信頼の先にある「うわ、そっちか」を取りにいく ── ユーザーの期待に応えてはいけない理由《今週の三題噺発表》
「期待を裏切らないでください」と「期待を超えてください」は、似ているようでだいぶ違う。
前者は安全運転でたどり着けて、
後者は少しだけ道を間違える勇気がいる。
文章もたまにそうなるんです。
読者が求めていそうなものを出す。役立つ情報を整理する。共感できる温度に整える。読みやすくする。
全部正しいし大事だし何ひとつ間違っちゃあいない。
けどね、その「間違っていなさ」だけで書かれた文章はときどき新品のタッパーみたいなの。性能はいい。閉まりもいい。液もにおい漏れもしない。でもわざわざ友だちに見せびらかすほどではない。
期待に応えることは信頼の土台になるんです。読みにくいより読みやすいほうがいいし、わかりづらいよりわかりやすいほうがいい。読者が欲しいと思っているものをちゃんと渡せる人はそりゃ強い。そこでコケないのは大切です。
ただ、そこにだけ留まると文章はだんだん「予定どおりの満足」で終わってしまうわけで。食べたことのある定食みたいに安心はするけれど、誰かに電話してまで伝えたくはならないわけで。
ここで引っかかる。
期待に応えるだけでは弱いのでは?、と。
少なくとも記憶に残る文章はそれだけでは足りない気がする。読者が欲しいと思っているものを渡しつつ、ほんの少しその想定の外へ連れていく必要がある。安全に着地するだけではなく、「あ、そっちに行くのか」と思わせる。これが期待を超える、ということなのだと思う。
これをやろうとすると少し怖い。ズレたらどうしよう、外したらどうしよう、読者に「いやそういのうのは求めてないし」と言われたらどうしよう、と考える。
うんわかる。期待を超えるという言葉はキラキラしているくせに、実際にはかなり足元が悪い。普段の道を一本外れて帰る感じ。それは近道かもしれないし、変な駐車場に出るかもしれない。少し不安。でもその一本外れた道にしかない景色がある。
読者は自分の欲望をわかっていない。
こう書くとずいぶん偉そうなんだけどさ。けど、たぶんほんとうに。
いや、読者さんを見下しているわけではないのよ。人はみんな自分が何を欲しがっているのかを案外うまく言えない、という話だから。コンビニで何か食べたいのに何を食べたいかわからずに一周して、結局いつものものを買う夜みたいな。あれに似ている。欲望はある。でも名前がついていない。だから読者が口にする需要だけをそのまま拾っていても、ほんとうの欲しさには届かないことがあるんです。
そこで書き手がやるべきなのは、需要に従うだけではなく、需要の少し奥を読むことかもしれない。
たとえば読者が「役立つ話」を求めているとして、ほんとうは役立つことより、「この人の見方、なんか好きだな」を求めているかもしれない。
「共感できる話」が欲しいと言いながら、ほんとうは少しだけ裏切られたいのかもしれない。
表面の期待に応えるだけではなく、その奥にある、まだ本人も言葉にできていない欲望に触れる。ここで初めて期待超えが起きる。
ほら、スヌーピーってかわいいだけで終わらないんですよ。あの犬、見た目はやわらかいのに、ときどき妙に哲学っぽい顔をする。まぁ哲学的だけども。寝そべっているだけなのに人間のほうが少し考えさせられる。あれが強いのだと思う。表面の期待にはちゃんと応えている。かわいい。親しみやすい。安心する。けれど、その先に少しだけ予想外がある。だから長く残る。
文章も同じで、期待を超えるとは奇抜になることではないんですよ。
変なことを言えばいいわけでもないし、毎回ひっくり返せばいいわけでもない。そうするとただの落ち着かない人になる。大事なのは読者が「こう来るだろうな」と思っている場所から、半歩だけずらすこと。役立つ話の中に妙に人間くさい弱さを入れる。共感の話の中に少しだけ不穏な本音を混ぜる。やさしい結論の手前で一度だけ現実の冷たさを触らせる。そういう半歩が、読む人の記憶に引っかかる。
期待に応える文章は消費される。
期待を超える文章は保存される。
また読み返したくなる。誰かに話したくなる。あの一文、なんか気になったなと残る。
ここまで来ると文章は情報ではなく体験になるんです。
常に自分をアップデートする、というのは、昨日より気の利いたことを言う競争ではなくて。
読者の期待の輪郭を読みつつ、その輪郭の少し外へ自分を置いてみることだと思う。安全にうまくやるだけではなく半歩だけ未知へ出る。
その半歩があるから、新作発表はただの新商品で終わらない。通販番組みたいに便利さを並べるだけでなく、「うわ、そこ見てたのか」と思わせられる。
読者はまだ、自分の欲望を言い切れていない。だから書き手の仕事は注文どおりに出すだけじゃない。
その人がまだ名前をつけていない「ほしかった」を、そっと先回りして渡すことなのだと思う。
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《前回の三題噺》
1.新作発表
2.通販番組
3.スヌーピー
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.春の名物
2.フライングゲット
3.高級クロコダイル革
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[画像協力:さちわ]
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