転生したら誕生日だった件《今週の三題噺発表》
今日は私の誕生日である。見方によっては「新世界に転生した記念日」でもある。うん。落ち着けという声が聞こえる。自分でも聞こえる。
四十何年も生きておいて誕生日に転生とか言い出すのは、だいぶ年季の入った中二病である。中二病もここまで育つと もう病ではなく盆栽に近い。丁寧に水をやり季節ごとに形を整えながら育ててきた結果、「本日、私は新たなる世界へ」とか真顔で言えるおじさんが完成する。
ちょっと思うのだ。誕生日ってそういう日なのではないかって。
だって今日の私は昨日までの私と同じ顔をしているくせに、年齢だけはきっちり年度更新されている。中身は据え置き、バージョン表記だけ上がる(バクだけ増える)。セルフレジで店員さんの手を借りずに自分で自分を「ピッ」と通している感じがある。
「はい、こちら新しい年齢ですね」
「袋はご利用ですか?」
「大丈夫です、昨年の疲れがそのまま入るので」
生活の無人会計が普通に行われている。
昔は誕生日というものに華やかな意味を期待していた。朝起きたら人格が完成しているとか、脳内に賢者の声が聞こえるとか、視界の端にステータス画面が出るとか、そういうのだ。
敏捷性+2、包容力+5、語彙力+7。
ついでに体脂肪率−3。
そういう都合のいいアップデートを私は長年待っている。しかし現実は厳しい。誕生日の朝に起きても、あるのは寝ぐせと軽い眼精疲労と、なんかよくわからない肩の重みだけである。ファンタジー世界への門は開かず、洗面所の鏡だけがいつも通りのテンションでこちらを見てくる。
それでも「転生した」と思うことにする。
そうでもしないと毎年の誕生日がちょっと高めのスーパーで高めのプリンを買うだけの日になってしまうからだ。
それはそれで幸せだけど、もう少し物語がほしい。ある年齢を超えるとイベントを自家発電しないとやっていけなくなる。
今日は新世界1日目である。
昨日までの失敗を前世のこととして処理してしまおう。
これは大きいのではないか。
書こうと思って放置していること。
言おうと思って言えなかったこと。
ちょっと格好つけてスベったこと。
ああいうものを全部、「前世の記憶」として一回たたむことができる。便利すぎて宗教の入口みたいな顔をしているけど今のところ個人利用の範囲に留まっている。
人生にはちょっとした非常口が必要なのかもしれない。行き詰まった時、努力とか根性とか反省とか正面玄関から出ようとすると、だいたい扉が重い。押しても引いても開かない。そんな時に「今日から新しい世界です」と、少しアホなことを言って脇の扉からスーっと抜ける。
そのくらいの逃げ道がないと、人間は自分の真面目さで蒸されてしまう。肉まんの気持ちがわかる年齢に私はもう入っている。
新世界の私は少し自由だ。
昨日まで避けていたことも、今日の私はわりと平気な顔で始められる。なぜなら転生したから。
理由としてはかなり乱暴だが、乱暴なくらいがいい。再スタートなんて、こんにゃくくらい雑に切って鍋へ放り込む感じでちょうどいいのだ。
丁寧に角をそろえていたら、一生始まらない。こんにゃくも人生も少しぶるんとしているくらいが前に進みやすい。
そんなわけで、今日は私の誕生日である。新世界に転生した日である。
まあ、明日になったら普通に昨日と同じことで悩んでいる気もする。その時はその時でまた何か別の名前をつければいい。人はそうやって生き延びている。
少なくとも私はそういうアホな言い訳で、これからもけっこう長くやっていくつもりだ。
《前回の三題噺》
1.セルフレジ
2.非常口
3.こんにゃく
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.鍵の閉め忘れ
2.免疫力
3.ポイントを貯める(※「ポイ活」でもOK)
ハッシュタグ
#木曜日は3ースデイ
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どなたでも参加できます。
締め切りは一応来週7月1日(水)まで。
過ぎても大丈夫です。
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[画像協力:さちわ]
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