note書き手たちが惹き込まれる物語の正体を雑に語る《今週の三題噺発表》
「おもしろい話って、読んでる最中は案外わからなくないですか」
いつもの喫茶店。向かいの男はコーヒーをかき混ぜながら、わりと核心に近いことを言った。
noteでエッセイを書いている(自称)中堅どうし、たまにこういう面倒な会話をする。面倒だが楽しい。楽しいがだいたい途中で誰かの心が少し曇る。
「読んでる途中は、ふつうに読んでるんですよね」と彼は続けた。
「で、読み終わったあとに、なんか……この人のをもっと読みたいってなる」
「わかる」
「でも、その“なんか”がいちばん言えない」
「書き手としては最悪の感想だね。いちばん知りたいところが“なんか”で片づけられる」
私は笑いながら、でもかなり本気でうなずいた。
面白い物語の条件として、よく言われるものはある。キャラの個性や絵が浮かぶこと。展開が読めないこと。これはもう必須だと思う。
キャラが薄ければ会話はただの台本になるし、景色が見えなければ物語は口の中でパサパサになる。展開が全部読めたらそれはそれで安心だけど安心だけで最後まで引っぱるのはむずかしい。
ライトノベルでよくある悪役令嬢の復讐劇が読まれるのも、ただ「令嬢」と「復讐」が便利だからではない。あそこには読者が座れる椅子がちゃんとある。誰を応援して、誰を嫌って、どこで拍手したらいいかがわかる。しかも見たいものを見せてくれるタイミングがうまい。
「それだけだと足りない気もするんですよね」
彼が言う。
「うん」
「条件だけ並べたら、ジェネリックみたいな話はできるじゃないですか」
「出たね、ジェネリック」
「キャラ立ってます、景色あります、伏線あります、ざまぁwwwもあります。はい、おもしろいでしょ、みたいな」
「でも読後に“もう一作”とはならないやつね」
「そうなんです。便利だけど本命の顔してこないやつ」
この感じ、すごくわかる。
物語には条件を満たしているだけでは出ないナニカがある。
回転寿司だと、ネタはどれもちゃんとしているのに、なぜかあの店にはまた行きたくなるみたいな差だ。マグロがマグロで、サーモンがサーモンであることは最低条件だ。でも、また来たくなる理由はそこだけじゃない。流れ方とか、間の悪さとか、たまに手を伸ばしたくなるような光って見える一皿とか、そういうものが全部混ざる。
「たぶんね」と私は言った。
「“この人のをもっと読みたい”ってなるのは、話がおもしろいだけじゃなくて、話し方に惹かれてるんだと思う」
「話し方」
「うん。作家がどういう順番で見せるか、どこでズラすか、何を言わずに残すか。そこにその人の癖が出る」
「物語の中身より、運び方に惚れてる?」
「かなりあるんじゃない?中身だけなら要約で済むこともあるから」
彼は少し黙ってから、変な顔をした。
「じゃあ、我々エッセイ書きが物語に惹かれるのって、ちょっと職業病ですね」
「いや、だいぶ病気だよ」
「怖っ」
「でも誰でも案外そうだと思う。自覚がないだけで」
物語に惹き込まれるとき人は筋だけを追っていない。この人は次にどう言うんだろうを読んでいる。
キャラが立っているのも景色が浮かぶのも展開が読めないのも大事。その全部をどう並べるかに、作家の人格が出る。そこで初めて、ただの“おもしろい話”が、“この人の話”になる。読みおわった後に、「次も読みたい」となる。あれは、物語への満足だけではなく、書き手への信頼なのだと思う。
「なるほどなあ」
彼はコーヒーを飲んで窓の外を見た。
「いい物語って、読み終わったあとに少し人が残るんですね」
「そう。事件じゃなくて、人が残る」
「それ、かなり嫌ですね」
「なんでよ」
「書く側としてハードルが上がるからです」
たしかにそう。
条件をそろえるだけでも大変なのに、その先で「人が残る書き方」をしろなんて言われたら、だいぶしんどい。
でも、たぶんそこなのだ。
面白いかどうかは、読んでる途中には案外わからない。読み終わったあと、皿の数を見てやっとをあれ、思ったより食べてたな」って。
物語も同じで、読後に初めて「あの人の次を読みたい」と思う。その感覚は説明より先に体が知っている。
惹き込まれる物語は、展開の勝利ではなく、書き手の気配が読み手の中に残る物語なのかもしれない。
条件は必要だ。
でも条件だけでは足りない。
その先で、どう語るか。
どこで笑うか。
どこで黙るか。
そこまで含めて、やっと“もっと読みたい”になる。
「じゃあ結論としては」
彼が言う。
「悪役令嬢の復讐劇を、回転寿司くらい気軽に出せるようになるのが理想ですかね」
「だいぶ雑だね」
「でも、また来たくなるって意味では合ってません?」
「合ってるけど、その例えで全部進めるとたぶん怒られる」
「誰に」
「物語に詳しい人と、寿司に詳しい人の両方に」
そう言って笑ったあと、少しだけ本気で思った。読者が求めているのは、よくできた物語だけではない。この人の見せ方なら、またついていきたい。そう思える何かだ。
《前回の三題噺》
1.ジェネリック
2.令嬢の復讐劇
3.回転寿司
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.インク切れのサインペン
2.迷彩
3.連続ドラマ
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