしろがある」
遠藤「○○先輩に聞いた。やる気があるって。ドリンク奢ってもらったし」
賀喜「あ、○○先輩がここ最近始まるギリギリに来てたのって…」
遠藤「うん。私の様子を気にかけてくれてたんだと思う」
稔「そういう主人公のやりそうなことを自で行くからすごいよな。あの人」
瑠奈「さくら、もしかして○○先輩のこと」
遠藤「そんなことないよー」
笑いながら、遠藤がストローを軽く突いた。グラスの中の氷が、コトリと鳴る。
その音が、どこか演目の“開演ベル”みたいに聞こえた。
文化会館第1会議室
17時ごろ、やわらかな夕陽がロビーに差し込む。
文化会館の中では、各校の代表たちが資料を抱えて談笑している。
久保「……やっぱり、ちょっと緊張するね」
小林「だな。でも、この空気、嫌いじゃない。“いよいよ始まる”って感じ、
けっこう好きだわ。」
久保と小林の姿勢を観て微笑みながら
梅澤「いい緊張感ね。あなたたちがここに来るのも、もう二度目でしょう?」
久保「そうですね。去年は右も左も分からなかったけど、……今年はちゃんと“部の顔”として来てる感じがします」
久保、少し息を整え、ファイルを抱え直す。ホールの奥に「会議室→」の案内が見える。
小林「史織里、そんな力まなくていいって。会議だって芝居と一緒。呼吸止めたら固まる」
久保「呼吸ね……言われてみればそうかも」
梅澤「小林、いいこと言うわね。でも史織里は、止まる子じゃないでしょ。
去年も、ちゃんと空気を読んで言葉を出せてた」
久保は照れながら
久保「先生、それ褒めすぎです。でも……ありがとうございます。今年は、“次の代”にちゃんと渡せるようにしたいんです」
会議室の前に立つ。中から他校の顧問や代表の声が聞こえる。久保が小さく深呼吸する。
小林「じゃ、行くか。——藤ヶ丘、出陣」
小林の言葉に微笑みながら
久保「その言い方やめてよ。……でも、うん。行こう」
三人が会議室の扉を開ける。中では、各校の代表と顧問がすでに席についている。
早坂女学園、柏ノ丘、などの常連校も顔を揃えている。
山下「あら、梅澤先生。お久しぶりです。去年の、「雨の庭」素敵でしたよ」

梅澤「山下先生。ありがとうございます。今年もよろしくお願いします」
久保「よろしくお願いします」
小林「よろしくお願いします」
席に着く三人。資料を並べる音だけが静かに響く。久保は深呼吸して、ゆっくりと資料を開く。横で小林が軽く親指を立てる。久保が小さく笑う。
司会者(地区演劇協会スタッフ)
「それでは、各校の代表がそろいましたので、今年度の地区大会打ち合わせを始めます。
最初に大会運営校より自己紹介をお願いします」
山下「早坂女学園演劇部です。顧問の山下です、部長の南、副部長の早川です」
南「学生運営の委員長を務めさせていただきます。南です。よろしくお願いいたします」
梅澤「藤ヶ丘高校です、顧問の梅澤です。部長の久保、副部長の小林です」
久保「部長の久保です。最後の年なので悔いのないものにしたいです。
よろしくお願いします」
齋藤「柏ノ丘高校、顧問の齋藤です。部長の真柴、副部長の五百城です」

真柴「部長の真柴です。小林! ひさしぶり!」
小林「……真柴!? え、なんで!」
久保と梅澤が驚く。
五百城「虎太郎、だれなん?」

真柴「去年の冬、即興ワークショップで一緒だったんだよ!“人狼劇場”ってやつ。あれマジで盛り上がった!」
小林「あー、あれね!『信じてくれ、俺は嘘をついてない!』のやつ!」
会議室、少し笑いが起きる。
梅澤(咳払い)「……はい、和やかでよろしいですね。」
齋藤「うちの生徒がご迷惑をおかけしました。改めてよろしくお願いします」
その後、自己紹介が終わり、会議も終了した。
南「お久しぶりです、久保さん」
久保「……あ、南さん。お久しぶりです」
南(柔らかく笑う)
「覚えていてくれたんですね。藤ヶ丘さんの『雨の庭』、とても印象に残ってます。
あの沈黙……。怖いほど、美しかった」
久保は南の発言に戸惑いながらも答える。
久保「ありがとう。あの時は……いろいろ、試してたから」
南がくすりと笑い
南「藤ヶ丘さんらしいですね。舞台の上でも、現実でも“挑戦型”。 ……今年も、見せてくれるんですか?」
久保「もちろん。うちは舞台の上で“生きるだけなので」
南「楽しみです」
その声に、妙な熱がこもっている。久保は一瞬だけ、視線をそらした。
“この人、舞台を戦場だと思ってる”——そんな気配がした。
南「次は——舞台の上で、話しましょう」
久保「ええ。負けないよ」
南も笑う。その表情には、静かな炎のような光があった。
小林「……なんか、火花散ってなかった?」
久保「気のせい」
小林「いや、あの人、明らかに闘志あったぞ。“南”って言ったっけ……宝塚みたいなオーラだった」
梅澤「あなたたち、いい刺激になるわね。こういう出会いが、大会を強くするの」
久保(小さく息をついて)「……ですね」
小林「そろそろ俺たち行きますけど、先生も出ます?」
梅澤「いや、他に話あるからもう行っていいよ、デートなんだから」
久保「だから違いますって/////」
小林「はーい、じゃいきますね。さいならー」
久保「さよなら」
梅澤「おつかれー」
梅澤が2人見送ったあと、会議室に戻った。
山下(ペンを回しながら)「……やっぱり、会議って苦手。あの頃は、もっと直感で動いてたのになー」
梅澤「ふふ、舞台の打ち合わせも会議みたいなものだったじゃない。あなた、台本の解釈で一歩も引かなかったもの」
山下「あれは——負けたくなかったから。”同級生の梅澤美波”に」
梅澤「あのときの全国大会でうちら、金賞だったじゃない。美月の芝居に圧倒されて虜だったよ」
山下「でも、客席の反応はあなたの芝居のほうが大きかった。今でも覚えてるよ、“あの目”。
相手役の台詞を受けて、一瞬だけ涙をこらえたときの——あれ、反則だよ」
梅澤「……覚えてるの?(照れ笑い)
懐かしいね。あのとき、あなたが「演劇は心で戦う」って言ってたの。いま、自分が顧問になってみて、やっと意味がわかる気がする」
齋藤「あんた達変わらないね、本当」
山下「飛鳥さーん!」
齋藤「やま、やめろ。先生としての自覚持ちなさい!」
山下「今は飛鳥先輩の後輩です!」
齋藤「(少し間を置いて)——ねぇ、美波。うちの子たち、今年は本気だよ。
去年、地区であなたたちに負けた悔しさ、ずっと引きずってる」
山下「うちもよ。“勝ち負けじゃない”って言いながら、やっぱり、あなたの学校には負けたくないの。特に南は久保さんを超えたいんだって」
梅澤「それはうちもそう。全国いったからってあの子たちは驕らない。これだけは言えます。彼らは去年より実力あげてますよ」
齋藤「面白いじゃん。うちも本命2校を抜いて全国へのチケットもらうから」
山下「いやもらうのはうちの子たちですから」
緊迫した空気が流れるがすぐに柔らかく笑いあう
山下「ああ、やっぱり変わらないですね。あの頃と。“友達”、先輩後輩なんて言葉、舞台の上じゃ通用しなかった」
梅澤「でも、舞台を降りたら——やっぱり一番、話したくなるのが2人なんです」
齋藤「(目を細めて)……じゃあ、次は舞台の上で会おうか。うちの子たち、負けないから」
梅澤「望むところ。私も、教え子たちの姿で——あの頃の私たちを超えてみせる」
梅澤、ふたりに無言で軽く会釈を交わし会議室を出る
梅澤「(絶対にあの子たちなら…行ける…)」
続く
